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第1話 異世界召喚は現実に

 本日は国立一高等学校の入学式。

 ドーム状に建てられた学生ホールは生徒や関係者で埋め尽くされ賑わいをみせる。校内は適合者育成のためつくれた学校のため通常の高校とは比べものにならないほど広く、施設も充実している。郊外の大学のキャンパスといった方が想像つきやすいかもしれない。


 賑わいをみせる会場であるが少しの違和感を感じる光景がある。生徒達が座るエリアの前半分の生徒達は何やら銀色のブレスレットをつけ、後列に座る生徒達にはそれが見られない。


 この学校ではある規則が存在する。

 銀色のブレスレットを持つ者ーー能力値の高い代表生は優先的に実技の授業を受けることや施設を使う権利を持つというものである。


 これは差別からくるものではなく区別だ。

 適合者育成の態勢が整いつつあるとはいえ、適合者の発見からの歴史はまだ浅い。それゆえ座学を教えられる教員数こそギリギリ足りているものの、実技の授業を行うことのできる講師が絶対的に足りていないのである。

 そのため入学当時の成績で今後変動することも少なからずあるものの、授業の優先度として代表生と一般生という枠組みで区別しているのである。

 まあ、区別するするがゆえ差別が生まれてしまうのも免れないことではあるが。


 2時間にも続いた入学式も最後のプログラム新入生代表の挨拶を残すのみであった。

 

 「ーー新入生代表、白木しらき真冬まふゆ


 「ーーはい」



 ーーおっ、間に合ったみたいだな。


 クレトが会場に到着した頃には、ほとんどのプログラムが終わり、最後の新入生答辞を残すのみであった。代表の生徒が呼ばれ壇上へと上がる。しかし、その生徒が壇上へ上がると形式的に沈黙を保っていた周囲の様子が何やらざわつきはじめた。


 「ーーねぇ、あの人ってもしかして」

 「ーーああ、最近テレビでも話題のAランクの」


 ーーん?あいつは確か今朝の


 適合者の能力値を測るのに中心的に働くのは体内に有するヘルト因子の量だ。なぜならこのヘルト因子が魔法なら魔力、武技なら武気に変換されるからだ。もちろんその他の項目も要素になるが、そもそもヘルト因子が足りなければ強力な魔法や武技は発動することすら出来ないので、ほとんどヘルト因子の量で適合者の能力値が計られるといっても過言ではないだろう。


 適合者の能力値は鑑定システムによってA~Eの5段階に分類される。現代社会において、もともと適合者の存在感というのは強く、異世界から戻りたてで既にAランクというだけで注目される。注目度の高い適合者がテレビなどに取り上げられることは珍しいことではないが、さらに容姿端麗ともなると世間の注目の的にもなるわけである。

 

 「あたたかな春のおとずれと共に、私たちは国立第一高等学校の入学式を迎えることができ‥‥‥」


 一時はざわついた空気であったが、彼女が声を発すると騒がしさは徐々に薄れていき、会場は彼女の言葉を聴き漏らさまいと閑静とした空気へと変貌していた。観衆からは羨望の眼差しが壇上へとあてられる。


 そして、彼女が読み終えると会場からは盛大な拍手が送られた。これは彼女の容姿にあいまって身体から溢れるカリスマ的なオーラからくるものであろう。そんなこんなで最後のプログラムも無事終了し入学式は締めくくられた。


 入学式を終えた生徒達は、別会場へと移動させられる。

 クレトもずらずらと流れる生徒の波に乗って移動を開始する。

 会場に着くとあらかじめ指定されていたクラス順に整列させられた。クレトの並ぶ列に銀のブレスレットを着用しているものはいない。一般生のクラスである。


 その光景は対照的であった。

 前方に並ぶ代表生のクラスの表情は希望ある未来が待っているかのように自信に溢れる面構え、一方で後列の一般生はどこか自信なさげな、冴えない雰囲気をかもし出している。


 目の前に比較物をおかれたのなら、比べてしまうのが世の常だ。一般生自身が代表生との比較される状況を劣等感として受け入れてしまっていることで、このような雰囲気を出してしまっているのだろう。それが代表生へさらなる優越感を与えてしまっていることに気付かずに。


 ーーまあ、例外も多少なりといるようだけどな


 全ての生徒が移動し終えると一人の教師が生徒の前に立つ。


 「ーー諸君、まずは入学おめでとう。この国立第一高等学校に入学できたことを全員・・が誇りに思ってほしい。今後の授業に入る前に鑑定システムを取り行ってもらう。改めて己の能力を理解することで今後の向上へと努めて欲しい」


 教師がそう言うと、会場に設置された個室へと一人一人移動させられる。


 ーーそれにしても全員・・がか


 あながちこの表現は間違っていないだろう。

 異世界から無事に生還し、たとえ一般生であっても難関である第一高校へ入学できたのだから。

 

 ーーまあ俺が入学できたことの方がが奇跡に近いんだけどな

 

 「数字だけ見れば主様など蝿同然じゃからな。おっと次は主様のようじゃぞ」


 クレトの思考を読んだのか、一つの声が脳内に響く。その声はどこか面白げに調子付いているようだ。


 「なんか嬉しそうなんだが」


 「ーーかやかや、気にするでない。ほれ!いった、いった」


 中に入ると、一枚の紙を渡された。

 そして、クレトは慣れた手つきで紙に手をかざし


 「ーー鑑定ーー」


 そう唱えると、その紙には自分の能力値が表示される。

 その紙の一番上にあるのは一文字のアルファベット、『E』

 日本に来てから何度も見た文字であり、現在の己の存在価値を決定するかのような一文字。


 ーーやはり、因子量が少なすぎる

 

 クレトが他の生徒に比べて圧倒的に足りていないもの、それは適合者にとってなくてはならない必要不可欠なものだった。

 落胆こそないものの、一つため息をついてその部屋を後にした。


 鑑定が終われば、このあとは授業などはなく各自帰宅である。クレトも特にやることもないのでそのまま帰ることにした。すると、前方に見覚えのある人物と目が合うーー合ってしまう。急いで目を逸らしてみるが


 「ーーあっ、あなたは確かに今朝の」


 そんなことはお構いなしに、彼女は軽やかな小走りで近づいてきた。


 「今朝は大変失礼致しました。私、白木シラキ真冬マフユっていいます。気軽に真冬って呼んでください」


 ーー白木か、実力も兼ね備えているとなるとあの白木で間違いないんだろう

 

 「ーーああ、入学式で呼ばれていたから知っているよ。俺は高谷暮人タカヤクレト、好きに呼んでもらって構わない。それにしても、新入生首席とは流石・・だな」


 「ーーいえいえ、たまたま運がよかっただけですよ。それでは私は別用があるので。また見かけたら声でもかけて下さいね」


 嫌味を含まないような笑顔でそう答えると、「それでは、また」と付け加えて手を振りながら去って行った。

 クレトは人間関係がそこまで得意な方ではない。

 むしろ、過去の記憶が蘇って苦手な方に部類する。

 かといって、不相応な対応はトラブルを起こしかねないということを理解しているので、相応の対応はするものの、人の深くへは立ち入らないと言ったところであろう。

 そんなクレトにとって注目の的となるような彼女はどちらかといえば苦手意識のある人物であった。


 真冬と別れた後クレトは帰宅のため校門近くまで来ていた。鑑定は代表生から行われていたため、クレトの順番は最後の方であったからか既にに日は暮れ、人影も少なかった。突如クレトは見知らぬ人物に呼び止められる。


 「ーーちょっと、そこのきィみ!! さっき何話していたのかな?」

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