ミミズ戦後
「怪我はないですか?」
「うん、助かったよありがとう」
「こちらこそ回復薬ありがとうございました」
ヴァイオリンからハープに変えたことで青年の足場になっていた短剣が消えた。
それにより青年は落下したが、怪我ひとつしていなくピンピンしている。
「あらぁ、あなたイケメンねー!」
急いで青年へと走っていったスイの後を3人は少しゆっくりめについて行く。
さすがに疲れているようだ。
でも、クリスティーナが青年の顔をしっかりと見た時いつもよりもワントーン声が高くなる。
「うん、よく言われる」
そう返事を返した青年にファーレンは口をヒクヒクとさせた。
そこは謙遜する場所じゃないのか。
「あなたスイの好みにあいそう」
うふふ、と笑うクリスティーナに青年はキョトンとしながらスイを見た。
みんなに呼ばれていた為誰がスイかわかっているようだ。
「……そうなの?」
「そうですねぇ、金髪に青い目、スラッとした体付きしまいには…………」
ズズいっと近付きまた手を伸ばした。
背が高い為つま先立ちである。
「この耳は! 妖精さんですね!!」
「ハズレ、エルフだよ」
「おしい!」
「「おしくないわ」」
耳を触ろうとして青年に両手を捕まれ止められる。
スイは今まで以上に目を輝かせていた。
「エルフ! エルフ!」
「……………スイさんご機嫌ですね」
「昔から妖精とかエルフ好きなのよ」
「………………………ふーん」
むっつりとしながらスイを見るリィンに、クリスティーナはあらあらと笑った
そんなリィンに気付くこと無くキャッキャッとエルフの青年に絡んでいるスイ。
青年も穏やかに笑いながらスイの相手をしていた。
彼は、NPCである。
「俺はハーヴェイ、エルフの里で薬師をしているよ」
「エルフの里!?」
「うん、もう少し行った先にあるんだ」
進行方向を指さす青年、ハーヴェイ。
スイはバッとその方向を見てからハーヴェイの手を掴んだ。
「送ります!! 家まで!! ぜひ!! 道中危ないから! ね? ね?」
「あんたが1番危ないわ!」
スイがグイグイ押す中、ファーレンが強めにスイの頭を叩くと涙目でファーレンを睨みつけた。
「何すんの!」
「何すんのじゃないって! お前顔ヤバい!」
デレッデレの顔をしていたスイは自分の顔をグイグイと押して変わらないじゃない! と言っているが明らかにいつもと様子が違っていた。
「だって! 巨大蟻やらミミズやらサソリやら出るんだよ! こんな場所に1人置いていけないでしょ!」
「スイ、本当の所は?」
「イケメンエルフゲットだぜ!!」
クリスティーナが耳元で聞いてきて反射で答えたスイ。
ハッとして口を抑えてももう遅いのだ。
「うーん、ゲットはさせてあげられないけど一緒に里に行く?」
笑いながら言うハーヴェイにスイはバンザイして喜び、リィンは更に頬を膨らませた。
「よし、エルフ祭りだ!!」
「あんた、目的忘れてない? 行く場所は巨兎族の街! エルフの里じゃないんだかんね!?」
ファーレンが諌めてもバンザイしたままクルクル回るスイの耳には届いていなかった。
「巨兎族? それなら尚更寄った方がいいよ。まだまだ先だからアイテム購入と夜になるから宿で泊まってから先に進むのがオススメ」
「うん、そうする」
「即決するな!」
こうして歩き出したスイ達4人とハーヴェイ。
ニコニコ笑顔でハーヴェイの隣を歩くスイ、その横にはリィンがむっつりしながら歩く。
「………リィンさん機嫌悪くないですか?」
「んもぅ! 乙女の複雑な気持ちよ!」
「はぁ、複雑な気持ち、ねぇ」
後ろを歩くファーレンとクリスティーナ、機嫌の悪いリィンを見ながら言うファーレンに楽しそうに答えていた。
リィンは確かに機嫌を損ねている。
クリスティーナが言ったような乙女の複雑な気持ちなのかどうかはさておき、この時はただ不快感で胸がいっぱいだった。
「………スイさん」
「なんですか? リィンさん」
呼ばれて振り返るスイに、リィンは眉を寄せて見つめる。
「…………スイさんは、ハーヴェイさんが好きなんですか!?」
「この上なく!!!」
即答するスイにショックを隠しきれないリィンがその場にスローモーションのように倒れ込みさめざめと泣き出した。
「…………もう、私の事は忘れてください……」
「リィンさん!? 一体どうしたんですか!?」
芝居がかったリィンにスイはしゃがみ込み肩を抱いて聞くと、ハーヴェイは眉を上げてその様子を見ている。
「ううん、スイさんがハーヴェイさんを好きって言うなら私……私……応援しますから………」
「えぇ!? ありがとうございます!」
「何その茶番!?」
しかもお礼いうのかよ! と突っ込むファーレン、その横には笑い転げるクリスティーナがいる。
そして、それを見ていたハーヴェイが動き出す。
スイの後ろに立ち腰を折って
「……………俺が好き?」
耳元で囁き、スイ崩れ落ちる。
「ああぁぁぁ耳が幸せぇぇぇご馳走様でぇぇす」
「っふ……」
思わず笑ったハーヴェイにクリスティーナは、
あいつ……できおる……と呟いた。
「スイのピンポイントを的確についてくるわ、敵ながらアッパレね」
「敵じゃねーじゃん」
フェアリーロードは相変わらずまったりのんびり先に進む。
テンポが似かよっているのかハーヴェイも楽しそうにクスクスと笑っていた。




