エルフの長 エイファン
数冊本を見たが、第4段階以降の治療方法は記載されていなかった。
しかし、最後に見た1冊に精霊王の記述があり精霊に話を聞いたという一文があった。
やはり、当初の目的通り巨兎族に行くのは必須かもしれないと、スイは考え最初の2冊と最後の1冊を持って立ち上がる。
階段から下を見ると既に全員集まっていて、スイに気付いたファーレンが指さしている。
軽く手を振ったあと、スイは階段を駆け下りた。
まずはこの話をしよう。
「おまたせ」
「スイさん、どうでしたか? 何か情報ありました?」
座っているリィンが首をかしげながら言うと、全員に見えるように3冊の本を見せた。
「200年前に流行った疫病についてと、
神話の本」
『神話?』
絵本を手に取り中を見るクリスティーナ、リィンとファーレンも一緒に見始めた。
ハーヴェイは200年前の疫病についての本を受け取り見る。
「………………これか」
溜息を吐き出して首を振るハーヴェイ。
予想はしていた様子にスイは眉を寄せた。
「気づいていたんですか?」
「可能性は高いかなとは思ってた。ただ俺は当時の疫病の様子を知らないから調べてみないことには断定は出来ない」
「…………そっか」
うん、と頷き言うスイに、クリスティーナがなによこれ……と呟いた。
『神話に疫病………今これが起きてるっていうの?』
「可能性があるって事。それに、神話がこの疫病とセットで置いてあることもなんでか調べないと」
「ということは、この神話と疫病についての関連性はハーヴェイさんも知らない……?」
「知らないな、通常使う薬の為の病気とか一通り調べたり勉強はするけど疫病は専門外。俺はあくまで道具屋に並べられる薬を作る薬師だから」
「そうですよ、ね」
ファーレンが神話の本を見ながら神妙に返事を返した。
他の書籍にはそれらしいものは無く、限りなくスイが見つけた200年前の疫病についての本が濃厚。
当時いたエルフに話を聞く為館内を出たスイ達はまず、エルフの長の家へとむかうことにした。
「ハーヴェイ、どうしたんじゃ」
「長、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「なんじゃい、まあ入れ。客人たちも」
エルフの長、エイファンは快くスイ達を中に招き入れた。
頭を下げ挨拶をしてから入室すると、エイファンは満足そうに頷く。
エイファンは白く細くなった長い髪を後ろで緩く括り、曲がった腰に手を当てながら先を歩く、老婆である。
「ちょうど遅い昼飯を食おうとしてたんじゃよ、食べるかえ?」
『頂きます!!』
「……クリスティーナ……」
『だって! エルフの人の家庭料理だよ! 逃がすかぁ!!』
「失礼よ、クリスティーナ」
「あぁ、気にすることは無い。食べてくれる方が食材も喜ぶじゃろうて」
同じ家に住む孫娘だろう、見た目18くらいの女性が食事を運んできた。
山盛りの麦ご飯に煮魚、サラダに大根の味噌汁と至って普通の食事だった。
しかし、
『!! お魚だぁ!!』
「今朝釣ってきたばかりなんです」
お皿をクリスティーナの前に置いた孫娘がにっこり笑って言うと、クリスティーナのテンションが上がる。
『釣り場があるの!?』
「はい、里から歩いて15分ほどでしょうか。砂漠にあるオアシスから釣れますよ」
「………まさかのオアシスとか」
『…………これは凄い発見だよ!! まだお店で並ぶ少ないお魚しか見つかってなかったのに! 釣り場があるなんて!! しかも! この味噌! 赤味噌よね!?』
「え? ええ、よくわかりましたね」
『わかりますよ! 私が使う味噌と明らかに匂いが違う!! 味噌どこで手に入りますか!?』
「えーっと……普通にスーパーとか……」
『スーパー!? エルフの里にスーパー!? まさかの!! これは! これは行くしか! ぐふぉ!!』
「ごめんなさい、気にしないでください」
「は……はい」
横っ腹に1発食らわしたスイがスマイルゼロ円で孫娘に謝罪。
孫娘はハラハラしながらスイとクリスティーナを何度も見る。
ぴくぴく痙攣するクリスティーナが衝撃だったらしい。
「………大丈夫なのか?」
「問題ないです」
ハーヴェイがクリスティーナを見て聞いてきたが、同じくスマイルゼロ円で答えた。
クリスティーナが復活して食事に感動しマシンガンのように質問し続ける。丁寧に返事を返す孫娘に鼻息荒く詰め寄るクリスティーナを引き離すこと数回。
いい加減にせんか!! 何しに来たのあんたは!!
スイの雷が落ちた。
『………大変失礼しました』
食後お茶を1口飲んだ後、クリスティーナはハンカチで口元を拭き軽く頭を下げる。
そんなクリスティーナに呆れた顔を見せたエイファンはまあいいさ、と笑った。
「それで? 用事はなんじゃ。飯食いに来ただけではないじゃろ?」
「最近エルフに広まってるアザと、200年前の疫病について教えてくれ。
あと、一緒に置いてた神話の本との関係性も」
「…………………………」
「長」
「ああ、分かった。分かったよ」
はぁ、と息を吐き出して孫娘を呼び食べ終わった食器を片付けさせた。




