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英雄花嫁(ヒロイック・ブライド)  作者: まぷれうた。
第2章━黄色いチューリップ━
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5.

「…リオン?リオン!おい!リオン!!」

 目の前でコノハとかいう奴が死んでいる。

 俺の目を塞いでいる間に何があったのか。

 リオンに聞きたいことは山ほどある。だが今は、そんな状況ではない。

 ここにリオンがいたと知れれば、リオンの生涯に関わる。

 リオンは自分の部屋で寝ていたことにしよう。

 アルルワの従者は、適当に剣でも刺して俺が()ったことにでもすればいい。

 リオンを抱いて部屋を出る。

 リオンの体は汗だくで熱を帯びていた。

 はぁはぁと辛そうに吐く息が、やけに痛々しい。

「何をしたのか分かんねぇけど、助けてくれてありがとな」

 意識のないリオンに聞こえるはずもないが、言いたかった。

 リオンの部屋へと入り、ベッドに寝かせる。

 リオンには悪いが、そのまま部屋を出る。朝になったらメイド長が熱に気付いてくれるだろう。

 その方が怪しまれない。

 まずは、部屋のアイツをどうにかしなければ。








 いつもの朝がやって来る。

 昨晩この部屋で人殺しがあったとは思えない。

 アルルワの従者は衛士長に任せた。今日中に大臣達が会議を行い、本格的に婚約は破綻になりそうだ。

 昨晩のことは、一部の人しか知らない。普段通りにしているよう言われた。

 今朝はリオンは来なかった。昨日の今日で顔を合わせるのは辛いだろう。

(飯の支度でもしているのだろう。下に下りればいるだろ)

 いつもより早いが、飯を食いに行くとしよう。

 とりあえず大広間に行くと、何人かのメイドが誰かを探していた。

「何をしているんだ」

「リオンがいないんです。メイド長が朝庭に行くのを見たらしいんですが、庭にもどこにもいなくて…」

 なん…だって…?

「…それは本当か?庭はくまなく探したか? 城の中は?まだ探していない場所があるんじゃないのか?」

「全員で探しましたが、城の中にも庭にもいないんです」

 俺は全力で走って外へ出た。

 目の前にはいつもの庭が広がっているだけ。変わったところなんてない。

 凛と咲く庭のチューリップか寂しそうに見えた。黄色いチューリップだけが一際寂しそうに見えるのは俺の気のせいか。

 よく見れば、濡れていない。

 まだ水やりをしていない証拠。

「リオン!リオン!!」

 呼んだって出てこないのなんて分かっている。もういないのも分かっている。でも、呼ばずにはいられなかった。

 呼んだら出てきてくれる。そんな気がして。

「リオン!」

 リオンを呼ぶ声は空へと消えていく。

「リオン…なぜだ……」

 昨晩のことは確かに辛かっただろう。でも、だからって…

 リオンの行方を知る者は誰もいない。遠くへ行ってしまったのか、あるいは、実家にでも帰ったのか。…実家?そうか!

 庭を走り抜け、門へと進む。

 門の横には小さめの扉がある。内側からしか掛からない鍵が開いていた。

 リオンの家は城のすぐ近く。家の前では花を売っていたはずだ。

 これでリオンが見つからなければ、俺にはもう何も出来ない。

「頼む、いてくれ…!」

 花を売る男が見えてくる。見た目からしてリオンのあにだろう。

 リオンの家の前で止まるつもりが、その手前で何もないのに転んでしまった。

「…はは、まるでリオンだな」

 あわてんぼうで、おっちょこちょいで、いつもどこがで転んでいた。

 馬鹿にすると頬が膨らむあの顔が愛おしかった。

「リオン………!」

「あの…お、王子?」

 今になって、見られていたことに気付き、体勢を整える。

「リオンはいるか」

「いいえ、いませんが」

 いないのか…………

 リオンがいなくても話すことはたくさんある。

「話がある。失礼するぞ」

 戸惑うリオンの兄を気にせず家の中へ。こんな事でこの家に来ることになるとは。

 中へ入ると、父親らしいき男とその子供であろう男の子がいた。

 2人ともキョトンとしている。そりゃそうだ。

「リオンの父上で間違いないか」

「えぇ」

「話がある。聞いてくれ」

 俺は、昨晩から今朝にかけて、俺とリオンの身に起きたことを包み隠さず話した。

「…気付いたら死んでいた。目隠しをされている間に何があったのかさっぱりだ。何か知らないか。どんなことでもいい」

 手がかりが掴めるなら、どんな小さなことでもいい。

 話を聞いていた2人の顔は、いつの間にか険しいものになっていた。

「それは、本当なんですね…?」

「あぁ。今朝になってリオンが姿を消した。部屋もそのままだ。探せばひょっこり出てきそうな、そんな感じだった。だから、最初、誰もリオンがいなくなったことに気が付かなかったんだ」

「私はシュンと申します。シュンとお呼びください。リオンのことですが、居場所に心当たりがあります。あの子は昔から、身を隠すなら森に行くんです。森の中に使われなくなった小屋があって、いつもそこにいるんです」

 ここに来て正解だった。さっそく森に……

「森の中は危険です。僕が行きましよう」

「いや、俺も行く。生存確認をしなきゃ気が済まん」

 リオンが無事ならそれでいい。

「リョウ、王子を案内してあげなさい」

 道案内があれば安心だ。

「頼んだぞ、………」

「リョウです」

「リョウ」

 2人の名前は覚えておいた方が良さそうだ。

「急ぎましよう。胸騒ぎがする」

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