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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第3章 温泉と食料と疫病
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閑話 スイのリサイタル

「カガリさん」


「んお? どうした?」


テーブルに並べられた骨付き肉にかぶりつくカガリが振り向きスイを見る。


「あのですね、ステージつかっていいですか?」


「ステージか?」


食堂側、ペットと一緒に座れるテーブル席側の一角に広いステージとグランドピアノがあった。

まだ誰にも使われていないその場所をスイが指さす。


「なんか弾くのか?」


「せっかくステージあるから弾きたいなって」


「おー、いいんじゃねぇか?」


「やった!」


パタパタと走りハーヴェイの所に行って


「よっし! 許可とれたよ!」


「取れたんだ、今する?」


「しよう!!」


2人でステージにむかうと、お客さんやクラメンたちもなんだなんだとこっちを見てくる。

よーく見るがいい!!


ハーヴェイはピアノに座り、少し音を鳴らす。

スイもヴァイオリンを出して弦の調節をしながらチューニングをしていると、お客さんがヤジを飛ばし出した。


「おー、なんだなんだ! リサイタルでもするのか!?」


「リサイタル!! ジャイ〇ンか!?」


そんな声を聞きニヤリと笑うスイ。

お? と客がスイを見ている時、クリスティーナが慌ててカウンターにでてきた。


『! スイ弾くの!?』


ワクワクしながら言ったクリスティーナ。

お客さんがA定食2つ! と言ったが、クリスティーナは後でね!! と叫ぶように言った。


「後で!?」


「えぇ! クリスティーナさん!?」


客と清水がビックリしていると、新しい客が入店。

ザワつくフェアリーガーデンに、ん? と首を傾げた時だった。


~~~♪~~~~~~♪


「「「「「「「「「「ぶふぅ!!!」」」」」」」」」」


タンタンタンタンタンタン~タンタンタンタンタンタン〜


「ファミマか!!」


ファミマ入店時のメロディをヴァイオリンで奏でたスイにツッコミが入る。

テヘペロ


「それじゃあ、皆様どうぞ聞いてくださーい! ハーヴェイさんとのラブラブ演奏でーす!」


「ラブラブじゃないですもん」


スイの言葉に頬をパンパンに膨らませるリィン。

そんなリィンの頬をセラニーチェが人差し指でプシューと空気を抜いた。


...♪*゜...♪*゜...♪*゜...♪*゜...♪*゜...♪*゜...♪*゜


「……お、おおぅ……」


食事中のプレイヤーが引きつった笑いをしたが、次第にその演奏の技術に顔を緩めたり、真剣に聞き入っていた。


そう、大きな栗の木の下でから始まり、エヴァン〇リオンや、創聖のア〇エリオンなどアニメメドレーが続く。

なぜ、NPCのハーヴェイが知っているんだ! と目を見開いていたが、その楽しそうに弾く2人の様子にまぁ、いいか! と笑っている。

体を揺らして楽しそうに弾く2人は時々目を合わせて笑いあった。


曲は素晴らしい。

だが、2人にむむむ……とまた頬を膨らますリィン。

今度はカガリに頬を強く潰されタコのような口になっていた。


「……なにしゅるんでふか」


「不細工な顔してるぞ」


「しゅつれひな」


頬を潰されたまま会話する2人を、クリスティーナがニヤニヤと笑って見てからスイに視線を向ける。

それはそれは幸せそうに笑って見るから、クリスティーナに気付いたプレイヤー達は顎が外れるくらいに口を開き驚いていた。


「(ク、クリスティーナが聖母様に見える……だと!?)」


「(まて! あれは、あれはバケモノ人魚だ!)」



「………ふぅ」


久しぶりに数曲気持ちよく弾き切ったスイは、軽く汗を滲ませながらも笑顔で頭を下げた。

ハーヴェイもふわりと笑っている。


そんな様子にアンコールの声が聞こえて、スイがアンコールかぁ……と考えている時だった。


「はい! アンコールはスイちゃんの美声で歌う歌が聞きたい!!」


タクが高らかに手を挙げて言った。

それに乗ったプレイヤー達もいいぞ! と声を上げる。


『え!? ちょっと待って!!』


聖母様のような顔をしていたクリスティーナが鬼の形相に変わる。

そして止めるまもなく


「えー、歌ですかー? 上手くないんですけど……じゃあ、1曲だけ……」


どこからともなく現れたマイクを握りしめてスイは咳払いをする。

クリスティーナが止める暇もなく、ピアノ伴奏が流れスイは歌い出した。


「<≧✰☆#♡☆(-@☆*!@*.?。#{[*#@&,]})」


「ぶふぅ!?」


「ごっ!」


「ぎゃふ!!」


「☆..-☆?[(☆)]」


スイが歌い出したことにより、爆音と共に頭がぐわんぐわんし始め全員が倒れる。


「な………なん、だ?」


「え……スイちゃ……ん?」


「目がまわりますぅ………」


椅子に座るお客達はテーブルに体をあずけ、立っていた人達は全員もれなく床に倒れた。

いや、クリスティーナだけが1人立っている。


クリスティーナは無言で鑑定する。

そして、深く深く息を吐き出した。


「クリスティーナ……どうなってるんだ?」


カガリが頭だけ上げて聞くと、クリスティーナはフッと笑った。


『ステータス、見てみて』


「ステータス……ですか?」


聞こえていたプレイヤー全員がステータスを開いて見てみる。


バッドステータス・混乱


「!?」


「…………え」


「なんで……」


『原因、知りたいですか?』


そのクリスティーナの言葉に自然とスイを見る。


「……あれは本気か?」


『真面目に歌ってますよ。…………………音痴ですけど』


「…………奏者だろぉぉぉ……」


そう、スイは物凄く音痴なのだ。

音楽を長年していたが、歌唱の才能は少しも無かったようだ。

寧ろ雑音以外の何物でもない。


そんな凄まじいスイの破壊力を持って、天然のバッドステータスを付けた。

さすがサポート特化、こんな所で効果を発揮している!

少しも嬉しくないのが残念なところだ。


「クリスティーナ……なんで平気?」


手を伸ばして聞くナズナに、クリスティーナは遠い目をした。


「………私リア友ですもの……………慣れって残酷よね……これに動じなくなるんですから」


あの聖母様の様な顔をしていたクリスティーナが鬼になったあと、さとりを開いたお釈迦様みたいになっている。

なぜか、眩しいものを見るような目でクリスティーナは近くにいるプレイヤーから憧れの眼差しを受ける。


すごい、この歌に耐性があるなんて。

最強だ!!


嬉しくない賛辞である。








こうして、殺傷能力抜群のスイによるリサイタルは幕を閉じた。

好評だったスイとハーヴェイによる演奏は定期的に開かれる事となったが、カガリ率いるフェアリーロードはもちろん、その場にいたプレイヤー全員に今後歌は歌うなと口が酸っぱくなる程言われて縮こまるスイだった。



「……………歌うの好きなのに……そんなに下手かな……」


「ノーコメントで」


呟くスイに、ハーヴェイは困ったように笑った。

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