疫病の始まりと治療方法
急いでエルフの里に帰るスイ達の頭の中には多大な情報が押し寄せていた。
頭痛が起こり飛行中フラフラとする事もなんどもある。
だが、その情報に全員が驚きとも取れる感情がひしめき合う。
「………………なんてこった」
クリスティーナに抱えられるファーレンが深く息を吐き出しながら呟いた。
精霊が教えてくれた内容のうち、疫病の解決策はスイとリィンがいれば第4段階以上の人ももしかしたら助かるかもしれない事が判明する。
第1段階から第3段階までは今まで通りダークフェアリーライトで治すことが可能。
だがやはり、第4段階以上は難しい。
そこで、精霊が提示した回復方法。
濃度の高い闇属性の聖水を作りだし、そこに光属性の高難易度回復魔法、フェアリーライトダイスという魔法と合成して光と闇のどちらの性質も持つ聖水を作り出して飲ませる。
量は小瓶1杯分で100人単位の回復が見込まれる。
この聖水の作り方も転送された為、作り方はわかった。
しかし、これでは完治はしない。
症状の緩和なのだ。
第4段階よりも軽い状態に症状を戻してからダークフェアリーライトをかける。
この聖水で第3段階までに戻すことが出来なければ、もう手の施しようはない。
そして疫病、神話の話。
神話は世界の創設からの話でそんな昔から居る穢れた龍が何故200年前のあの時に封印が緩んだのか。
そんなに昔から居るのなら、もっと早く封印が緩んでもおかしくない。
もしくは頑丈に封印されていてその時まで緩むことすらなかったのだろうか。
その答えは精霊からの情報に載っていた。
200年前の女性が疫病にかかった、その20年前から話は遡る。
第3の街、ホワイトライスケーキ。
今から700年前、街は広大だった。
今より3倍は広いだろう街はまだ王が存在し、貴族が街を支配していた時代の話である。
貴族の中でも特に裕福で王に近い位置にいたその貴族は自分の地位を笠に着て悠々自適に生活をしていった。
何代も、何代もその状況はつづいてはいるのだが街は少しずつ衰退の一途を辿った。
栄えていたその時にいつまでもしがみつき、貴族は裕福な生活を手放したくないと税を上げる。
そして遂に、400年前に王政は無くなり貴族も平民もない平等な街へと変革する。
納得など出来ない貴族はその生活に齧り付いた。
しかし、街の縮小で家を泣く泣く捨てる貴族たち。
そうしないと、魔物が蔓延るフィールドに取り残されるからだ。
こうして、王政が無くなったあと200年かけて今のホワイトライスケーキが生まれた。
しかし、 貴族としての屋敷は手放したがその思想が受け継がれた家があった。
王の地位に近い、あの貴族の末裔である。
その家には双子が生まれた。
兄と弟。
家族は既に市民として生活しているのに、弟には選民意識があった。
自分は特別なんだ、周りは僕にひれ伏すのが当たり前なんだ。
弟はほの暗い笑みを称えていた。
そんな弟が唯一許せないのが自分の兄だった。
周りに好まれ愛される兄。
他よりも多少裕福ではある為、数人の使用人を抱えているのだが全員が兄を見ていた。
自分ではない、兄をだ。
それがどうしても許せなかった。
幼い時は可愛い喧嘩も大人になれば殺し合いも辞さないその弟の様子に仕方なく剣技を、魔法を覚えていく兄。
やめよう? 兄弟で競い合ってどうするんだ。
そういう兄の言葉に耳を貸さない弟。
そして、事件は起きる。
2人が生まれてから20年の月日が経ち20歳になった時の話だ。
かねてから自分が好意を抱いている女性と兄が恋仲になり結婚を考えているというのだ。
なぜ、なぜ皆兄を選ぶ。
なによりも優れているこの僕ではなく、なぜ兄なんだ!!
この嘆きが引き金となり、弟はがむしゃらに走りだした。そして見つけたのだ、穢れた龍が封印された祠を。
厳重に封印を重ねられたそこを、弟は狂ったように暴れ祠を壊した。
龍が出てくるには小さすぎる穴を開けた弟は、そこから溢れ出てきた疫病の第1の感染者となる。
少しずつ侵食していく疫病。
違和感を感じて街に戻ろうとする弟は既に第3段階まで到達していた。
そう、進行が早かったのだ。
体の痛みに悲鳴を上げながら街道にでた弟。
そこに、女性が通りかかった。
痛いんだ、僕を助けろ!
急に駆け出し腕を掴んだ弟に、女性は驚き悲鳴を上げて手を振り払い逃げた。
だって、身体中にアザが浮かび痛みに叫ぶ弟。うっすら血も滲み始めていた。
女性としては恐怖しかない。
それに、子供がまっているのだ。
こんな所で足を止めていられない。
振り向き弟の姿をチラっと見たが女性は真っ直ぐ目的地を目指した。
そして、触れられた場所から疫病は感染する。
弟は血塗れの体を引き摺りながら街へと帰ってきた。
その姿を見た街の人達は慌てて兄を呼んだ。
……お前のせいだ……全部、全部お前が悪いんだ!
血反吐を吐きながらも、兄の腕の中で叫ぶ弟。
許せない、なんでお前なんだ。
お前ばかりいい思いをして、少し早く生まれただけじゃないか!!
なんで皆がお前をみる、なんで皆がお前を選ぶ。
そう泣きながら叫ぶ弟に、兄は静かに言った。
みんな、お前を見ていたよ。
お前は俺ばかりを見て周りを見ていなかったけど、みんなちゃんとお前を見て認めていたんだよ。
………………なんで、気付かない。
………………………うそだ……そんなのは、……うそ…………だ………
弟は兄をずっと見ていた。
自分よりも優れた兄を、自慢の兄を。
だが、いつの間にかプライドが高くなり素直に受け取れなくなっていった。
自分の方が偉いんだ、優れているんだ。
そう自分自身に言い聞かせるように言い続けた弟は、結局兄の腕の中で息を引き取ったのだ。
破天荒な所は確かにあった。
だが、弟はなんだかんだと言って使用人や市民全員に優しかったのだ。
高圧的だし、上から目線でもあった。
でも、だれも嫌ってはいなかった。憎めない人だと言われていた弟。
………………お前は馬鹿だよ………
血塗れの弟を抱き締めて泣く兄の背中を女性が優しく撫でた。
こうして疫病は蔓延される。
エルフの里や他の獣人たちには女性から、人族には弟、そして抱き留め弟を見送った兄から広まったのだ。
兄も程なくして同じ病で命を落とした。
奇しくも兄は闇属性、弟は光属性であり神話の状態と一致している。
この事も封印を緩める結果に繋がっていたのだ。




