200年前の惨劇
「あれは、そうさな200年前か……里に住むエルフの子供が熱を出してな。解熱剤の材料が当時足りなくて隣町へと買いに出た母親が事の発端じゃった」
どこをどう歩いたのかはわからんがな、里に帰った頃には目で見てわかるくらいにアザが体にあるのがわかったんじゃよ。
既に痛みが出ておったがな、解熱剤を手に入れた母親はそのまま里に帰ってきた。
どうやら隣町まで行く前に疫病に感染していたらしいんじゃよ。
だが、行きの道中変わりはなかったと言っておった。
隣町に着いた頃、アザは少しひろがっておったが痛みはなかったそうじゃ。
里に着いた母親は、子供に薬を飲ませた後に痛みが酷くなり動けなくなってきおった。
熱が下がった子供が心配して他のエルフを呼ぶ頃には全身から出血して、生臭い匂いをしておったよ。
なぜこうなったのか、どこから病気を貰ってきおったのか。
当時はわからなんだ。
母親は結局は助からなかった。
じゃがな、悲劇はここからじゃ。
子供に病気が感染しおった。
母親を助けてと呼ばれたエルフが感染しおった。
その家族、友人と疫病は一気に猛威を奮ったわ。
進行速度は個体によってさまざま、1日経過して第4段階にいく者もいれば、数日たっても現状維持の者もおった。
母親が立ち寄った隣町にも感染者が現れてな、そこに訪れておった別の街や村の者達も知らず病を抱えてそれぞれ帰ったからの、
ここら一帯は疫病が広まったんじゃ。
接触感染じゃ。
大半は死んだよ。地獄じゃった。
色々試した結果、初期から中期に掛けては回復魔法で完治。
その魔法もこの時に編み出したやつじゃ。
この疫病がなけりゃ今でもあの魔法は無かったんじゃろうな。
それ以降進行した者はどうしても治せなかったんじゃ。
人族や、獣族が分からぬのなら人ならざる者に聞くしかなかろうて。
巨兎族におる精霊に聞きに行ったわ。
すると、なんと言ったと思う?
「まぁ、穢れに触れたのね。封印していたのに弱まったのかしら? わたくし、見に行ってみるわ。教えてくださりありがとう」
緊張感なくそう言った精霊。
周りが疫病で次々と命を落としている中、解決策という解決策を教えてもらうこともなく精霊は姿を消したそうじゃよ。
もちろん、今はまた戻っておるがな。
後に聞いても封印が緩んでたのよ、もう大丈夫と言うだけじゃ。
初期から中期にかけてのエルフや他の種族は全員回復したがな、結局それ以上に進んでしもうた病は治せなんだ。
この疫病ほど死んだ病は今まで無かったわい。
この穢れと封印という言葉が、神話で言う負の感情を解き放った時に起きた疫病と何か共通点があるのではと、終息した後に調べた者が多くての。じゃから、今は一緒に置いておるんじゃ。
「……………ハーヴェイよ、なぜこんな話を聞きに来たのじゃ」
眉を寄せて聞いてくるエイファンに、
ハーヴェイは眉を跳ねあげさせた。
「…………アザが出ているエルフがかなりいて痛みもある。知らなかったのか?」
「なんじゃと!?」
「ハーヴェイ、オババ様は休眠期間に入っていて今朝目覚めたばかりなの」
「…………なんて事じゃ」
エイファンが立ちあがり直ぐに外に向かっていった。
近くを通る子供に見えるアザに愕然とする。
「俺は実際に見たことがないから、長に聞きに来たんだ。…………あれは疫病か?」
「…………………そうじゃ」
呆然と答えるエイファンに、ハーヴェイは小さく息を吐き出した。
「……………オババ様に話があると数人訪ねてきたのはこの事だったのね」
「当時を知るエルフも数が減ったしの、 最初は単なるホクロや小さなアザじゃ。……病の可能性を示唆するのは前の時もじゃが遅すぎた。
すぐに精霊の元へと行かねばならん。
あとは、回復魔法を使えるものを集めて魔法の伝授、治療じゃ!!」
すぐに家に入り準備をすると言った長、エイファン。
その表情は険しい。
補足説明
エルフの休眠期間………
ある一定年齢になると、体の劣化を防ぐために休眠期間という体が活動をやめる期間が発生する。
だいたい380歳くらいからはじまり、眠る期間はその時によりバラツキがある。
今回エイファンが眠っていたのは3週間。
その為エイファンには疫病が流行っていた事に気づかずにいた。
また、他にも休眠期間に入っているエルフが居るため疫病への対策がかなり遅れることとなった。




