新たな難題
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ハーウェイが、フェアリーガーデンに来てから3日後。
スイは自室でクエストクリアの画面をじっと見ていた。
穢れた龍のクエストクリア報酬に、堕天使専用のクエスト報酬というのがあったのだ。
勿論、ハーヴェイの事ではない。
「これ……なんだろう」
クエスト報酬「???」
この表示はずっとこのままで変わらないのだ。
普通だったら既に受け取っている筈なのに。
「………………もしかして」
この穢れた龍、そして疫病が広まったクエスト。
これに関わった最初のクエスト、色々あって頭から抜けてしまっていたが、スイが受けた堕天使専用のクエストはまだクリアしていないのだ。
そう、あの屋敷のしゃれこうべな執事との会話。
スイはまだやりのこしている。
立ち上がり屋敷に向かおうとした時、思い出した。
「………公式イベント明後日じゃない?」
もう一度座り背中を預けた。
「ダメだな、今から屋敷に行ったら絶対クエスト始まっちゃう。そうなったら公式イベント間に合わない可能性が出てくるから……イベント終わったあとかな。お屋敷」
はぁ………吐息を吐き出したスイは新しくサーヴァから受け取った人魚のハープを装備して持った。
調節のために預けていたハープは綺麗に磨かれて返ってきた。
しかも、イルカのチャームを付けて。
受け取りの時にイルカのチャームを人魚のハープに取りつけたと知ったスイは、感激してギュッと抱き締めた後、サーヴァに飛び掛ったのだった。
「……………良かった、本当に良かった」
そう言って撫でたハープ。
床に置いてあるそれを優しく掴み、今度は壊さない。
そう意気込み持ち上げようとした時だった。
「…………え?」
あの軽々持ち上げていたハープが一切動かないのだ。
まるで巨大な岩を指先で持ち上げろと言われたような感じだ。
「え?……なに? なんで?!」
ぐっ……と力を入れて持ったら普通に持ち上がった。
しかし、重さはイルカのハープよりも重い。
貰った時も、調整後に受け取った時も、こんな事はならなかった。
なんで? とパニックになりそうな自分を落ち着かせる。
そこで、ある疑問が出たのだ。
「………右手は普通通り、左手で持つのは重くて上がらない……」
すなわち、先程ハープを持ち上げたのは右手1本で持った事になる。
「……なんでいきなり、どうして……」
ハープを持てない。
それはスイの戦闘スタイルには致命的な事だ。
なぜ? どうして……
それだけが頭を巡るスイだったが、この10分ほど後にその理由を知ることになる。
《やぁ! プレイヤーの諸君、ゲームを楽しんでいるかい?》
突如響いたゲームマスターの声にスイは弾かれたように部屋を出た。
賑わっていた食堂もザワザワと騒がしくフェアリーガーデンを出ていき建物の外にでるプレイヤー。
そこには当然フェアリーロードもいて、スイも一緒に外に出た。
「……スイ」
「ナズナちゃん!」
新しい服に身を包んだナズナが、キュッとスイの手を握った。
握り返して空に浮かぶゲームマスターを見る。
毎回ホログラムで大きく映し出されるゲームマスターは今回もあぐらをかき、手を組んでいた。
《やぁみんな! 今回はお知らせが2つあるよ! どっちも大事な話だからよーーーく聞くように!! まずはね…………》
大きく息を吸い込み、深呼吸をしてから口を開いた。
いつもよりも真剣なその様子に、スイは眉を寄せる。
《………医療処置を受けているプレイヤーについての話をみんなは覚えているよね? その事で少なからずパワーバランスが崩れているのを運営は把握している。だからこのギアを作った会社と話し合いをする機会を作ったんだ。体内データをほぼ完璧にとるギアを作るまでに数十年、それを使ってのゲームだから作り直す事は不可能。だけど、そのパワーバランスを軽減させる事に成功した。完璧に戻すことは無理だったから何か一つ。例えば脚力、例えば腕力。そんな感じで数値を減少させているよ。勿論、常識的な範囲でね。というか、完璧に戻すことは技術的に無理って言った方が正しいかな。
これによって体を動かすことに違和感を訴えるプレイヤーが出るかもしれないけど…………》
ゲームのパワーバランスを図るために、そこは上手くならして。
ゲームマスターの言葉にスイは愕然とした。
そっと左手を触るスイを、クリスティーナやリィンを始めとしたフェアリーロードが見ている。
そうか、さっきハープを持てなかった理由がこれか。
たぶん、腕力の数値が下がったのだろう。
でも、左手だけ? 右手は?
軽く首を傾げる。
それにしても、
「………どう……しようかなぁ」
「スイさん?」
「………んー」
うんうんと頭を悩ませるスイ。
今までとは違った戦闘になるのは目に見えていた。
じゃあ、ハープが持てない状態でどうやって戦えばいい?
《じゃあ、次は2個目ね! イベントが数日後に控えた第2回公式イベントについて! 今回はサバイバル鬼ごっこ! ちょっと趣向を変えてみたよ、みんなに楽しんで貰えるように色々考えたんだ! これから夏だからね、ちょっとホラーテイスト!! ぜひみんなで協力して逃げ切ってね! 参加条件は建物からでてどこかの街にいること。これだけだよ! アイテムなんかの持ち込みは自由だから万全の体制で挑んでね! あんまり話したら楽しくないだろうし、詳しい内容は当日に話すからねー! それじゃあまた! イベントの日に!
良いゲームを!》
「……………なんつーか、運営も適当だなぁ」
「サバイバル…………私の足が火を吹くぜ」
「ナズナ………あんたねぇ」
「サバイバル鬼ごっこ、どんな内容なんですかねー」
『うーん………どうなんだろ。今回は対策考えにくいなぁ』
「………………………」
「どうした?」
「スイちゃん?」
「…………………………ちょっと考えないといけない事が出来ました」
思い思いに話す中、グレンとタクが険しい顔をするスイを見て言った。
唸るように答えたスイは、1度ログアウトしますねーと言って自室に戻っていく。
「…………スイちゃんさ……運営の言ってた……」
「タク、詮索は無粋だぞ」
「………わかってるよ」
「でも、スイちゃんのステータスがなんか変わっているならイベントまで残り時間少ないじゃない? 調整を考えるべきかしらね」
「どう聞くんだよ、アレイスター。お前の腕力落ちてるからこれからどうするって聞くか?」
「………………カガリ、デリカシーない」
「お前には1番言われたくねーよ!?」
男性陣がプルプルとある場所を抑えている。
タクは真っ青だ。
首をかしげて、なぜ? と言うナズナにデオドールは、あらあらとコロコロ笑った。




