緊急イベント5
首に手を回してリィンにしがみつくスイはチラリと下を見た。
既に高く飛び立ち人がゴミの………………
米粒くらいの大きさである。
あまりの高さにスイはひゅっと息を飲み更にしがみつくと、腰に回るリィンの腕にも力が入ったのがわかった。
「…………高いですね」
「はい、こんな高さ初めてで怖いです」
でも、2人で良かったですね
そう言ってぎこちなく笑うリィンに、スイはリィンさんも怖いんだな……と安堵した。
かなり高い。
これを手で登れって言われなくて本当によかった。
手で登るなんて、元気一杯になる豆をくれる偉い人に会いに行く塔じゃないんだから……
あれ、塔だったよね?
登りきった先には、巨大な蜂の巣がありその周りをブンブンと蜂が飛び交っていた。
ギンっ! と視線がこっちを向くが、こっちにも蜂が居るため突撃はしてこなかった。
「………やっぱり、女王さまの娘さんじゃないですよね」
《ん? あぁ、俺達はミツバチではなくスズメバチだ》
隣にいた蜂がスイの言葉に返事を返す。
やはり、ミツバチではない。
そしてこの世界にミツバチ以外の蜂が存在するのが確定したのだ。
「どうしてスズメバチさんが?」
リィンの言葉に蜂は真っ直ぐ見据えたまま口を開く。
《詳しくは女王に聞いてくれ》
こうして、スイ達は巨大な蜂の巣へと入っていった。
翼付きのプレイヤーがここには7人いた。
そのうちフェアリーロードからはスイ、リィン、ナズナの3人である。
他のパーティの翼付きと共に蜂の巣を進む。
思いの外広く予想外に蜂がまったりと横になってる姿もあった。
《……………よう来たな、愛し子よ》
ふわりと上から降りてきてスイの前に現れる女王蜂。
相変わらずふわふわの襟巻きが暖かそうだ。
「…………女王さま」
《…………このような事になり、わらわは残念でならん》
「いったい、なにがあったの?」
ナズナがスイの服を握りながら言うと、女王蜂はナズナを見た。
そして小さな手でナズナを撫でる。
《小さな天使様だな》
ふわりと笑うが、その子純真天使に見せかけて撲殺天使です女王さま。
《…………あれから》
女王蜂が口にした事実に、スイの怒りが膨れ上がってくる。
顔があきらかに怒っているのだ。
それは聞いている他のプレイヤーもいい気はしない内容で、スイは小さく呟いた。
「……………………プレイヤーの風上にも置けないクズの所業……」
こうして話を聞いたことにより蜂による第2の街襲撃は止まったが、別の魔王を呼び寄せる事になった。
ズンズンと進み、ガシッと女王蜂を掴むスイ。
女王蜂はもちろん、娘の蜂達も驚き一斉にスイの周りに来るがスイの顔を見てピタっと止まる。
《い、愛し子よ、どうした?》
「…………行きますよ」
《……え?》
「はちみつくださいなんて、言えなくしてやる……」
「スイさん! 落ち着いて!」
「スイ? イライラ? タク蹴る? グレンやカガリにする?」
慰めるリィンに、恐怖を巻き散らそうとするナズナ。
魔の手はとうとうカガリとグレンにも伸びそうな雰囲気があるが、ここにアレイスターは含まれていない。
ナズナから見たら、アレイスターは女性プレイヤーの位置にいるのだろうか。
怒り狂うスイは女王蜂を抱えながら出口へ向かうが、女王蜂は暴れるようにスイの腕からぬけだす。
《1人で行ける、愛し子よ! それに、堕天使である愛し子はわらわを抱えて飛べぬであろう》
「そうでした」
はっ! と目を見開き言うスイに、女王蜂は苦笑いをする。
もちろん、雰囲気だ。(2回目)
こうして蜂達を連れて街に行く事に決めた魔王スイ。
完全に空気だった他の翼付きプレイヤーもちょっと怒っているのだった。
[運営サイド]
「……………え!!」
「ちょっ! この子予想外すぎる! まって! 蜂連れてかないで!!」
「言っても変わらねぇよ! 手ぇ動かせ!!」
「ぎゃあああ! 修正間に合わねー!!」
悲鳴をあげていた。




