ミニイベント10
スイに抱き抱えられて移動するヴィーアはのほほんと
『あら、私を抱えるなんてすごいのねー、はやぁい!』
と、ハイスピードでの移動を楽しんでいた。
うふふ、と笑うヴィーアに力が抜けそうになるのを耐えて必死に翼を動かし、
「っ、! 着いたァ!」
扉を開けっ放しにしてくれていた為、スイは転がり込む様に入り、ヴィーアを離した。
ヴィーアはふわりと地面に着地してからキョロキョロと周りを見た後、じっと自分を見つめるプレイヤー、そして茹でダコの様に真っ赤な顔をしている青年を見た。
んん? と首を傾げるヴィーアの足元には力尽きたスイが倒れている。
「……まに、あったぁ……」
「スイさん! 大丈夫ですか!?」
リィンが走りより倒れてるスイに寄り添うと、残り時間を見た。
残り時間、4分
本当にギリギリであり、他のプレイヤーは良くやった!! と目を輝かせている。
『……それで? あたくしに会いたいという方はどなたなの?』
「お、おらだす!!!」
緊張でガチガチのモグラは手汗を何度も作業着で拭き続けている。
そんなモグラを見下ろすヴィーア。
様子が明らかにおかしいモグラに、ヴィーアは困ったようにスイを見ると、リィンに介抱されている途中である。
「お! おらヴィーアたんに言いたいことがあるだ!!」
『……………(ヴィーアたん?)』
急に呼ばれてスイから視線を戻したヴィーアは自身に手を差し出しているモグラに首を傾げた。
そして目の前で始まる告白にプレイヤーは固唾を飲んで見守る。
待っている間に仲良くなったのか、特に雄妬恋組の人達は両手を握りしめて応援している様だ。
「ヴィーアたんをひと目見た時からおら、ずっと好きだっただ! たまたま休みで街に行った時に見た神秘的なヴィーアたん! 流れる髪も、綺麗な肌も、大きなタレ目も、赤い唇も! 細いしなやかな体! 体格にあった胸も! 何もかも!! おらぁヴィーアたんが好きだぁぁぁぁぁ!!!」
はぁはぁと肩で息するモグラに、雄妬恋組は良くやったァァァ!! と大喝采を送るが、聞いていた女性はドン引きである。
『……………』
「おらの嫁こさ来てくれ……ヴィーアたん」
はぁはぁと荒い息でヴィーアを見るが、ヴィーアは少し眉を寄せている。
『………あたくし、告白相手を別の人に呼び出させる様な殿方の所には行きたくありません。………………なにより、あなた気持ち悪い』
「…………………え?」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……………
頭の中で繰り返されるヴィーアの声がさらにモグラに衝撃を与える。
そして、トドメをさされた。
『それにあたくし、恋人がいるからどちらにしても無理です』
「こ! 恋人ぉぉぉ………」
まっしろになったモグラは跪き俯く。
雄妬恋組は慌ててモグラに近づき慰めるが、それ以外の男性はだろうな……という雰囲気だった。
スイが首を傾げてその様子を見ていると、リィンが耳元で囁いた。
「さっき言ってた通り、一目惚れらしくてですね。しかも初恋みたいです。周りに相談する人も居なくてどうすればいいか分からず暴走して巨大なモグラに戻ってたらしいですよ。スイさん達が迎えに行っている間に聞いていたのですが、どれに対しても男として失格! とカガリさんが言ってました」
困ったように話すリィンに、スイはなるほどぉ……と頷いた。
そのとき、ナズナやイズナ達が帰ってきたのだが悲しむモグラを見て結果を推測していた。
そして、モグラは悲しみのあまり……
『うぁぁぁぁああああ!!! 温泉が! 良くて!! 美味いし!! あぁぁ!!』
錯乱しているのか意味のわからない事を喚きだしたモグラは赤い目に変わり本体の姿に変わる。
ヴィーアは驚き後ろに下がると、モグラは
真っ直ぐに湯守の仕事をする温泉に一直線する。
看板は全ての温泉と変わっていた。
モグラはヴィーアに自分の思いと共に素敵な温泉も教えたかった。
その気持ちがはやり、温泉を味見したつもりが飲むのを止まらなくさせた理由でもある。
そんな味見した温泉は、この第3の街近郊の全ての温泉と繋がっていて、一手に温泉の管理を担っているのだ。
温度から効能まで全て。
その湯守であるモグラが
『がっふ! がっふ! がっふ!!』
また温泉を飲み出した、しかも先程の比ではない。
暴走しているのが一目瞭然である。
凄い勢いで無くなる温泉に、呆然としているがすぐにハッ! と我に返るスイが飛びモグラの腕を掴む。
そして離させるように引っ張ると、邪魔されたのが許せないのかスイを投げ飛ばした。
「「スイ!」」
「スイさん!!」
「ちょっ! なんてこと!!」
フェアリーロードのメンバーが怒り、リィンとアーサーが慌ててスイに駆け寄るが、スイは羽を羽ばたかせて空中で止まった。
「温泉! 無くなったらクエスト失敗になります!!」
全員がスイの言葉に反応し走り出そうとした時だった。
時間が、無情にもゼロになる。
それはイベント終了の合図で………
《はぁーい! プレイヤーの諸君お疲れ様ー!!! 今回は温泉全部無くなったわけではないけど結果的にクエスト失敗! 残念だったねー》
「こんなのクリア出来ねーじゃねぇか!」
カンザキが文句を言うと、ゲームマスターは驚いた様子を見せる。
《まさか! クリア出来ないイベントなんて作らないよ!! ゲームのNPCだってねこの世界で生きてるんだから予想どおりになんか動かないよ。それをどうやってクリアに持っていくかが、このイベントの一番大事な所だったんだ。実際にヴィーアは水の精霊だから頼んだら水を出してくれるし、落ち着いた状態のモグラはその水を温泉にも変えれる。クリアの仕方はいっぱいあったんだよ。クリア時間にしても結構余裕を持った時間にしていたんだ》
首を振るゲームマスターに、全員が納得していない顔をしている。
しかし、実際告白についてアドバイスしていたらもう少し違った結果になっていたかもしれないし、捜索中揉めて話をしていた事もある。
一概にそれは違う! とは言えなかった。
NPCだから、とただ眺めている節はあったのだ。
《どっちにしても、結果は失敗だよ。さぁ、ここからの話をしようか》
「ここからの話……?」
ひよりが聞き返すと、ゲームマスターはにっこり笑って頷いた。
《そう! 失敗したから温泉の無料入浴券は勿論発行されなくて、温泉も半年間使えない。ただね、プレイヤーの諸君。勿論スクリーンの向こうにいるプレイヤーも! 温泉復活の為にモグラに力を貸したら半年よりも早く復活させれるし、何かいい事が起こるかもしれないよ!》
ふふん、と胸を張るゲームマスターの言葉に合わせるようにモグラを見ると、モグラは悲しそうに座り込んでいた。
温泉は半分程減っている。
《さぁ、これでイベントは終了!! 参加者はお疲れ様!! あ、これ参加賞ねー! あと、近日中に第2回公式イベントの告知をするから楽しみにね! じゃーねー!!!》
雑にポイッと投げ渡されたのは宝箱で、一気に複製されて全員の手の中に収まる。
中を開けると丸い試験管に入った回復薬で、今現在販売されているのよりも回復値のたかいものだった。
それを2つ手に入れる。
「…………あんだけ動いて回復薬2つ」
「そりゃ、高い回復性能だけど………はぁ」
残念がっているが、これは濃縮タイプでそのまま飲むものではなく薄めて使うのだ。
この1本で通常の回復薬30本相当にあたり、市場に販売されたら高値で売れるものだった。
後ほど知ったプレイヤーは狂喜乱舞する。
特に聖魔法が使えなくなったスイには朗報である。
そして、この試験管を見て思い出したイベントアイテムの4本の試験官。
それを取り出すと、ヴィーアはあらあらあらあらと近づいて行った。
《…………うん、そうね。これ貰えるかしら?》
「いいですけど……」
どうせイベントアイテムで使えないものだ。
ヴィーアに4本渡すと、それを水瓶から出した水に混ぜ入れる。
様々な色に変わるのを黙って見ていたヴィーアは、色が黄色になった時に小さな筒にその液体を流し込んだ。
全部で2本あるそれを、スイに渡す。
《これはあなたに。今後あなたは必ずこれが必要になるわ。疫病を気にしているあなたなら、必ず》
スイはハッ! としてヴィーアを見ると、ヴィーアはにっこり笑って
《また巨兎族に来てね。あなたの時間がある時に疫病の話をしてあげる。………ききたかったんでしょ?》
真剣な顔をして頷くスイに、ヴィーアは話は長くなると思うの。
しっかりと時間が取れる時に来てね。
そう言って手を振りまたね! と温泉に飛び込んだ。
水の精霊、水やお湯があると移動が出来る。
その事実にスイを含むイベント参加メンバーは目を見開き驚いた後、ため息を吐き出した。
それを知っていたらもっと時間はあっただろう。
確かに、もっと調べたり聞いたりする時間を作るべきだった。時間短縮の方法はまだまだあったようだから。
こうして少し奇妙なイベントは終了した。
トッププレイヤーの集まりではあるが、クリア出来ず考えさせられるものだった。
そして、参加プレイヤーは元いた場所へと転送された。
「………なんだか疲れたわ」
「同感」
「アタシフェアリーガーデンに帰りたいわ」
「……帰りましょうか」
貰った称号を使い蜂に連れられ第2の街に戻る事にしたフェアリーロード。
まだ蜂での移動は誰も出来ない為かなりの注目を集めているがそれどころではなく、蜂にお礼を言ったあとフェアリーガーデンに戻ったスイたち全員が今日はもう寝るー、また今度ね。
そう言ってログアウトしていった。
スイも部屋に戻ったあと、大きく息を吐き出してもふもふがいるケージに近づいた。
「ただいまもふさん。遅くなってごめんね」
ケージから出して抱っこするとひゃんひゃんなき鼻をかんだ。
それを見て肩に降りてきた蜘蛛。
もふもふと見つめ合う蜘蛛。
じーーーーーー
ひゃん!!
シャ!!
何故か熱く握手を交わす2匹、何か感じるものがあったのだろうか。
ポンッとジャンプしてもふもふの背中に乗る蜘蛛は、片方の手を高々と上げてポーズをとり、もふもふも胸を張ってドヤ顔をした。
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
スイ、無言でスクショ。
色々な角度から撮るため、2匹はさらにポーズを変えてスイにカメラ目線を寄越した。
「…………ふぅ」
汗を拭う素振りをして満足そうにしたスイの両肩によじ登る2匹。
しかし、もふもふはずりっ……ずりっ……と滑り落ちそうになり、蜘蛛が糸を吐き出して体を支えてあげた。
「………可愛い、たまらん」
そんな2人を見た後、ぎゅーぎゅーに抱き締め元気チャージをした後ログアウトの為に横になった。
ケージがあるのに戻らないもふもふは顔の横に丸くなりおしりをくっつけて、蜘蛛は肩付近に落ち着いた。
スイはイベントで入手した2本の筒に入った液体をチャプリと揺らし、疫病の情報が手に入る事に口端を上げながらログアウトしたのだった。




