疫病と真実
「そうだ、ハーヴェイさん」
「なに?」
食事を済ませた後、ソファに移動したスイ達はまだログアウトするにも早いため食後のティータイムを始めた。
今回は紅茶で同じく薬草から作っているらしい。
これにもクリスティーナは食いつき購入を決めたのだった。
紅茶に砂糖とミルクをたっぷり入れたファーレンが、あ……と呟きハーヴェイを見る。
「里に着いた時、ハーヴェイさんの友達っぽい人が言ってたアザってどうだったんですか?」
「………どうして聞くの?」
「え? えっと、街にいるエルフの人達何人かアザがあって抑えてたり痛がってたりしてたんですよね」
「結構いた?」
「うーん、そうですねいました」
ハーヴェイは眉を寄せて表情をくもらせると、4人は困惑して顔を見合わせた。
「…………思っていた以上にアザが広くて痛みがあったね」
「ハーヴェイさん理由はわかったの?」
スイが前のめりに聞くと、ハーヴェイは顔を上げて紅茶を口に含んだ。
「見た事ない症状だね。少しづつ範囲が広がっていて数も増えてるみたいだし………ただ……うーん」
顎に手を当てて考え込むハーヴェイ。
……………悩ましげな姿もかっこいいなぁ
エルフってなんでこんなに素敵なんだろう
妖精も綺麗で大好きだけど目の前で見たエルフの素敵さ神々しさがたまらない
あー、ハーヴェイさんだからかな
他のエルフさんもすごくすごかったけど、ハーヴェイさんは別格だよね
なにあの綺麗な髪、なにあの綺麗な顔、なにあの綺麗な瞳、なにあの整ったお体、
…………あー、さわりたい
はっ! 触りたいは変態っぽい
…………………………崇めたい! 触れたい! これならいいでしょ!
『良くないわよ意味一緒じゃない、スイアウトー』
「!?」
「スイさん、声に出てました」
ジト目で見てくるリィンにスイはアワアワと弁解するも頬を極限まで膨らましている。
「…………なんでリィンさん怒ってるんです?」
「しりません!!」
「えー……」
「それよりハーヴェイさんに謝れよ変態」
「『ぶふ!』」
「ファーレン!? 変態じゃないよ!! そしてなんで吹き出してるの! クリスティーナにハーヴェイさんまで!!」
『ファーレンが的を射てるなーって思って』
うふふっと笑うクリスティーナにスイは軽く睨みつけていると、口元に手の甲を付けて笑っていたハーヴェイが静かに深呼吸した。
「はぁ……もう久々にこんなに笑った。えっと……アザのことだったよね」
笑いが収まったハーヴェイは息を深く吐き出して呼吸を整えたあと真剣に話し出した。
「俺が産まれる前の話、200年前だったか疫病が流行った時最初にアザが広がったらしい。その症状は文献にも載ってるんだけどそのアザとよく似てるんだよね。アザが広がり個数が増えるのも、感染していくのも一緒。………明日もう一度文献を調べてみようと思ってるよ」
眉を寄せて言うハーヴェイは、俺まだ173歳だからね。
さすがに200年前のはわかんないと話した。
「……………173歳?」
「うん……あぁ、エルフは人族よりも成長が遅いんだよ。だいたい寿命は600歳、800歳のばーちゃんもいるよ。文献と一緒にみんなに話を聞こうと思ってるんだけど教えてくれるかな……」
うーん……と悩むハーヴェイに全員がポカンと口を開けていた。
それに気づいたハーヴェイはニヤリと笑いすぐ隣にいるスイにもたれ掛かる。
「もしかして、里のもっと若いやつの方がいい? 目移りした?」
「まさか! ハーヴェイさんがキングオブエルフ!!」
「うん、よくわかんないな」
いい具合にスルーしたハーヴェイにスイはハーヴェイ本人の素晴らしさを語ろうとしたが、後ろからクリスティーナに羽交い締めにされ口を塞がれる。
『はい、スイはお静かにー』
「むぅ! むぐむぐむぐ!! むぅむぅ!」
「うん、何言ってるかわかんないな物理的に」
止めることなく笑いながら見るハーヴェイ。
でも、ハーヴェイの腕を掴んでいるスイの手を払い除ける事はしなかった。
「とりあえず、明日にならないと俺もわかんないかな。4人はどうすんの? 確か巨兎族に行くんだったっけ?」
ハーヴェイに聞かれて4人は顔を見合わせ頷く。
『ハーヴェイさん、良かったら一緒に行ってもいいかしら。中途半端に知ってしまったし放っていけないわ』
「急ぐわけじゃないんだね?」
『まぁ、大丈夫でしょ! ね?』
クリスティーナが全員を見ると頷いている。
やはり気になってしまうようだ。
緊急クエスト
エルフの里の謎の病を調べて治せ
制限時間: 7日間
成功報酬: ハーヴェイの好感度上昇、ハーヴェイ作の回復薬各種の購入可能
失敗: ハーヴェイの好感度減少、エルフの人口が3分の1に減る
「「「『!?』」」」
現れた緊急クエストに全員が愕然となった。
スイにしてみればハーヴェイの好感度はかなり大事だがそれではない。
失敗時のエルフの人口3分の1に減少、その文字に全員が目を見開く。
「………失敗したら病気のせいで死ぬってこと?…………エルフの人口ってことはハーヴェイさんだって危ないってことだよね」
「スイさん、どうしますか?」
「もちろん……」
はい、を押したスイ。
その瞬間ハーヴェイはスイを見て頭を下げた。
「手伝ってくれるんだね、助かるよありがとう」
ハーヴェイにしても予想外の出来事、猫の手も借りたい状態になるのは目に見えてわかっていた。
今日は色々あったからゆっくり休んでまた明日話しながら200年前の疫病を調べることになったのだった。
「じゃあ、部屋はここをつかって。ちょうど二人ずつ使えるから」
横並びの2部屋を開けて言ったハーヴェイにクリスティーナとファーレンが、え……と困った顔をする。
「………二人ずつって、どう分けるんだ? この場合」
『ログアウトするだけだし別にいい……のかしら』
部屋に入らない4人を見かねてハーヴェイがスイとクリスティーナの腕を掴んで部屋に軽く押して入れた。
わっわっ!! とクリスティーナの背中に手を当てながら中に入ったスイは振り返りリィンを見る。
ちなみに、クリスティーナは体幹がしっかりしている為倒れそうになる様子は微塵もなかった。
「え? ハーヴェイさん、俺とリィンさんが一緒ですか!?」
「? 驚く事じゃなくない? 男と女二人ずつ居るなら分けるのも問題ないわけだし」
「『……………え?』」
ハーヴェイの言葉に4人はピタリと動きを止めた。
スイとリィンはなんで……と驚き、クリスティーナとファーレンは男……? とリィンを見る。
2人の視線に気付き俯きスカートを握りしめるリィンに2人はこれでもかと目を見開いた。
「『………え、いやいやいやいやいやいやいやいや……………え?』」
2人息ぴったりで言うがなんにも反応を示さないリィンに冷や汗が溢れ出す。
「なんでそんな格好をしているかわからないけど、男でしょ?」
エルフには真実を見通す目があるという。
すなわち、嘘は通じないのだ。
「『えーーーーーー!?』」
2人の悲鳴に似た叫びは夜のエルフの里に響き渡った。




