蟻さん再び
「わあぁぁぁぁぁ!?」
「きゃーーーー!?」
「スイ! リィンさん!!」
『ちょっ! なんで今のタイミングでぇ!?』
リィンとスイが手を繋いでほんわかした瞬間である。
2人の足元が渦を巻き始めた。
ファーレンとクリスティーナは直ぐに気づき離れたが、2人は手を繋いでいて逃げようとした瞬間にリィンが足を取られた。
2人して転んだ時にはもう這い上がれない所まできていたのだ。
そう、
モンスター、蟻地獄である。
ちなみに補足だが、スイは最近まで蟻地獄は下に蟻がいるのだと思っていたが、蟻を捕まえるための罠だと知った。
つまり、ここに居る巨大な蟻を捕まえる為の蟻地獄だから大きいし下に居るモンスターも大きいのだ。
リィンを抱き抱えたスイが、下を見ると
ジャキン! ジャキン! ジャキン!
「…………いやいやいやいや! 違うだろ!!」
巨大クワガタが顎をジャキン! ジャキン! している。
なぜクワガタ。
「なんでクワガタ……だよね!? デカすぎるし近いから全体が見えない!!」
「これ、どうするんですか!?」
砂に足を取られて立てないし、目の前ではジャキン! ジャキン! してるし。
上でファーレンが盾から鎖を取り出しクワガタの胴体に巻き付かせ針を刺す。
しかし、顎は拘束されていない。つまり
ジャキン! ジャキン! ジャキン! ジャキン!
「ぎゃーーー!! 顎もちゃんと拘束しろくださーい!!」
『愛のぉぉぉぉぉ!!! ウォーターウェーブ!!!』
「ぶっふぉぉぉ!! ❀✿・?&@∧″&¥℃ディアンゴ!!」
「ひゃっ!! ℃・✿@℃∧?″&❀へぶらいか!!」
クリスティーナがしたのはかなりの水量の津波を起こしスイやリィン諸共蟻地獄を流したのだ。
クワガタはこの津波で1発KO、吹き飛ばされたスイ達はレッドゾーンまでダメージをくらいながらも助かった。
砂漠に倒れ込む2人は巨大蟻の足元に到達。
「……………………………」
「「…………………………………」」
蟻とリィンにスイ。
黙って動くことなく見つめ合う2人と1匹。
蟻が動いた!!
懐に手を入れた!!
「「…………ありがとうございます」」
アイテム、«蟻さんの飴玉スペシャル×5»
蟻さんの飴玉スペシャル
蟻さんが哀れんだ時に出されるスペシャルな飴玉。
全てがナシ味。
蟻の長細い足でそっと2人の頭を撫でてから歩いていく蟻さん。
ちなみに、数少ないステータスを撫でた事でまた少し減っている。
「……………蟻さんカッケー」
飴玉の袋を抱き締めて言うスイ。
声が聞こえたのか蟻さんは振り向かず手を振って消えていった。
なんだよ、ただのイケメンか。蟻だが。
スイはパクリと飴を食べるとナシ味で驚く。
レアと聞いていたからだ。
かなりのスピードで回復していくステータスに驚き、ナシ味の飴を凝視した後リィンの口に飴を突っ込んだ。
しかし、これで蟻さんの飴玉袋ごとがまた手に入ったことになる。
ここの蟻さん優しすぎか。
『大丈夫ー!?』
「助かったけどやりすぎー!!」
『ごめーん! でも私のレベル上がったー』
「おめー」
『やっぱり愛の力は偉大よねー!』
あぁん! と両手を上げてクネクネしながら回るクリスティーナ。
健在である。
こうしてドタバタしながら地龍の住む村に到着。
あの、血まみれの地龍が倒れていた場所だ。
入口には人族よりも半分くらいのサイズの兎の獣人が立っていた。
「やぁいらっしゃい! ここは地龍の村だよ! 今ちょっとバタバタしてるからあんまりお・も・て・な・しはできないんだ。ごめんね」
「………いえ、それはいいんだけどどうしてうさぎさんがここに?」
「ピンチヒッターだよ? 人がいなくてさ」
「そっかーーあの大きな兎族とは違う感じかな?」
「種族? うん、僕らはミニウサギ族だからねー。愛玩動物的な存在だよー」
「そっかーそっかー、愛玩動物かー、そうだねーもふもふしてるもんねー………連れて帰りてぇー」
「えぇ? 僕を? どうしよっかなー」
獣人たちは総じてノリが良いのだろうか、このミニウサギ族の男の人も両手を腰に当てて胸を張りながらスイを見た。
「どうでもいいけど、大の大人の男の耳とか触りまくっちゃだめだよー?」
「えー??」
実は会話中スイはずっとミニウサギ族の男性の耳を触り続けていた。
クニクニクニクニクニクニ
そんなスイの後ろにはクリスティーナが並んでいる。
順番待ちらしい。
「さぁ、中へどうぞ」
ちゃんとクリスティーナが触るまで待っていてくれたミニウサギ族の男性はニコニコしながらも促してくれた。
「…………………………」
「…………………………………」
ザワザワとしながらも片付けに走り回るミニウサギ族やクマ族など、休む暇なく動き回っている。
かなり被害が多かったこの村。
たぶん、ここが初めての感染者がいた場所なのではないだろうか。
片隅では人が入っているのだろう袋が山積みにされていて祈りの後魔法で火を放っていた。
傍らには泣き崩れる村の住人、家族だろうか……。
1回では終わらず何度も何度も火葬が繰り返されたのだろう。
村とはいっても住人はかなり多いようだ。
しかし、今ではその人数も半数以下になっている。




