穢れた龍 3
今までの攻撃は爪、尻尾、破壊光線、そして魔法。
空を自由に飛び、腐食した肉片が落ちるのを避けながらも龍の動きを見つめ続けたファーレンは龍の動きに規則性があることに気付いた。
爪や尻尾は通常攻撃。
破壊光線は1割ずつ削れる度に攻撃が繰り出されていた。
そして今回の魔法を撃ってから龍はスイたちの動きを見るかのように一切の攻撃を止める。
そして、龍の口が開いた。
攻撃に備えて構えた4人だったが、
《…………なぜ》
「え?」
《…………………なぜ、兄上ばかりなのだ。兄上の幼少期、体が弱かったからみんな兄上を見るのが今の僕ならわかるけど……でも、僕だって見て欲しかったのに。父上、母上………兄上………もっともっと、僕を見てよ……………僕を……見てよ!!》
まるで悲鳴の様な咆哮と共に響く青年の声。
身体中に悲しい、寂しい、虚しい、なんでなんでなんで…………………………
ぐちゃぐちゃになった感情がスイ達に襲いかかる。
受け止めきれないその感情に、自分達の気持ちも落ち着くことは無い。
バッドステータス、混乱
龍は、初めて触れたあの弟の感情を取り込んでいた。
今穢れた龍は、あの弟なのだ。
触れ合いが極端に少なく、親の愛を兄弟の愛を受けられずに育った哀れな青年はその心を成長させることなく疫病を蔓延させた。
ただ一心に、見つめ続けられた兄が自分を見れば満たされるのではないか。
誰にも言えない気持ちを、感情を抱えて反発していた。
「っ……………どうなってるの?」
頭を抑えて言うクリスティーナに、ファーレンは唇を強く噛んだ。
「っ……ティアーズ!」
「………あ」
リィンが杖を地面に叩きつけ唱えたのは状態異常回復。
ただし、50%の成功率である。
ファーレンとリィンが復活、スイ号泣中。
泣き崩れるスイに抱き着き一緒に泣くクリスティーナ。
カオスである。
«グルルルルルル………»
龍が唸りを上げて4人を見ている。
ファーレンは盾を自律起動させて剣を握り龍を睨みつけた。
リィンはバリアを張り、状態異常回復ティアーズのクールタイムが終わるのを待つ。
早く……早く……と願いながら。
そして、龍が動き出した。
体をくねらせ腐肉を飛び散らせ咆哮を上げながら、ファーレンへと突進する。
盾の熊は手をパシィィンと打ち鳴らし、ファーレンに代わって龍の突進を抑える。
その隙に龍の片目を抉るように剣を突きつけたファーレン。
かなり効いたのか悲鳴をあげて体をしならせた。
「うわっ!!」
剣が刺さったままのファーレンも一緒に振り回され腐肉が体に着く。
ジュっ……と音を立てて溶ける新しい装備に内心叫び声を上げるが、これが以前と同じ物なら今より3倍のダメージはあっただろう。
「っ! あ………」
リィンはファーレンに回復を掛けようとする。
しかし、ヒールでは追いつかないダメージに下唇を噛みながら唱える準備をした時だった。
ある呪文アイコンが点滅していた。
「っ! よし! ヒーリングライト!!」
「ありがとうございます!!」
仲間単体の体力中回復、さらにリジェネと光の加護、付与がつく。
ファーレンの体力が半分以上一気に回復して、その後もジワジワと回復を続け体が発光している。
土壇場になってそれを覚えたリィン、習得条件は住民250人の回復。
通常の中回復魔法は、スキルでも派生でも習得出来るが中回復とリジェネと光の加護、付与は特殊スキル扱いなのだろう。
今回の疫病イベントが無ければリィンのヒーリングライトの習得は無かっただろう。
だがしかし、これによりタゲ取りしてしまったリィンに龍の視線が向く。
「やばっ!!」
ファーレンはそれに気付き剣を手放しジャンプして地面に着地、そのままでは間に合わないと分かり挑発をしながら強く強く願った。
「…………真実の姿よ、具現化せよ!!」
ファーレンの胸が光り、それは全身を一気に包んだ。
そして光が収まった時、ファーレンの姿は無く1匹の巨大な熊へと姿を変えている。
その巨体からは想像もつかないスピードでリィンを守るべく走るファーレンだが、龍のターゲットは挑発したにも関わらずリィンから外れる事は無かった。
それ程までに、リィンの使ったヒーリングライトの力は強く敵の気を引いてしまったのだ。
リィンは冷や汗を掻きながらバリアと光の加護を全員に掛け、クールタイムが終わったティアーズを直ぐに唱える。
「リィンさん! やめて!! タゲ取ってる状態で魔法連発したら逸らせない!!」
ファーレンが必死に挑発を重ねがけしながら言うが、リィンは冷や汗をかき青ざめた顔をしながらも笑っていた。
眼前に来る龍を見ながら杖を構えて、笑っているのだ。
「…………あれ」
「…………………ん?」
スイとクリスティーナがティアーズによって状態異常を回復、目を瞬かせた2人はリィンと龍の姿を捉える。
「え!?」
「まじか!!」
2人も直ぐに羽ばたき、貝殻を浮かせてリィンの元に向かうがそれも間に合わないのはリィン本人が1番よくわかっていた。
「………あと、お願いします!!」
杖を掲げてそう言うリィンは小さくある呪文を唱えた。
リィンの体が、杖の先端が光り出す。
ベータ版の時も今回も忘れずリィンが習得した魔法。
「タダでなんか、殺らせてあげませんから!」
そう叫んだ時に爆発が起きる。
僧侶が唯一習得出来る最大威力の攻撃魔法
「っ!……………………じば…………く?」
スイがそこに居たはずのリィンの姿を探すがどこにも居ない。
呆然と呟き、フワフワと羽ばたいているだけだ。
それはクリスティーナも、ファーレンも同じである。
龍はリィンの自爆に巻き込まれレッドゾーンまで体力ゲージを削っていた。
第3の街、噴水広場。
光の柱を立てながらリィンは姿を現した。
そう、死に戻りである。
はぁ……吐息を吐き出してステータスを見るとどれも数値が下がっていた。
死に戻りによるペナルティだ。
「なんどもやる魔法では無いですね」
やれやれ、と息を吐き出したリィン。
この自爆は今回のように避けようの無いタゲ取りをしてしまった時用の最終手段として習得したものだった。
ベータ版含めて使用した回数3回。
爆発に巻き込まれる恐怖は最初の1回だけだった。
なぜなら、体が光った瞬間死に戻りしているからだ。
「……………最後までお付き合い出来なくて残念です。……頑張ってくださいね、スイさん、クリスティーナさん、ファーレンくん」
青空を見ながら小さく微笑みそう言ったリィンは、今まさに戦っている3人に思いを馳せた。




