第5章:天使の果実
「…と言うわけ。信じてもらえた?」とプリムは話した。
「にわかに信じられない話ね…。あなた達は過去から来たって事でしょ?」とオレンジ髪の女が言う。
「確かに信じられない話ね。でも、私達の方こそ信じられないわ。いきなり未来に飛ばされて、何が何だか分からないもの!未来の人達は、過去の事を調べられるけど、私達は調べられない…もぅ帰りたいわ」と表情を曇らせる。
「ねぇ?ラビン!この人達が言ってる事って本当なの?」とオレンジ髪の女が美人な女に話す。
「ええ!確かに、クルシスランドは100年前に壊滅してるわ」と美人な女――ラビンと言ったか――は答えた。
「分かった!あなた達を信用するわ!」とオレンジ髪の女が言う。
「でも、私達嘘をついてるかも知れないわよ!」とプリムはカマをかける。
「その時は、コイツらがぶっ飛ばすだけだから気にしないで!ねっ?」とウインクをした。
この子恐い子ね…。とプリムは思った。
「過去に帰れるまでは、私達の船に乗せてあげる。その代わり、雑用とか簡単な仕事はしてもらうわよ!分かった?」
まぁ、この海の真ん中で放り出されるよりかはまだ全然良い…。
プリムは頷いた。
「じゃあ、この船の船員達を紹介するわ!私は航海士のニャミ。で、
赤い帽子をかぶったのが船長のロフィ。
赤い腹巻きをしてるのが剣士のソロ。
向こうで目をハートマークにさせているのがコックの3時。
麦わら帽子をかぶってるのが船医のチャッパー。一応、トナカイよ。
向こうの美人な女性が考古学者のラビン。
今は居ないけど、見張り台の所に立ってるのが船大工のフラン。
よろしくね!」
ニャミは一通り、説明をした。
プリムは一人一人の顔を見て名前を覚える。
「私は、クルシスランドの第1王女プリムです。
そっちに、寝てるのが…」と言葉を止めると、ランドとソフィアの頭をガツンと殴る。
この状況で起きない2人に苛立ちを覚えたからである。
「ほぇ?プリム…おはよう…」とランドは欠伸をした。
ソフィアは起きたが、何故か頭にタンコブがあることに不思議がっている。
プリムはため息をついて紹介をする。
「こっちの髪が長くて茶色のボサボサの方がランド。
あっちの髪が白い子が、ランドの妹で、ソフィア」とソフィアを指差す。
ランドは何が何だか分からない状態だった。
「何が?そんな事よりも、腹へった…」とバタッと倒れた。
すると、運良くネズミが前を通り過ぎる。
ランドはネズミを素手で捕まえると頭からかぶりついた。
「あっ!お兄ちゃんズルイ!私も食べたい!」とソフィアは叫ぶと、ランドはネズミの上半身を食いちぎると、まだピクピク動くネズミの下半身をソフィアに渡した。
ソフィアは一口でネズミを食べる。
「ねぇプリム…あのさ…私、ネズミを生で食べるって言うか、ネズミを食べる人達を初めて見たわ」とニャミは言う。
プリムは呆れた顔をしていた。
「ごめんなさい…。彼は、狼に育てられたせいかネズミとかウサギとかヘビとかを生で食べる習性があるの…出来れば気にしないであげて…」とプリムは言う。
「へぇーネズミってウメェのか!?」いきなり、船長のロフィが叫んだ。
「大丈夫よ。こっちにも暴飲暴食がいるから…」とニャミも呆れる。
「お互い頑張りましょうね…」とプリムは声をかけた。
「そうね…」とニャミは答える。
「ご飯出来たよ〜!」と3時は叫んだ。
机の上に料理が並ぶ。
「ほら、えっと…ランドにソフィアもこっちで食べなよ!」とニャミが言う。
ランドはいい匂いにつられて席に座るとスゴい勢いで料理を食べる。
但し、手で…。
「ランド!いつまで、食器を使わないの!ちゃんと使いなさい!」とプリムは注意をするが聞いていない。
プリムはため息をついた。
「ごめんなさい…本当に…」
心の底から謝る。
「いやぁー食った食った!どこの誰だか分かんないけど、ありがとな!」ランドは一応お礼をした。
「ランド…アナタ、寝てたから聞いて無かったのね…。私達が過去の世界に帰るまで、この船の船員さん達が面倒を見てくれるそうよ」
プリムは一通り説明を始めた。
「なるほど…、そう言う事なら雑用でも何でもやるぜ!」
とランドは勢いづく。
「じゃあ…とりあえず、外に出て見張りを代わってあげてもらってもいい?」とニャミは言ってくる。
「見張り?何を見張れば良いんだ?」
ランドは聞くと、チャッパーが答えてくる。
「俺達、海賊なんだ!だから、海軍とか他の海賊が近づいて来たら教えて欲しいんだ!」
「要するに、この船と違う船が来たら教えれば良いんだな?」
「そうだ」
「なら、このまま進むと船が2、3、4…5隻いるな。どうやら、この船を待ち構えてるな…。あっちの船から火薬の匂いがするし…。なっ?ソフィア?」
急に呼ばれて驚くが直ぐに正気に戻る。
「うん。て言うか、お兄ちゃんが気付いてたなんて…ちょっとショック…」と頭を落とす。
赤帽子海賊団は2人の会話を聞いて驚いた。
「なんで?なんで分かるの?」とニャミが聞いてくる。
「この2人は、特別に鼻が良いのよ。多分、かなり前から気づいてたハズよ。ねっ?ランド」
プリムはランドの代わりに説明をし、ランドに聞き返す。
「ああ…。この時代に来た時に気づいた。この騒ぎに乗じて逃げようとしたけど、事情が変わったから助けなきゃな」とランドは指を鳴らす。
その時だった見張りから声がする。
「前方2時4時8時の方向に敵船発見!」
「いや…後2隻は、周り込むつもりだ!」とランドは叫ぶ。
「今は、ランドの言葉を信じるしか無いわ!みんな!位置について!ワソップとチャッパーは船の後ろに待機!ソロと3時君、ロフィは前方に待機!敵船に近付き次第乗り込んで!ラビンとランドは船に残ってて!」
「えっ?俺も暴れたいんだけど…」とランドは呟く。
「私も暴れたい…」とソフィアも呟く。
「大丈夫よ!アイツらの強さは化け物並だから、心配しないで!」とニャミは2人に言う。
「フランはそのまま待機!敵の砲弾が飛んできたら、叩き落として!」
「了解!」と外から声がする。
「敵が撃ってきた!」
フランが叫ぶ。
「リニアを使って加速して!弾を避けたら、前方の1隻づつに1人乗り込んで、船を破壊して!」
「すごーい!ニャミって、ロフィより船長っぽいわ!」とプリムは誉める。
「後方の敵船1隻撃破!だけど、もう1隻が乗り込んで来る!」とチャッパーが叫ぶのが聞こえた。
「もしかして!」
ランドはソフィアを見た。
「暴れられる?」
ソフィアはランドを見た。
ランドは直ぐ様に獣人化を始めた。
「なっ!?"能力者"!?」
ニャミは驚いた。
"能力者"の意味が分からなかったが、ランドは部屋を飛び出して船の後方へ走っていく。
ソフィアも獣人化を解きランドに付いて行った。
「もしかして、プリムも能力者なの?」ニャミが聞いてくる。
「能力者?ああ、魂の事ね!今の時代もあるんだねやっぱり!私は違うケド、ランドは狼の魂を、ソフィアは人間の魂を入れてるわ」とプリムは説明をする。
「あれ?"天使の果実"は同じ能力はかぶらないハズよ…人間の能力、チャッパーも人間の能力を手に入れたトナカイなのに…」
ニャミは不思議がる。
天使の果実は何なのだろう…。そう思いながら、プリムは窓の外を見た。
ちょうどウルフが、敵の船に乗り込んでいる所が見えた。
「おおおおいっ!何なんだよ!あの金色の狼は!能力者なのか?」とワソップは叫んだ。
「多分…、さっきのランドと同じ臭いがするから」とチャッパーは答えた。
「お前ら!ここは俺が、行くから援護してくれっ!」とウルフは叫ぶと、敵の船に乗り込む。
船には、カラスのマークが付いた白い服の人間達が13人ほど乗っていた。みんな、武装をしている。
「何だ!コイツは!」
「リストに乗っていない人物です!」
「新しい赤帽子の仲間か!」
白い服の集団は、戸惑っているがウルフは容赦はしなかった。
「お前らに恨みは無いけど、寝てて貰うぞ!」ウルフは言い放つと、地面を蹴り姿を消した。
集団に風が吹き付ける。
次にウルフが姿を表したのは、集団の後ろに立っていた。
「えっ?」
声が漏れた瞬間である。
白い服の1人が泡を吹いて倒れた。
「何だ?何を…」
言葉を止める。いや、止めざね無かった。
集団は次々に倒れて行く。
「なななな何なんだよ!俺らが援護する暇なんて無いくらい強いじゃないかよ!」
ワソップは自分の船から顔を覗かせた。
ウルフは、全員倒すとまた姿を消した。
ソフィアは自分の後に付いてきたと思っていたのに、彼女の姿が見当たらない…。
もしかしたら、前方の3隻の何処かに行ってしまったのか。心配になり、ランドは急いで前方の3隻に走る。
「これで終わりだ!死ね!」
ズバっとソロは刀で、敵を切り捨てた。
「アイツらも、無事に終わってるよな…」とため息をつくと他の船を見た。
「ガムガムの…パンチ!」とロフィの腕がガムの様にビヨーンと伸びる。
白服集団は、バタバタと倒れて行く。
「うっし!ここも終わり!」
腕をグルグル回しガッツポーズを取る。
ここにもソフィアは居ない…。と言うよりも、彼らの強さを見ていたら安心してきた。
最後の船に向かう。
「おにぎり食べたい斬り!」
ソロは5刀流の剣士
両手に2本づつと口に1本くわえて敵を斬る。
技名のセンスは、ランドとどっこいどっこいだった。
しかし、ソフィアの姿が見当たらなかった。
ウルフは敵艦の見張り塔に登り辺りの臭いをかぐ。
塩の香りが、ソフィアの臭いの邪魔をする。
ウルフは、3人に聞こうと見張り塔から降りた。
「何だ!能力者がいるぞ!」と3時が叫ぶ。
「アンタら、ソフィア見なかった?」ランドは3人に向かって聞く。
「ガムガムのキック!」いきなりロフィが攻撃をしてきた。
ウルフは素早く身をかわす。
「いや!俺だって!ソフィアを…」
ウルフは言葉を止めた。
ソロが斬りかかってくる。流石に、5本もの刀を避けるのはシンドイ。
でも、ウルフは攻撃をしない形でヒョイヒョイ避けていく。
「頼むから聞いてくれって!」
ウルフは冷や汗を垂らしながら言うが攻撃はやまない。
「くっ!コイツ…」
ソロは更に剣速を早めてくる。
「頼むから…」
ウルフはうめく。
「辞めろ!って言ってんだよ!!」
ウルフは叫ぶと、剣を避けながら座りソロの足を払う。
ソロは転びそうになるが、前転をして直ぐにウルフの方を見た。
「どけっ!」
と3時が蹴りを繰り出すが、ウルフは片手で受け止めた。
「ガムガムの…」
ロフィの声が聞こえたので、掴んだ足を声のする方へ投げ飛ばす。
3時は、ロフィのパンチを空中で器用に避けると地面に着地する。
「危ねぇな!クソガム!」
3時はロフィを攻め立てる。
ウルフはこの隙に獣人化を解いた。
「あれ?お前、能力者だったのか…」
とソロが聞いた。
ランドはため息をついた。まぁ、いきなりウルフの姿で現れたのだからしょうが無い。
一応、文句は言わずにソフィアを見たかを聞いたが、誰も見ていないと言う。
「何処に行ったんだ?」とランドは呟き、とりあえず味方の船に戻る。
今、気づいたが船の先端に向日葵が付いていた。
海賊旗にも向日葵の絵が付いている。
ランドは周りを見渡しながら、最初に出てきた部屋のドアを開ける。
中に入ると、プリムとニャミ、チャッパー、ワソップ、ソフィア、見たこと無い奴、ラビンが机を囲んでお茶を飲んでいた。
「あっ!彼がランドよ」
とニャミは見たこと無い奴に紹介をした。
赤い髪に、至る所をネジで止めている。ファッションか?
「んで、コイツはさっき居なかったけど、船大工でサイボーグのフランよ!」とニャミはフランの頭をゴンゴンと叩いた。
「サイボーグ?裁縫をする道具?」
ランドは聞き返す。
「それは、裁縫具」
プリムが返す。
「カレーに入ってる…」
「カレーの具」
「チョキに勝てる…」
「ぐぅ…って!ドンドンかけ離れてるからっ!違うのよ!200年後の世界にもいたでしょ?あんな感じよ!」
プリムは叫ぶ。
未来…未来…確かにいたなぁ。
「つまり、機械の魂を入れた人間って事か!」
ランドは無理矢理理解をした。
「そうそう」
とプリムも首を縦に振る。
「って言うか!何でソフィアがここにいるんだ!」
ランドは気付いたかの様に叫んだ。
「あっ…。気づいたんだけど…私、獣人化しててもしてなくても戦力にならないなって思って帰って来ちゃった」
と苦笑いをする。
そりゃそうか…。ランドも納得をした。
「ふぅー疲れたぜ…」
ゾロゾロとロフィ達が帰ってくる。
「よしっ!みんな帰って来た事だし。今日はここに停泊をしましょ!色々と聞きたい事があるから」ニャミは手を握り叫んだ。
逆らえる者は誰も居ないので、碇を下ろして停泊をすることになった。
一先ず落ち着き、全員で机を囲み話をすることになった。
「さっきも気になったんだけど、"魂"って何?」
ニャミはプリムに聞いた。
「魂って、生き物に宿すと宿した時の生き物の力を得る事が出来るのよ。ランドの場合は、狼の魂。ソフィアの場合は、人間の魂をそれぞれ宿してるのよ」
「じゃあ…プリム達の時代で生き物を殺して奪えば魂を貰えるの?」
「基本的に魂は、殺したりしたら手に入らないわ。その魂に"情"が無いと駄目なのよ。
でも、殺した生物を錬金所に持っていけば、生物に残った魂の欠片を集めて魂を作ってくれるの。大体の悪党は、そうやって魂を体に宿してるわ」
「今は無いけど、100年前にそんな技術があったなんて…」
ニャミは顔を伏せた。
「こっちも聞きたい事があるわ。さっきの"能力者"って何なの?」
「この時代には、"天使の果実"と言うのがあるのよ。その果実を食べると、色んな特殊能力が手に入るの!でも、それが何の能力なのかはランダムで、食べないと何の能力かは分からないわ…。
私、てっきりランドとソフィアは"天使の果実"を食べたものだと思ってた」
「この船にも、食べた人は居るの?」
プリムは、机を囲んでいる船員達を見回す。
「ロフィがガムの実を食べて、チャッパーが人の実、ラビンが花の実を食べたのよ」
ニャミは笑って答えた。が、すぐに顔を伏せた。
「でもね、天使の果実を食べた人は猫に嫌われる性質になっちゃうの…」
「そうなんだ。町を歩いてて、猫の集団と会うと生死をかけた戦いが始まるんだ」
とロフィが続ける。
「俺が猫科の魂を入れてたら、ヤバかった訳だ!」ランドが笑い出した。
「でも俺…食われそうになったけど…」
チャッパーが呟く。
「ところでランド?何か臭いはしない?」
ニャミが聞いてくる。
「おうっ!部屋の中に居ると、臭いがしたら気づくけど…部屋の外に出たら、直に塩の香りが邪魔をして臭いに気づかないんだよな」
「じゃあ、私が迷子になったら探せないの?」プリムはよく分からない事を心配しだす。
「大丈夫だよ。俺は、ランドよりは良くないけど鼻は良い方だから」とチャッパーが言う。
そんなとめどない話をしていると、停泊中の船の部屋のドアをトントンと叩く音が聞こえた。
ロフィとソロ、3時はすぐに戦闘態勢に入る。
「あのぉースンマセンが…ここに旅の訪問者が3人居ませんか?」
ドアの外の訪問者は、声を上げる。
「ランド!臭いは!?」とニャミが叫ぶ。
「いや…臭いはしない!誰だ!!」
ランドは外の訪問者に声をかけた。
そして、直ぐ様に獣人化をする。
「スンマセンが…ドアを開けちゃっても良いですか?」と声がした。
「お前、誰だ!名前を名乗れ!」
ロフィは叫ぶ。
「名乗るより、見た方が早いと思うんですよね!」と声がするとガチャとドアを開けた。
「お前は!!」
ランドがドアを開けた張本人を見て驚いた。




