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Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷  作者: くみたろう
第2章 水の都アクアエデンと氷の城
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閑話 リィンの受難


ゆっくりと目を開けたリィンは、ゲーム内の自室のベッドに横向きに寝ていた。

体を起こして伸びをひとつした後、公式サイトを見て知ったガチャを引こうとストレージにあるプレミアムガチャ券を出した。

ガチャ券配布当日、リィンは仕事が立て込んでいてログインしていない為、数日遅れての使用となった。



「………楽しみです」


まだ室内から出ていないリィンは、変わったクラメンの様子を見てはいない。

とりあえず、とガチャを回してみたリィン。


「いいのが出るでしょうか」


ワクワクしながら引いたのは真っ白な羽根が輝く天使だった。

この天使、後にナズナの天使とは明らかに違う事を、この時のリィンはまだ知らない。

天使と見て、リィンは喜び迷わず装備する。

ふわりと羽根が輝き頭の上に輪ができた。


「……すごいです」


器用にくるりと回ったリィン。

そして慣れたようにステータスを開き見て予想と違う表示に、ピタリと動きを止めた。


「…………ハー……フ?」


書かれていたのは種族表示の場所、ハーフ族と記載されている。


ハーフ族

他種族同士の親を持ち、どちらの特徴も受け継いだ子供のことを示す。

《天使とサキュバスのハーフ。見た目は天使よりの為輝く羽根を所持し地面に足を付けることは出来ない。聖属性に加護を持つ。その反面、サキュバスの能力により、1日1回他者の生気を奪わないとステータス減少、ランダムバッドステータスがつく》


それを読んでリィンは崩れ落ちた。


「…………なんなんですか、これは……

運営は、私達プレイヤーをどうしたいのですか……」


破天荒な運営の仕様に、リィンは泣き崩れるがこれはリィンだけではない。

強い加護をもたらすと共に、めちゃくちゃな効果も含むガチャ結果が多く出現している。

その効果も、詳細は残念ながら装備してからでないとわからないのだ。


これでリィンは、天使の皮を被った………と言うやつに、リアルになったのだった。



フラフラしながら部屋を出てリィンが最初に見たのは、小さな天使が犬耳を蹴り飛ばしている様子だった。

頭を抱える。


「ナズナちゃん……」


「ん、リィン?」


振り向いたナズナは、神々しい光を放っていた。

流石混じり気ない天使様である。

その足は真っ赤に染っているように見えるのはきっと気の所為だ。


「リィンも天使? おそろい」


「…………かぁわい……い……」


ピクピクと震えるタクはなんとか親指を立てさせた。

いったい何したんだ、タク。


「う、うん。ナズナちゃんもなのね」


「うん」


こくりと頷くその奥には高笑いをしながら貝殻に座るクリスティーナに、不死鳥のしっぽを揺らめかせて笑うアレイスター。

それを、店員で来ていた清水が顔を引き攣らせて見ている。

ちなみに、清水は大きな羽根がある。

蝶々のようだった。


カオスである。



「あ、リィンさん」


同じく部屋から出てきたスイをリィンは見上げた。

よく似た形の色違いな羽根を持ったスイはふわりと笑う。

その瞬間だった。

リィンに急激な飢餓感が襲う。


簡易ステータスである名前と体力等がゲージで表示されているその場所にあったはずの空腹ゲージが、飢餓ゲージと表示が変わっているのだ。



ノドガカワク

ハラガスイタ

ゴハンヲクレ

ナンデモイイ



アァ、ハラァヘッタナァ…………



急激にゲージが赤に変わる。

リィンはゆらりと体を揺らしながら虚ろな視線をスイに向けていた。


「? リィンさん?」


「どうしたの?」


リィンの異変にクラメン達が気づく。

食事中のお客さん達も箸を止めてリィンを見つめた。


「…………ハラガヘッタ」


「え?」


「………………タベサセロ」


明らかに様子がおかしい。

キラキラした羽根が歪み始めて、蝙蝠みたいな羽根に変化を始めた。

真っ黒な尻尾がニョキっと生えて、それがスイの体を巻き付け始める。


「な、なんですかこれー!?!?」


「! これ、リィンちゃんの種族の効果みたいよ!」


目を光らせて言うセラニーチェ。


「え? 天使だったわよね!?」


「私と同じだった……」


ナズナが飛び、アレイスターが鳥の姿に変わってリィンを追いかけた。

既に捕まっているスイを解放するためだ。






「…………………レ……シヲ……………」


虚ろな瞳で見るスイは食料認定されている。

ニヤッと笑うリィンは見たことない恍惚な表情をしていた。


「…………オナカガスイタノ、アナタノセイキヲチョウダイ?」


首筋を撫でて言ったリィンの目が金色に変わる。

スイは目が離せなくなり次第に目がとろりとして呆然とリィンを見ながら頷く。

これは生気を奪う相手を魅了しているのだ。

唇を舐めてから、ゆっくりと口を開いた


「っ……」


鋭い歯が皮膚を突き破る感覚と共に何かがごっそりと奪われるのが分かった。

それは本当に一瞬で、ナズナとアレイスターがリィンの体に触れた時には口を離していてペロリと唇を舐める。

鮮やかな笑みを浮かべてスイを見下ろすリィンのゲージはオールグリーンに戻っていた。

リィンの頭の中が美味しい、甘いという食事の事に支配された瞬間、頭がクリアになった。



「………………え?」



ナズナとアレイスターに抑えられている状態で正常に戻ったリィン。

座り込むスイを見て、リィンは顔を一気に青ざめた。

羽根は既に天使の羽根に戻っている。



「…………っっ! ご、ごめんなさい!!!」



リィンは頭を下げた後、自室へと飛び逃げた。

そんなリィンを見送ったあと、全員がセラニーチェを見た。

彼女の種族は千里眼となっていて、精密な鑑定などが出来るらしい。

その瞳で見たリィンの種族情報に、セラニーチェは苦笑した。


「天使とサキュバスのハーフみたいよ」


「天使じゃない?」



千里眼で見たその情報は、リィンよりも詳しく表示されていた。


1日1回の生気を必要とする。

それは摂取量により回数は変化し、最低限1回らしい。

そして、空腹ゲージが飢餓ゲージと変わり、黄色になかなかならないが、黄色になったら一気に赤までゲージが変わる。

このゲージが生気を必要とするサキュバスとしての空腹ゲージとなるのだ。


このゲージが赤になった際、サキュバスが天使を覆い隠し空腹しか感じなくする。

その為、空腹ゲージが最高潮になった時に1番最初に目に入ったスイを食事認定したのだった。

そして、生気を吸われたスイは魅了にかかっている間の記憶が無かった。

すなわち、リィンに何をされたか記憶が全くない。


なんというか、厄介な種族である。

後にリィンの食事はログインした際にクラメンから必ず提供される事となり、泣く泣く首に歯をたてる事になった。

自ら提供する場合、魅了は発動されず痛みは無い。

指で軽く撫でられるくらいの感覚で喪失感もさほど無いようだ。

それなら別に気にしないよー、と笑って言うクラメン達にリィンはペコペコとなんども頭を下げていた。


タクに食事を貰う時だけ、クリスティーナがクネクネと体を揺らして「あぁん、クリスティーナもやりたぁい!」と黄色い悲鳴を上げるくらいだった。














リィンは自室のベッドから体を起こした。

頭にかぶっているギアを外して頭を抱える。


「………まさか、あんな風になるなんて……予想つかないよ……」


モノクロに纏められた綺麗な室内で、リィンは息を吐き出した。


「スイさん、嫌な気持ちしただろうなぁ……次会ったら謝らないと……」


立ち上がり視界に入る鏡にはゲーム内のリィンの姿では無く現実世界のリィンが映し出される。


髪をくしゃりと握りしめて、お茶飲もう……とキッチンに向かった。

扉を閉めたその衝撃で、扉に着く名前の書かれたプレートが揺れた。

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