堕天使の特別クエスト
掲示板で蜂の大軍に襲われると賑やかに話がされている中、スイは知らずに森の中を進んでいた。
確かに、いつもよりも蜂の数が多いなと思っていたが、女王と話をしていたスイはそれをただ見送っているだけだった。
時折凄いスピードでスイ目掛けて急降下する蜂も居たが、ぶつかる瞬間他の蜂に飛び蹴りをくらい吹っ飛ばされる事で即死を免れていた。
といいますか、私を蹴るんですね、そうなんですね。
《すまぬ、女王の愛し子よ》
蹴ってきた蜂に何故か謝られ、巨大な蜘蛛を差し出される。
最初は悲鳴をあげたが、蜂にしてみれば好意だったようだ。
食料あげるから許してくれ、と蜘蛛を差し出してくるのだ。
クリクリの目でじっと見つめながら。
「だ! 大丈夫です!! お気持ちだけで!!!」
《………そうか?》
これはクリームの味だぞ? と言う蜂に丁寧に遠慮した後先を進む。
心臓はバクバクしたままだ。
なぜならこれが1回、2回ではないからだった。
《…………すまん、愛し子よ。怪我はないか》
「…………………大丈夫です」
即死は確かにしない。
でも、吹き飛ばされ木にぶち当たり体力は確実に減っていた。
蜂に襲撃され、吹き飛ばされる事25回。
蜘蛛を差し出される事20回。
残り5回は何故かドングリで貰っておいた。
蜂の飛び蹴りで減った体力回復にポーションを2本使っていること以外は通常の戦闘をしてワールドマップに記されている場所にたどり着く。
「……………ここが十字架の場所かぁ」
着いた先は古びたお屋敷だった。
柵で周りをぐるりと囲われていて、中には大きなお屋敷がある。
中庭がありそこに池があって、花が咲き乱れていた。
そして綺麗なのに何故かお屋敷全体が暗く見えた。
「おっきいおうち」
家を見上げた時、重低音をたてて門が開いた。
いらっしゃい………そう言っているようだ。
「……………お邪魔します」
バサッと翼を広げて、門と同じく開いた玄関に向かって飛んで行った。
室内はやけに暗く、蝋燭で灯りを灯していた。
そして、燕尾服を着て頭を下げる骸骨がゆっくりと頭を上げた。
「…………ようこそおこしくださいました」
「っ! 骸骨……」
「なにぶん、朽ちてから200年は経過しております。御無礼をお許しください」
動きがとても綺麗で、普通の姿だったら完璧なバトラーなのだろう。
雰囲気が、笑っているようだ。
カラカラと骸骨特有の音が鳴る。
「朽ちてから200年、来て頂くのを首を長くしてお待ちしておりました」
「待って……いた?」
「はい。堕天使である貴方様を」
バトラーの言うその言葉に、スイは目を見開いた。
堕天使である……
そう。これは堕天使の特別クエスト。
そして、分岐点だった。
スイはこくりと喉を鳴らして骸骨バトラーを見つめた。




