第2回公式イベント 鬼ごっこ8
「蟻さんどこ行くの? あれからはやっぱり逃げた方がいい?」
スイが蟻さんに聞くと、走りながら頷く。
「「「「((((言葉わかるんだぁー…………))))」」」」
蟻さんは空を飛ぶ蝶の場所を逐一確認して移動する。
途中途中にある報酬を見つける度に指さしそれを集めながら。
縄に縛られたレモンとか、絡まり合うカマキリとか、巨大なピンヒールに踏まれて嬉しそうなライオンとか、よくわからない物も多い。
「…………なんか、イベントって感じがしないなぁ」
蟻さんの背中に乗って逃げる、なんだかのほほんとした感じにスイは「暖かいなぁ、春っぽい」とぽやぽやしている。
しかし、それも突如眼前に現れた竜巻の存在に吹き飛んだ。
物理的に。
ザッパーーーーーン!!!
「…………………………」
スイは全身びしょ濡れの状態で噴水の中に座り込んでいた。
俯き頭から大量の水を掛けられた感じだ。
その後チョロチョロと頭のつむじ目がけて水が常に落ちている。
顔全体を髪が覆い表情は分からないが、髪から滴る水滴が肌や服を伝っていってる。
「……………えぇ」
死に戻りしたスイは、呆然と顔を上げた。
周りにはフェアリーロードは誰一人いなく、死に戻りしたのはどうやらスイだけの様だ。
あの時、バリアを全員に張ってはいたが瀕死の状態。
光魔法がダメなスイ以外リィンとセラニーチェにより回復されたが、スイにアイテムを使うまでの余裕がなかったのだ。
「………光魔法の恩恵大事」
ガックリと肩を落としたスイは立ち上がり噴水から出ようとする。
「……え? あれ?」
しかし、噴水は膜が張っているかのようにスイの動きを邪魔するのだ。
「出れない………」
むぅ……と頬をふくらませたスイ。
そういえば、死に戻りしたセラニーチェがすぐには出れないって言ってたな、と納得する。
仕方なく出れるまで待っている事にしたのだがスイは、鬼の動きを見るためにモニターを見た。
まだ仲間たちは戦っているのだから。
しかし、それよりも気付いたことがあった。
「…………モニター増えたぁ……」
2つしか無かったモニターが突如1つ増えた。
それは、鬼の数が増えた証である。
ほかの街と繋がっている光の柱からモワモワと煙が出てきて現れたのはフォレストウルフ。
ただし、森にいるフォレストウルフよりも5倍は大きいのではないだろうか。
太くがっしりとした足が地面に着くたび、アスファルトにヒビが入り陥没する。
その重量が窺えた。
「………ヤバいのきた」
亜種なのだろう、灰色のフォレストウルフは目を光らせながら咆哮をあげた。
「うぅ………」
鼓膜が破れるくらいの衝撃とダメージに、スイは座り込んだ。
噴水から出ることも敵わないため直接的な攻撃を受けていないにも関わらず、一気に体力の5分の1が消し飛んだ。
バッドステータス<恐怖>が着いてカタカタと震えが止まらない。
青ざめ冷や汗をかきながらも視線をフォレストウルフから外せないでいた。
ギュッとハープを抱き締めて何とか意識を保つ。
「こんなの……反則じゃないの?」
既にゲームオーバーになっているプレイヤー達も仲間内で手を握りしめて悲鳴を上げていた。
明らかにやばいやつ。
そして、スイは絶望する。
亜種、フォレストウルフがじっとスイを見ているのだ。
それはもう、早く出てこい食ってやると言わんばかりに舌舐めずりをしながら。




