第2回公式イベント 鬼ごっこ14
一瞬でフィールドを移動したプレイヤー。
勿論そこにはスイもいるわけで
「……………スイ?」
「!? グ………グレンさぁぁああん!!」
名前を呼ばれて振り向いたスイが見たのはグレンとデオドールにアレイスターだった。
珍しい組み合わせだが、それよりも見知った仲間が居ることに一気に安堵したスイは走り懐に飛び込んだ。
「あん! 私はアレイスターよ?」
「わざとです」
グレンの名前を呼びながら飛び込んだのはアレイスターだった。
うふっと笑いながらも受け止めてくれるアレイスターにスイは真剣に言う。
何となくだけど、男性だし、ボインだしでグレンとデオドールを避けたスイ。
1番安全と何かが訴えた結果だった。
ちなみに、リィンは男性だが別格である。
「私の所に来ればよかったのですよー?」
フルリと揺れる素晴らしき乳を前にして、スイはそれはナズナちゃんの担当です。と素直に答えた。
「死に戻りしたが大丈夫だったか?」
「…………大丈夫では、ないですね」
首を横に振って答えたスイ。
詳しく話そうとした時に地響きと共に現れたヤツに、プレイヤー全員が恐怖のバッドステータスになる。
「なんだ……こいつは」
「…………こいつです、死に戻りした時に現れた鬼……初めてです……怖くて体の震えが止まらないのは」
「……………」
「デオちゃん、しっかり」
フォレストウルフを見たデオドールはガタガタと震えだし、アレイスターが肩をさする。
まだ距離があるというのに、その恐怖は波のように襲いかかってくる。
フォレストウルフは目の前にいるプレイヤーに狙いを定めどんどん死に戻り、またはゲームオーバーにしていった。
その反則級な強さにトッププレイヤー達も立ち往生してしまう。
そう、ここにはフェアリーロード以外のトッププレイヤー、イオリもいるのだ。
いつも綺麗に笑っているその顔は眉間に皺がより険しい。
スイは空にある時間を確認する。
(残り15分……正直逃げ切れる気がしない)
どうしようか、と悩んでいる時だった。
「…………えーっと、こいつかな?」
急に現れた男性。
クエストと書かれた紙を持っていて、その紙とフォレストウルフを何度も見比べている。
「……うん、外見の特徴も一致してるしこれで大丈夫だな」
うんうん、と頷いたその男性はくるりと振り返りプレイヤー全員を見る。
「あのさ、あのフォレストウルフ討伐のクエスト受けたんだけど倒しちゃっていいんだよね? なんか人いっぱいで不安になっちゃったなぁ」
あははは! と笑う男性は、振り向いた為フォレストウルフの攻撃に完全に背中を向けていた。
茶髪が風に靡いている。
白いシャツにダボついた茶色のズボンに黒のブーツ。
あまりの軽装に似つかわしくない背中にある大剣をものともせず男性は軽やかに動いている。
「あぶな…………い……?」
プレイヤー達は目を見開き、中には武器を握りしめるプレイヤーもいる中、男性は相変わらず笑ったまま背中にある大剣でフォレストウルフの攻撃を防いだ。
「おー、好戦的だぁ」
目だけでフォレストウルフを確認した後、大剣を振り吹き飛ばした。
フォレストウルフは空中で一回転して難なく着地する。
「………倒していいんだよ、な?」
「「「「「「「もちろんです!!!」」」」」」」
恥も何もかもを投げ捨てたプレイヤーが肯定した。
それを見た男性はニカッと笑い「了解!」と元気に答えたあと、腰を落として大剣を構える。
風が吹き男性の足元から舞い上がる。
楽しそうに口角をあげている男性に向かって走ってくるフォレストウルフに向かって、その表情のまま強く地面に向かって大剣を叩きつけた。
ガキィィィィイイイイン!!!
「っうし!! おしまい!!」
距離があるのにその斬撃はフォレストウルフを真っ二つに切り裂いた。
それぞれ外側に倒れたフォレストウルフを見た男性が大剣を背中の鞘にしまったあと、フォレストウルフの方へと行く。
「………おしおし! 綺麗にいったな! 多分肉のダメージないだろ!」
そう言った男性は小さな巾着をおもむろに取り出して巾着の口を開けた。
それは人5人くらい飲み込める位の大きさで、言葉通り半分になったフォレストウルフを飲み込んだ。
遺体が無くなり口を閉じた小さな巾着、体積が明らかに合わないが、あのフォレストウルフを一撃で仕留めた事にプレイヤーは驚き言葉を発することが出来ない。
「いや、なんか邪魔して悪かった! それじゃ!」
「……っ! 待ってくれ! 君は一体………」
男性が立ち去ろうとした瞬間、イオリはハッとして男性に声をかけた。
既に歩き出した男性は立ち止まり首を傾げながらイオリを見る。
「ん? あぁ! 俺はアベル、勇者アベルだよ! 何か依頼がある時は遠慮なく言ってくれな!」
「「「「「ゆ、勇者ぁぁぁあ!?」」」」」
《勇者!?》
これにはプレイヤーのみならず、ゲームマスターも驚いて声を荒らげた。
それにプレイヤー達はえ? と空を見る。
《ちょ……ちょっとまって、何勇者って》
何かガサゴソと探しているゲームマスターは懐からカラフルなタンバリンを取り出した。
それをシャンシャン鳴らしたあと耳につける。
《あ! もしもし!? 僕だけど!!》
「電話代わりかよ!!」
「デケェェェェェよ!! 顔の3倍はあるぞ!」
慌てて電話したのは本部だろう、焦りが見える。
《え!? うん、………うん、わかった》
何がわかったと言うんだ……と固唾を飲んでゲームマスターを見ているプレイヤー。
スイも見ていたが、ふと先程の勇者と言ったアベルを思い出し見るとそこにはもう居なかった。
立ち去った後なのだろう。
「………勇者、か」




