穢れた龍 4
リィンが死に戻りした後、スイは呆然としていた。
そんなスイの頬をクリスティーナが叩く。
「動いてスイ! リィンちゃんが作ったチャンスを活かさないと! 必ず! 勝つの!!」
リィンの攻撃と光による目潰しで龍は咆哮を上げる。
片目に剣が刺さったまま暴れる龍を呆然と見ていたスイはハッとしてすぐに3人にバフを掛けた。
ファーレンは龍を押さえ込み少しでも暴れる龍を静かにさせ、その間にスイは羽ばたき龍の眼前に来る。
「っこっの!!」
強化したハープで一撃、クリスティーナが爆発範囲の狭く一点集中する砲撃を撃ちスイの肩をかすりながら龍の目を潰した。
これで両目が潰れたことになる。
クリスティーナの攻撃が肩を掠めたスイは痛みに一瞬顔を歪めた後、そのまま龍に攻撃をしようとするが、龍の穢れが満ちた爪が真っ直ぐスイへと向かってきた。
攻撃モーションを無理やり止め、ハープで爪をおさえる。
しかし、無理やり攻撃モーションを止めてからの防御の為ハープが斜めの状態で爪が当たり弦が弾け飛んだ。
そしてミシリ………と嫌な音がする。
ミシ……ミシ…………バリィィィィイイン!!!
強く長い爪の攻撃にスイのハープは粉々に割れ、イルカのチャームがコツン……と地面に落ちる。
風が吹き髪がぶわりと動く、そのスイの顔は怒りに充ちていた。
「………リィンさんのみならず、ハープまで……」
キッ、と睨みつけてヴァイオリンを装備したスイはすぐに武器を展開する。
短剣だった武器は長剣に変り動きも以前より俊敏だ。
「っ! しね!! バカ龍!!!」
一斉に長剣が龍に向かい飛び交う。
刺さる瞬間ファーレンは離れ全ての剣が刺さった龍は咆哮を長く長く上げた。
刺さる剣から大量の血液が流れ地面を汚していく。
咆哮も止まり動かなくなったが消えない龍、禍々しい雰囲気をそのままに。
「……………クリアでてないし、まだよね?」
「……うん」
クリスティーナが、ん? と首をかしげて言い、スイは頷く。
そしてクエスト画面を開いた。
「…………浄化?」
そう、クリア条件は穢れた龍の浄化、討伐ではないのだ。
その為か、ゲージはほんの少しだけ赤く残っている状態で龍は首を垂らしている。
スイは周囲を見渡すと、一番最初に取ったお札が目に付いた。
それを取りに祠に行き3枚手にする。
「これ、かな?」
それらしきものはお札しかないのだ。
そっと龍の顔に3枚のお札を貼ると、お札から白い光が漏れだし龍を包み込んだ。
「…………わぁ」
足元から光り輝き禍々しい雰囲気は一気に神聖なものへと変わっていく。
そして龍は浄化され背中に真っ白な翼が生えた。
腐敗した体は綺麗な筋肉が着いた龍の姿に変り、潰された目も元に戻っている。
龍の足元には目を潰した剣がガツン……と音を鳴らしながら落ちた。
« Congratulations!!
クエストクリア!! »
「はぁ………終わったぁ」
「「くまぁぁぁぁ!?」」
「今更ぁ!? 俺だよ! ファーレン!! 武器向けんな!!」
巨大な熊が剣を拾い上げ声を上げた。
それに促されるように顔を向けたスイとクリスティーナは目が飛び出る勢いで驚き声を上げたのだった。
「リィンさぁぁぁぁああん!!!」
噴水広場の入口からスイは全速力で走る。
その声に気付き振り向いたら、泣きながら両手を広げて走るスイを見た。
「スイさん!!」
「リィンさぁぁぁぁああん!! 無茶しないでくださいよぉぉぉ!! 心臓止まるかと思ったァァァ!!!」
「本当よぉぉぉ!! なんで自爆なんてぇぇ!!」
「俺が挑発でちゃんとタゲ取り出来なかったからぁぁぁ!! ごめんなさぁぁぁぁああい!!!」
スイの後にクリスティーナとファーレンも続きリィンに突進する。
きゃぁぁ!! と悲鳴を上げて転がるリィンにのしかかる3人だが、リィンを離すどころかしがみつきわんわんと泣いた。
そんな3人にリィンもじわりと目を潤ませて
「っ心配かけて……ごめんなさい!」
4人で倒れ込んだまま泣き謝る珍しいフェアリーロードのクラメンが見れて、たまたま居たプレイヤー達はなんだなんだと集まってきていた。
「とりあえず、クリア出来て良かった」
『えぇ、ほんとうに』
人の姿に戻ったクリスティーナがぐすり……と鼻を鳴らしながら同意した。
リィンは途中で死に戻りした為クリアとはならなかったが、クエストは無事終了。
《新エリア、天空庭園への扉が開かれました。場所は第3エリア。場所を見つけ門番を倒した方だけにその扉は開きます。繰り返します…………》
「あ、ワールドに流れたね、運営さんの情報」
「たぶん門番ってあの龍だね」
「え? 穢れた龍ですか?」
『ううん、あの龍を浄化して守護龍が生まれたんだよー。翼が生えてる真っ白い龍』
「そうなのですか……」
新たな情報が流れ、最前線を進むプレイヤー達はそれに喜び叫んでいる。
しかし、公式イベントも近い。
イベント後に天空庭園を探すプレイヤーが現れるのは目に見えていた。
「私達もイベント終了後行ってみますか?」
「それもいいな!……またあの龍と戦うのはキツイけど」
はぁ……と息をつくファーレン。
自分の力不足でリィンが死に戻りした事にこたえているのだ。
ああぁぁぁぁ……と項垂れるファーレンに、リィンは苦笑して背中を軽く叩いた。
「次は皆で来ましょう、ね?」
「………うん」
はぁ……吐息を吐き出して気持ちを切り替えたファーレンはスイに向き直った。
「スイ、これ」
「…………あ」
手渡されたのは砕けたハープに着いていたイルカのチャーム。
ファーレンがたまたま見つけて持ち帰っていたのだ。
砕けたハープは光になって消えたので唯一残ったイルカを受け取りギュッと握りしめた。
「イルカ……」
『……ハープ、壊れたのよ』
「え!?………そうなんですか」
ハープが壊れた事を初めて知ったリィンは眉を寄せながらスイを見た。
握りしめたイルカのチャームをじっと見るスイを。
「…………ありがとね、ファーレン」
最初からずっと一緒にいた大切な楽器。
ありがとう、ずっと大好きだよ。
笑いながらイルカを撫でるスイは静かに涙を流した。




