精霊の出した提案
歯を食いしばって次へと進む。
どの街も村も度合いは違えど同じような状況だった。
だからこそ、スイは愕然とした。
「ようこそ、巨兎族へ!」
変わらない笑顔で決まりのセリフを言う巨兎族の門番。
街中も変わらない賑わいを見せていて、数人からようこそ! 随分急いで来たの? 疲れてるね? と声を掛けられた。
「………ここは……なんともないのか?」
騒ぎなんてないとても綺麗な街並み、住民たちに驚きを隠せない。
「……とりあえず、精霊の所に行く?」
『………行きましょ』
そのまま飛びながら真っ直ぐ祭壇のある場所へと着いたスイたち。
相変わらず精霊はのほほんと座っていた。
«あらあらあらあら、こんにちは! もっと早く来るかと思ってたわぁ»
うふふ、と頬に手を当て笑う精霊に全員が微妙な顔をしたのだった。
「………という事なんです。治療法しりませんか? 神話との繋がりや理由とか……教えてください」
«それはわかるけれど………ああ、そうね。わたくしの願いを聞いて下さるなら考えてもいいわぁ»
「………なんですか」
«200年前に流行った疫病と一緒っていうのはひと目でわかったわぁ。200年で掛け直した封印が緩み始めるのも知ってるしねぇ。だから、もう原因を倒してくれないかしらぁ。その方が解決もしやすいわよぉ?»
「原因……なんですか?」
«あら、倒してくれるのねぇ? 龍よ»
「「『……………………は?』」」
«だから、龍よー? チャチャッと倒しちゃったらおしまいだから»
いきなりの龍討伐フラグ。
チャチャッと倒せる龍なんか聞いたことがない。
むしろ今まで龍とか出たこと無かったけどこのタイミングで!?
…………………いや、龍と言った。
この精霊は龍と。
「…………龍って、神話の穢れた龍と何か関係があるの?」
スイの言葉に全員が、はっ! とした時精霊は相変わらずぽわわんと答えた。
«関係? 関係もなにもその龍よ?»
『え!? いや、まって? あれって神話でしょ? 本当にあったって言うの……?』
«ん? ああ、全てが同じではもちろん無いけれどかなり近いとは言っていたわぁ。しっかりと今まで伝承もされているし案外凄いのねぇ»
『案外って………誰がそれを言ったの?』
«かあ様よ? 水の大精霊»
「「『かあ様!? お母さんなの!?』」」
«ええ! 水の精霊にとって精霊王は母よー! それで? 倒してくれるのかしら?»
「倒します。でも今にもみんな死にそうなの。絶対約束しますから治療方法を先に教えて下さい」
頭を下げるスイを、精霊は黙って見つめた。
そして息を吐き出す。
«絶対約束を守る? わたくしにそれを信用しろと? 何も対価なく治療方法を教えろと? 正直この街には関係ない病だからわたくしどちらでもいいのよ»
「……………………」
«とは言っても、龍を倒して欲しいのは本当なの。だから、あなたの大切な物をわたくしに預けて下さらない? 龍討伐の時にお返ししますから。その代わりにわたくしの知り得るお話をしてあげる»
「………何を渡すの」
«………………………それ、
あなたの大切なそれを渡してくださる?»
「「『!?!?』」」
精霊が指さしたのはスイの右腕。
楽器を弾くために必要な、スイにとって掛け替えのない右腕。
「…………また……右腕…………失えと?」
俯き呟くスイの言葉を聞いたファーレンは目を見開き、ハーヴェイも苦々しそうに精霊を見た。
クリスティーナが精霊に向かい言い返そうとした時、スイはクリスティーナを止める。
「わかった。持って行って」
『スイ!!』
「何言ってんだお前は!!」
「……………治療方法のが先。ちゃんと返してくれるって言った。私は信じる」
«………………………………ふぅん»
精霊はこの時初めて立ち上がりスイの前に来た。
右腕に手を当てながらもじっとスイを見る。
«……………ふぅん? 意思はかたいのね? なら約束してあげる»
ぶんっと揺れる感じがしたと思ったら右腕は精霊の手に握られていた。
スイのステータスに欠損の表示がつく。痛みはない。
『……………なんで、 こんなこと』
«………あなたたちは何か勘違いしてないかしら? わたくしたち精霊はなにかを対価に動くのよ? 気まぐれに願いを叶えることもあるけれど、願いが大きければ大きいほどその対価は大きくなるわぁ。世界に広がる疫病の治療方法とその関連の情報提供。その対価が穢れた龍退治。わたくしおかしい事言ったかしら? 先に対価を下さらないから、代わりの約束をしたまでだわ。不満なら止めてもよくてよ?»
『昔の疫病の時は!? 何が対価だったの!?』
«知らないわ、わたくしその時はここに居なかったもの»
『…………………っ!』
グッ……と手を握るクリスティーナに、スイは肩を叩き大丈夫だから、と伝えた。
真っ直ぐ精霊を見て口を開く
「最初から、あなたの知ってる情報を順番に知りたい」
«いいわよぉ、それが約束ですものね?»
ふふっと笑って言った精霊は口を開く。
«最優先と思ってる治療方法から教えてあげる。あなたたちの頭の中に情報を転送してあげるわぁ。そうしたら、今からエルフの里に帰る頃には色々情報を手に入れているわぁ»
「たすかる」
«うふふ、そうでしょ? そうでしょ? というか、そうしないと彼死んじゃうものねぇ?»
「「『……………え?』」」
「………………………」
ハーヴェイを指さす精霊。
その指に導かれるようにハーヴェイに視線が集中する。
«最初に言ったじゃない? ひと目見たらわかるって! 上手く隠しているみたいだけれどあなたたちで言う第2段階ってところかしらぁ? 進行速度はゆっくりみたいね»
「…………うそ」
「………………うそじゃないよ。接触感染なのかな既にアザが広がってきてる」
「そんな………」
袖を捲る事で見えたアザは確かに広がってきている。
痛みが出始めているのか、顔を歪めながらもハーヴェイは静かだ。
«あなたが少し迷ったみたいだけど躊躇なく腕を差し出した事、わたくし感動してしまったのよぉ? だからそのお礼ね»
精霊が指をさしハーヴェイの体が一瞬光った。
すると痛みが無くなったのか、何度もアザを触る。
«この街の巨兎族にはわたくしの水の加護があるから病にはならないの。その鱗片をあなたに»
精霊はハーヴェイの痛みを取ってくれた。
進行が止まる訳では無いが、痛みが無くなる。
これだけでハーヴェイはだいぶ楽なようだ。
«さあ、あとは急いで帰りなさいな。あなた達が求めた疫病に関わる全ての情報を、わたくしが引き継いだ情報を教えてあげる。……………闇属性のあなたが居るのだもの。大丈夫だわぁ»
「……………闇……属性……?」
『スイ! もう行きましょう!!』
「……………う、うん」
緩やかに手を振る精霊を見ながらも返事をして手を引かれるままに巨兎族を後にした。
このゲームの精霊はただ優しいだけではありません。
願うならそれ相応の対価をよこせ
これはこのゲームの精霊共通で、 この精霊だからではありません。
ゲーム運営がそういう風に作っています。




