パジャマパーティー
かなり驚いていて部屋に入ったら少し興奮状態で
スイは何か言ってくると思っていたが予想に反して大人しくログアウトしたクリスティーナ。
「…………まさかのハーヴェイさんが言っちゃうとは……真実を見通す目かぁ」
私はどんな風に映ってるのかな、とギアを外して翠は起き上がった。
横に置いて喉が乾いた為冷蔵庫のお茶を取りに行く。
ごくごくごくごく
「はぁ……ハーヴェイさんのお茶が飲みたい」
作り置きしてある普通の麦茶を飲んでポツリと一言。
「エルフ……エルフかぁ……ハーヴェイさんかっこよかったなぁ」
ぽわん……と頬を赤らめてハーヴェイを思い出す翠。
エルフと言うのもそうだが、外見や性格が物凄く惹かれるのだ。
でも
「………………NPC……かぁ……」
報われないじゃん!!
「あー………あー…………あーーー」
フラフラと居間に戻り3人がけのソファにポフンと倒れ込む。
「恋愛……かぁ……なんか上手くいかないなぁ」
最近は恋愛に対して消極的だ。
それも全て宏のせいだ、両手を伸ばしてグッ……と伸びをする。
そんなまったりとした雰囲気を味わっている時だった。
突然玄関がすごい勢いで叩かれドアノブをガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
ドンドンドンドンドン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!
「ひぃ!! なにごと!?」
ソファから飛び上がり壁に張り付いて玄関がガチャガチャいっているのを見る。
止まらない叩く音とドアノブに普通に恐怖。
そのうちピタリと止まりホッとしたのもつかの間で
ラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインラインライン
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
「いやぁぁぁ!? なんなのぉ!?」
ラインの着信が鬼のように来てまた玄関が延々とガチャガチャいっている。
更に恐怖。
そして両方が止まった時………………
トゥルルルル トゥルルルル トゥルルルル……
電話の着信がなった。
「ひっ!」
恐る恐るそれを見ると
着信:あかね
「お前かよ!!!」
『出るのおっそーい!! あとインターホン電池切れてない!? 鳴らないよ!』
「だからってドア叩きまくってドアノブガチャガチャするわライン鬼のようにするわ! やめれ! 怖いわ!!」
『最初のラインに気付いてくれなかったじゃないの! いいからあーけーてーよー!!』
「…………わかったよ、1回切るよ」
はぁ……息を吐き出して立ち上がりよたよたと玄関に向かって行った。
覗き窓から見たあかねは顔を赤くして大きな荷物を持ち佇んでいる。
「………なによあの荷物」
あかねが持つ荷物に嫌な予感をしながらも玄関を開けると、あかねが荷物をその場に落とし抱きついてきた。
「もー!! 遅いよー!! 開けるのおーそーいー!!」
「うわぁ!! ちょっ暑い! 暑いって!!」
「あたしはもっと暑かったんだからー!」
「知るかーーー!!」
「いったーー!!」
しがみついてくるあかねの頭に1発当ててから無理やり引き剥がしてあかねの荷物を持った。
「もう…………ほら、入るんでしょ?」
「は……はいるぅぅぅ……」
おおおおお……………と言いながらズリズリと部屋に入って行った。
そんなあかねに翠は首をかしげる。
「で? 急にどうしたの? 連絡なしなんて珍しいじゃない」
麦茶をコップに注ぎあかねに渡す。
「ありがと」
ソファでぐったりと座っていたあかねは麦茶を受け取り一気飲みする。
ごきゅ! ごきゅ! と音を鳴らせて飲むあかねを壁に寄りかかり、唇にコップを当てながら見ていた。
「はぁ、美味しい! 生き返るー!」
「そりゃ良かった。それで一体どうしたの?」
「とりあえず泊まろっかなって」
「はぁい?」
かなり大きな荷物をガサガサと漁りだし、とりだしたのはルームウェアだった。
いそいそと服を脱ぎ始めたあかねを慌てて止める翠。
「待って! 待って! まーーーって!! え? 泊まるの?」
「今日は土曜日だよ!? パジャマパーティーしようよーう!」
ルームウェアを胸の前で抱き締めるように持ちクネクネ動くあかね。
えー……と肩を落とす翠だが、ねぇ? とチラチラみるあかねにため息。
「わーかった! もー好きにすれば!」
「やったー!!」
ルームウェアを上に投げながらバンザイするあかねに苦笑した。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「えー、すごい偶然だね」
「私もびっくりしたよ、まさか電車で会うとか」
テーブルにお菓子やお酒を並べて2人でパジャマパーティー。
翠は白と黒の少し大きめTシャツに一分丈パンツ姿、あかねはキティちゃんのパーカーに同じ柄のハーフパンツ。夏用で涼しく重宝しているらしい。
「それでまさかのリィンさん身バレからの性別が違うってわかったわけか……」
「まぁね」
リィンの性別の事、なぜ翠は知っていたのか。
あの時冷静に話をしたが気にならないわけが無い。
ログアウト後にあかねは急いで荷物をまとめ、翠に聞くことも無く家を飛び出した。
全てはこのリィンの話を聞く為だ。
翠はじゃがりこをポリポリと食べながらあかねの質問に返事を返していく。
宏と別れた帰りに電車であって、あれから会ったのは2回。
そのうちの1回、自分のせいで電車を下ろす羽目になり時間つぶしにお店に入った。
その時の会話は雰囲気、以前フェアリーロードに所属と自爆していた事も言うとあかねは表情をコロコロと変えながら聞いていた。
「へぇー、本当にすごいなぁ……ねぇ、かっこよかった? その……チカさんだっけ?」
「あ、うんかっこいいよ」
「あら即答! じゃあ………ハーヴェイさんと「ハーヴェイさんは対比してはいけない至宝の存在!!」……あ、ハイ」
食い気味にあかねの言葉を遮って答えた翠の勢いに身を引きながら返事をした。
そんなに好きかぁ……とカルパスをモグモグしながら翠をみた。
「…………ねぇ、ちょっと嫌な質問していい?」
「ん? なに?」
「ものすごーく好きだった頃の宏くんとハーヴェイさんならどっち好き?」
「ハーヴェイさん!!…………って言いたい所だけど……
んー、最初は大好きでしかたなかったからなぁ……
どっち? って言われたら今は宏なのかな………
物凄く嫌だけど今までで1番好きだったからね。
恋愛って言われたらそうだと思う。
今はクソほども好きじゃないけどね!!
ただ、正直言うとハーヴェイさんに物凄く惹かれてるのも本当なんだよね。何? 引力? ってくらいに。
……………好きになるんじゃないかなって思ってる
NPCなのにね、変だよね」
翠もカルパスをつかみ口に放り込む。
カルパスの山をじーっと見ながらビールを飲んで
いる翠にあかねは驚いていた。
まさか、こんなに素直に話すなんて思わなかった。
「…………意外、ハーヴェイさんって言うかと思った。あんなに腑抜けてたのに」
「腑抜け言うな! そりゃあんなに好みな人が来たら腰も砕けるって! しかもイケボじゃん? 耳が幸せ過ぎて瀕死だわ」
「まぁまぁ! わかったわかった!!……あー、とさ。……ハーヴェイさんはダメだよ、翠が泣く事になるんだからね」
「………わかってるわよ……言われなくったって」
プイッと顔を背けてか細い声で言った翠にあかねは眉を寄せた。
これは…………翠大丈夫なのかな……
気分を変えるように違う話を振るあかねに、翠は顔を上げた。
」※誤適用にご注意を※ こちら取り残しの孤独さんです。お手透きの際に回収をお願いします。
「翠はリィンさんどうおもう?」
「え? リィンさん? んー……そうだね」
リィンさん、ゲームで初めて仲良くしてくれたフレンド。すごく可愛いのは仕草や挙動もだけど中身が伴っているのが1番可愛いとおもう。
人柄が可愛い人。
リィンさんは性別男とか、女とかの枠を超えている。リィンさんは性別リィンさん。
むしろ性別:乙女でいいんじゃないだろうか。
違和感ないどころかしっくりくる表現だ、満足。
「性別www乙女www」
「間違ってないでしょ?」
「うんwww」
お腹を抱えて笑うあかねをニタニタと笑いながら見る翠。
「そう言えばあかね、リィンさんのスカート捲っちゃって大丈夫なの?」
「え? あぁ通報のこと?」
今回運営がセクハラなどで通報を簡単にする設定が新しく追加されている。
これの事を話す翠に、
「本当はダメだけど、あまりのカミングアウトに頭から吹っ飛んでたのよね、リィンさんが通報してたら1発アウトよ」
「………もう」
「あの様子なら多分設定であたし達を除外してるんじゃないかな」
「除外?」
「あ! 説明読んでないなー! まったく、優しいあかねちゃんが教えてあげようじゃないか!」
「わーありがとー」
「棒読み!!」
まったくもう!
そう言いながらも説明してくれるあかね。
ハラスメント設定。
他者プレイヤーから肉体的、精神的苦痛を受けた場合通報ボタンも有るが余裕が無いプレイヤーも多い事を考慮して頭の中で運営に助けを求めたらすぐに仲裁に来てくれる。
そして、通報するしないは当事者が決めるシステムになっている。
この他に手動での設定項目があり、プレイヤー名やクラン単位での入力をする事でハラスメントから免除される。
今までのコミュニケーションでハグや女性同士での際どい触れ合いなどが日常的に見られていた為だ。(運営巡回中や、システムチェックなど様々なゲーム管理の際に確認済み)
その為、決めた人に対してはハラスメント対象外となる。
因みに、手動入力の際脳波チェックされる為強制されての入力は出来ない。
「だから、あの様子だとクランはハラスメント設定で除外されてるんじゃないかな。多分クランの人達は皆してそう」
「…………たしかに……だって……」
「「クランにはセクハラ魔のナズナちゃんがいるもんね!」」
2人で同時に答えた事が一字一句同じで吹き出した。
「そうだ、あかねはどうなのよ」
「ん? なにが?」
「タクさん。あんなに好き好き言ってるからあかねはどうなのかなーって思って」
「あー、タクさんは大好きよ! 近くにいて実際に会えるなら本気で行くわね」
「…………………クリスティーナの姿でぇ?」
「なによぅ! クリスティーナに不満でもあるのー? 大傑作よ、理想的人魚になったじゃない!」
「……………あんたの感性を疑うわ………」
「なんですってーー!!」
2人のパジャマパーティーはまだまだ始まったばかり。
寝落ちするまでゲームの事や好きな人の事、楽しく話をしてすごしていた。




