緊急イベント
「カガリさーん!!」
「あ?」
フェアリーガーデンに帰ってきたスイは、宿屋のカウンターに立つカガリの元へとかなりのスピードで近づいた。
「おかえり、あの場所どうだった?」
スイがパッと出したマップを見ても、やはりカガリには真っ黒のままだった。
たまたまインしてきたクラーティアがタンタンタンと音を奏でながら階段を降りる。
「おっはよーですよー」
「あ、クラーティアさん」
「おぉ、相変わらずのモコモコですねー」
「クラーティアさんもですよ」
お互いに、羽根と耳を触っている。
クラーティアは狸の獣人だった。
「で、どうだった?」
「あ、はい。大きなお屋敷がありました」
「? なんの話ですかー」
お客さんも少なく、今ちょうどバイトが来たのでカガリは休憩とカウンターから出てきた。
ちなみに、カガリは狐の獣人で体つきが少し細くなっている。
「クリスティーナ、飲み物欲しいんだけどー」
「あらスイ、おかえりなさい! え? お茶会するの!? やだ! 私もまぜて!!」
清水ににこやかに笑いかけたクリスティーナは、大量にストックされた料理とクリスティーナスペシャル! と最高級のクイーン肉を使ったお茶漬けを賄いに渡した。
喜びに泣き崩れる清水。
それを見て一斉に立ち上がる客のプレイヤー。
クリスティーナのメニューにありませんウィンク炸裂。
そして2重の破壊力に失神者続出。
「……………なんだこれは」
ちょうどインしてきたグレンが眉間に皺を寄せて見ていた。
「私の魅力に失神しちゃったのよ。もぅ、モテる女って罪よねぇ」
筋肉女子が罪だ。
きっと、全員の心がひとつになっただろう。
「まずですね、これを見てください」
出されたマップをみんなが見つめる。
「これ、ここに新しい地図とアイコンが出現してるんです。行ってみたら大きなお屋敷がありました」
「ここに、か?」
グレンが、ふむ……とひとつ頷いた。
「どうやら堕天使の特別クエストらしいです」
「え!? 種族のクエストあるんですかー!?」
クラーティアが、すごい勢いでスイを見た。
ビクッと体を揺らしながら頷く。
「それでですね………………………」
スイが聞いた話を全て話しきると、全員が顔をみくらべた。
「……………第3の街、か」
「どうする?」
グレンがカガリに聞くと迷いを見せた。
「もちろん行くつもりだ。ただ今は考えてなかったからな、みんなINした時にでも話するか。スイ、それでもいいか?」
「はい」
ひとりではどちらにしても無理だろう、スイは頷いた。
[緊急イベントが発生しました。緊急イベントが発生しました]
「イベント!?」
運営からのアナウンスが全プレイヤーに発信された。
スイ達はもちろん、食事中のプレイヤーも箸を止めた。
[第2の街の森に現れた大量の巨大蜂が第2の街に襲撃を開始しました。今から1時間後に巨大蜂は街に到着します。それまでに巨大蜂の進行を止めましょう。止める方法は女王蜂に襲撃理由を聞いたら止まります。
1時間後に巨大蜂が街に到着したら、街の破壊が始まります。破壊状態で今後の街の解放状態が変化します。
繰り返します……………]
「……………まさかの緊急イベントとか」
「…………外に出てるメンバーとりあえず呼び出した」
ガタガタとみんながフェアリーガーデンを飛び出して行く中、クラメンたちもアイテムなどを確認し始めた。
スイは回復魔法禁止になったため、有り余るくらいのアイテムを持っているので問題は無い。
「…………てか、蜂が襲うって初めてですー」
「いや、最近巨大蜂がプレイヤーを襲撃してるって掲示板に出てたぞ?」
「え? 本当ですかー?」
あらぁ? とカガリを見るクラーティアに、カガリは頷き返す。
「とりあえずは、私達も森に行く準備した方がいいわよね?」
クリスティーナが自分のストレージ内の食料を見ながら言うと、フェアリーガーデンの入口が開いた。
ぞろぞろと入ってきたクラメン達。
セラニーチェは楽しそうに笑って言った。
「待たせた? ごめんなさいね」
集まったクラメンみんなで噴水広場から1番近い入口へと向かった。
まだ巨大蜂の姿は見えないが、遥か遠くで戦う声が聞こえる。
そして死に戻りするプレイヤーもだ。
「……あれ? デスペナがない」
「緊急イベントだからかな?」
死に戻りしたプレイヤーはデスペナルティが無いことを確認してまた突っ込んで行った。
「………なるほ、デスペナなしか。突っ込み放題だな」
タクがニヤリと笑って剣を肩に担いだ。
「よし、いくか! 目指すは巨大蜂!!」




