奏者の心得(2)
スイは町の中心、噴水広場に佇んでいる。
地面をじっと見て手を握りしめているその様子は少し異様で他のプレイヤーが遠巻きに見ていたが、スイは気付くことが出来なかった。
さっき起こったことをスイは何度も何度も頭の中でリピートして、その度に表情を険しくする。
ふっと顔を上げて地面を強く踏みつけるように歩き出したスイは目的地に着くまで手が緩むことは無かった。
今から1時間前の事。
初心者の森、スイはそこに一人でいた。
5人でパーティを組んでこの森の最奥に行った時スイはただ見ているだけで経験値とドロップを手に入れた。
これは、今後このままではいけない。
このゲームに戦いは避けられない。
スイは一人で森に入っていったのだった。
楽器ハープを手に森の中を歩くスイの歩行が止まる。
レベル5跳ねうさぎ
目の前には真っ白なウサギが草を食べている。
頭の上には赤のアイコンがあった。
「……敵」
ぎゅっとハープを握ると、跳ねうさぎはスイに気づいて体の向きを変える
前足を上げて後ろ足で立つ跳ねうさぎは、いきなり走り出し高く高くジャンプする。
スイの真上にジャンプした跳ねうさぎは宙で1回だけ回転してからその落下速度のままかかと落としを繰り出した。
スイは後に下がってそれを避けるとウサギが着地した地面に小さなクレーターが出来る。
「う、嘘でしょ……?」
冷や汗を流しながら見たスイは跳ねうさぎに視線を向ける。
また走り出した時だった、今度は前方にジャンプしてそのままスイに体当たりをする。
吹き飛ばされたスイは痛みに顔を歪めながら前を見ると跳ねうさぎの足がドアップにみえる。
ブラックアウト
次目を覚ましたのは噴水広場だった。
スイは横たわり地面に倒れている。
むくりと立ち上がり服の埃を叩き落とすと、自身の頭の上にある名前、その下にある体力ゲージの端がグレーになっている。
死亡ペナルティで最大値が減っているのだ。
同じく所持金も減っていた。
「……うさぎに負けた」
ぎゅっと手を握りしめてスイは呟いた。
見ているのと実際に戦うのとは雲泥の差だった。
ゲーム、しかし全ての感覚が現実と同じ状態である今
初めて凶暴な動物の前に出されたら誰だって恐怖も覚える。
うまく動かない体は結局体力を0まで削っていった。




