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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第3章 温泉と食料と疫病
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ミニイベント

運営のアナウンスが流れた瞬間、ヴゥン……と音を立てて場所が変わった。

空間移動だろう、現れた先は最初に見つけた場所とは違う広い温泉地だった。

そこもやはりお湯は沸いておらず普段は温まっている筈の温度も少し肌寒く感じる。


「………ここは」


キョロキョロと周りを見渡すと同じようにプレイヤーが続々と現れ周りを見渡している。


「っ! スイ!! 10パーティのうちに入ってたんだね! よかった!!」


スイ達フェアリーロードの後ろに現れた英雄の箱庭。

アーサーは目ざとくスイを見つけて駆け寄り後ろからギュッと抱きしめた。


「きゃぁぁあああああ!?」


急に来た衝撃と拘束に驚き悲鳴をあげるスイ、そしてカガリとグレンが慌てて近づきスイを引き剥がした。

グレンの腕がスイを捕らえてアーサーから引き離す。


「うちの子になにしやがる!」


「またお前か」


「スイさん! 大丈夫ですか!?」


一気に殺気立つフェアリーロードに、英雄の箱庭も驚きアーサーを押さえ付け止めた。



「ちょっ!? 離してよ!」


アーサーはカンザキを見て声を荒らげるが、イリアの物凄く怒った顔を見てピタリと止まる。

スイもグレンに庇われたまま少しだけ振り向き様子を窺った。


「……………英雄の箱庭は前言った忠告を理解してないのかしら?」


「いや! 違うんだ! 悪かった!!」


お怒りのセラニーチェにカンザキはただただ謝るばかり。

アーサーは不満そうにセラニーチェを見てからスイを見た。

グレンに庇われるスイをだ。


「スイ!? そいつグレンだよな!? そいつがいいのか!? 違うよな!? な!?」


「………………何を言っているんだ」


「………なんか、すいません」








[やぁ、プレイヤーの諸君お待たせ! ミニイベントが始まるよ! 説明はこの僕ゲームマスターがするからね]


スイがため息を吐いた時、空間に現れたのは運営の少年だった。

あの、雪合戦の時にも現れた少年だ。


「……………あ、あの時の」


[そうだよ! あの時のだよ!]


目の横でピースしてウィンクするゲームマスターに、全員が乾いた笑いをする。


[さてさて、じゃあ説明するよ! まずはね………]



イベントは10パーティで実施。

イベント成功で温泉復活、半年間の無料使用券。

失敗で温泉解放の延長


時間経過で温泉は使用可になる為失敗しても問題はないが、温泉の効能をすぐに受ける事は出来ない。


[あとはね、参加出来ないプレイヤー諸君の為にこのミニイベントは中継されているよ]


パンっと手を叩いた事により噴水広場に巨大スクリーンが5つ出現した。

いきなり現れたスクリーンに、プレイヤーはざわめきながらそれに注目する。

スクリーンには、スイ達をはじめとしたミニイベント参加者が様々な角度で映されている。

数十分感覚で画像が切り替わり、数台のカメラアングルで映されているようだ。


[今から他のプレイヤーにはスクリーン上で説明をするからね。ちなみに、今回のイベントは中継のみで動画撮影やスクリーンショットは使えないようになっているから、リアルタイムでのみ様子を観ることが出来るようになっているからね]


このゲームマスターの言葉通り、同時進行で第1の街、第2の街のスクリーンにはゲームマスターではない他の運営による作られた少女のアバターが満面の笑みで映し出されていた。

緑の髪をウルフカットにしている少女が映し出された残り4つのスクリーンを指さしながら説明している。


[はい、みなさま初めまして! サブマスターと呼んでね! まずは、ミニイベントの説明するよ!]


元気いっぱいに話し出す少女、サブマスターは指を振って1つのスクリーンに文章を表示させた。


イベント内容:


第3の街の温泉がなんらかの原因で湧かない、または干上がってしまっている。

原因を見つけだし、解決しましょう。


制限時間:3時間


成功報酬:温泉の半年間無料券の発行







「…………温泉が湧かない理由……」


「制限時間3時間」


[じゃあ、皆で仲良く原因追求と解決してみてよ! 頑張ってね!!]


ゲームマスターがスタート!! と手を叩いた事により、視界の端にカウントダウンが表示された。

これはどうやらステータスではなく通常状態でも時間の表示がされるようだ。

少しの違和感があるが、暫くしたら慣れるだろう。

噴水広場のスクリーンにも制限時間が表示されている。



「………皆で仲良くっていってたから全員で協力するってことかなぁ?」


ピンクのフリルたっぷりのワンピースを着る少女、キラキラガールのマドカが迷いながら言う。

あの雪合戦でフェアリーロード達と同じチームになった少女5人組だ。

魔法少女をモチーフにした5人はさらに魔法少女っぽくなっていた。

星や月を象った杖をフリフリしている。

ちなみに、飾りらしい。


「フェアリーロードさんに、英雄の箱庭さんこんにちは! 私達キラキラガール、覚えてるかな?」


「もちろん、トッププレイヤーを忘れたりしないよ」


アーサーがにこやかに言い、隣に立っているアリアが不満そうに顔を歪めてそっとアーサーの服を握った。

それに気付かないアーサーはマドカと話を続けている。


「えっとぉ、時間もないしみんなで協力した方が良いかなとマドカ思うんだけどどうですかぁ?」


顎に指を付け首を傾げて言うマドカに、アーサーやカンザキはそうだねと頷き、イリアは「男って……」とため息を吐き出した。


「フェアリーロードさんはどうですかぁ?」


「まぁ、賛成だな。………皆で仲良くってゲームマスターがいってたから今回は元々そういう趣旨なんだろうな」


カガリが考えながら言うと、セラニーチェもそうだと思うわ。と答えた。


「じゃあ、みんなで仲良く! 協力ですね」


黄色の服を着た少女が緑の服を着た少女に腕を絡めながら言う。

ぽよよん! と揺れるお胸に目がいくのは仕方ないのだろう、スイよりも盛っている。


「サキちゃん、チセちゃん! 頑張ろうね!!」


マドカが両手を上げて言い、くるりと体の向きを変える。


「みなさーん! みんなで原因を突き止めましょー!!」


マドカが口に手を当てて声を張り上げる。

数人が振り向きマドカを見るが、首を傾げていたり、怪訝な表情をしたり。

全然話を聞いていなくて捜索に動き出そうとするプレイヤーもいた。


「…………こっち見てもくれない人がいっぱいですぅー」


ガックリと肩を落とし言うマドカに、アーサーは苦笑気味。

紫の服を着たリンが慰めている中スイはうーん、と悩み出す。


「…………注目を集めればいいのですか?」


「出来るのか?」


「お任せ下さい、ですよ!」


カガリににっこり笑って答えたスイはハープをヴァイオリンに持ち替えた。

全員がヴァイオリン? と首を傾げている中、スイはヴァイオリンのチューニングを確認してから息を吸い込み大きく吐き出した。









…………………さぁ、奏でようか









まずは、スキル拡張と魅了を使って注目と音を最大限に響かせる準備をする。

まだ曲を弾いていないのに数人がスイに注目し始めていた。

そして………………………






ギギギギギギギギギギギィィィイィイイ!!!



「うあぁぁぁぉぁ!?」


「何だこの音!?」


「うるっせ!!」




スイはわざとヴァイオリンを不協和音に弾き全員に不快感を与える。

音楽なんてものじゃない、ただの迷惑行為だ。


スイはそれを確認して小さく口端を持ち上げた。

そしてスキルにより無数の剣が出現する。


「え!?」


「武器!?」


プレイヤー達がそれぞれの武器を掴み構えようとした時だった。

その剣が6枚の花弁のように形作りその上にしっかりと立ったスイはゆっくりと浮上する。

スイ自身は動かないがその花弁のような剣はクルクルと回っていた。


そして不快感を与えたヴァイオリンで再度ゆっくりと曲を奏で出す。

先程とは比べようもない綺麗な調べを。






♪~♪どんぐりころころ♪~♪どんぶりこ~♪~♪♪




「……………え?」




♪~♪~♪~~♪~♪お池にハマって♪~



「まって、まって、童謡!?」


♪~♪~♪♪♪♪~♪♪~♪~~♪



リズムがどんどんと早くなるかと思ったら急にバラードのようになったり、しっとり穏やかな曲になったかと思ったらジャズになったり……


この5分間、まさかの神アレンジをしたスイはどんぐりころころを弾き切った。

弦をリズミカルに弾いたり綺麗なロングトーンで魅せたりと巧みな指さばきで聴いている人全員に魅了を施しているのかと思うほどにスイの奏でる曲に魅力を感じざるを得ない。

武器を手にしたプレイヤーは、そのままに上空で体を揺らしながら弾き続けるスイを見上げていた。





どんぐりころころ、だが。





「……………ご清聴ありがとうございました」


ふわりと頭を下げるスイに拍手喝采である。

ちなみに、色々な角度から映されたミニコンサートは中継で噴水広場のスクリーンに余す所なく流れていることをスイは後日知り、恥ずかしさで倒れ込むのは閑話休題である。






「すっげぇ!! うま!!」


「まさかの選曲どんぐりころころだけどすげぇ!!」


「…………次は大きな栗の木の下でにします」


「なんで童謡縛り!?」


スイの演奏のおかげで全員の注目を奪ったスイは下降しながらペコっと頭を下げ、カガリを見た。

ニっと笑ったカガリはスイの方へと向かい、頭をひとなで


「よくやった」


スイは撫でられた頭に手を置いてからジワジワと褒められた事を実感して笑顔を浮かべた。




























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