緊急イベント3
結局の所、話を聞かなくてはわからないので目的通りに女王蜂を目指す事になった。
ただ、知らない情報を共有出来たことは良しとしようとテントを出た。
瞬間だった。
「ぎゃあああ!!」
目の前で消えていくプレイヤーの姿。
その近くには仲間だろうか、涙目のままバリアを張っている女性プレイヤーは他のプレイヤーを必死に守っている。
人数は25人と、3パーティに別れて動いているようだ。
バリアを貼るプレイヤーが更に二人増える。
「うぉ! いきなりだな!!」
カガリが走り出し、バリアを貼る僧侶だろう女性を守り、イズナとデオドールが前に出る。
「時間を稼ぐから体制を整えて!」
デオドールが巨大なハンマーを振り回して蜂を牽制する中、フェアリーロードのメンバーは蜂の巨大さに顔を引き攣らせる。
「…………大っきいです」
「リィンちゃん、蜂大丈夫? 私苦手なのよー」
昆虫苦手! と泣き言を言うクリスティーナにリィンは同意して二人手を取り合って頷いている。
「ちょっと、行ってきまーす」
グレンとクラーティアが杖と本を光らせて魔術発動準備に入っているのを見て、スイは先に飛び出した。
イルカさんハープを前に抱えたまま巨大な蜂の群れへと一人突っ込む。
後ろからクラメンと他のパーティの声が聞こえてくるが、スイはグレンとクラーティアの魔術が放たれる前にしたい事があったのだ。
「蜂さーん!!」
《ふん!!》
《いかん! あれは愛し子だ!!》
2匹の蜂が突撃したと同時に正面にいた蜂がスイの存在を確認する。
2匹の蜂の針がスイに刺さる!
リィンがバリアを展開した瞬間の事だった。
蜂さんキーーック!!
ドォォォン!
《………………すまん、愛し子よ》
「……………予想済みでっす」
正面にいた蜂の飛び蹴りと木に激突した時の衝撃、そしてリィンからのバリアによるダメージに、スイの体力ゲージは黄色になった。
だが、予想済みだったとスイは親指を立てる。
リィンのきゃー! すいませんスイさぁん! と泣き叫んでいるのを聞いていたスイの前に降りてくる影。それは巨大な蜂だった。
近付いてきた蜂はそっと蜘蛛を差し出す。
まだ生きていたらしく、ワサワサと足が動きピューーっと糸を吐いてきた。
なんというコミカルな動きにまん丸おめめは涙目で、今まで差し出された蜘蛛の中で1番デフォルメされていて可愛い。そして大きさが1番小さいのだ。服のフードにも入るんじゃないか。
しかし、糸が邪魔だ。
「……………蜘蛛ですね」
《これはくんさきの味だ。珍味だぞ》
いかですね。
くんさき大好きだよ、止まらないよね。
《ピャーーー!!!》
蜘蛛が叫んでワサワサと足を動かす。
蜘蛛って叫ぶんだ………
とりあえず非常食ですね、わかりません。
怖々と蜘蛛を掴んでみると、意外とフワッとした触り心地で気持ちがいい。
「…………あれ、予想以上に軽くてフワフワ」
《裂いて食べるからな、かなり食感も軽いぞ》
進む進む、と蜂がたくさんの手で食べる動作をする。
笑いが込み上げるからやめて。
「………………あー、スイさん」
「はっ!」
クリスティーナの声に蜘蛛を抱っこしたまま振り向くと、一斉に10歩ほど全員が下がった。
「とりあえず、蜂さんから話聞けそう? なの? あ!! スイはそこから動かないで!! こっち来ない!! まて!!!」
スイがみんなに近づこうとしたらクリスティーナに凄い勢いで「まて!!」と言われ、クリスティーナは貝殻をギリギリまで閉めた。
全員を見るとあまりいい顔はしていない様子で、スイはそっち行きたいぃぃ! とジリジリ近付いていく。
「ぎゃあああああああああ!!」
「まてまてまてまてま………いった!」
「お願いスイちゃん! 止まって! 止まって!!」
「こっち来ないでくださいー!!」
「………蜘蛛、だめ」
阿鼻叫喚である。
蜘蛛、悲しいのか更に涙目になりそっとスイの服を掴む。
プルプルしていて、少しずつスイの体に体を押し付けていて………………
……………あ、顔埋めた。
……………あれ? この子可愛いかもしれない?
「まずは、話をさせてくれてありがとう」
大勢いるプレイヤーを引連れて、蜂は女王蜂の場所へと導いてくれる様だ。
他の場所ではまだまだ戦闘は繰り広げられ死に戻りしているのだろうが。
蜂達の先頭にいるのはリーダーなのだろう、振り向き構わないと言ってくれる。
ぞろぞろと進む蜂さん達。
スイはその中に混ざるように歩いていた。
周りを蜂に囲まれているのだ。
チラチラとスイの抱える蜘蛛を見る蜂達、今ヨダレ垂らしたでしょ!
蜘蛛ガタガタ震えてるからね!!
何故こうなったのかは簡単な話だった。
全員、スイを前に押しやったのだ。
蜘蛛は、ね!!!
必死の形相だった。




