表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄花嫁(ヒロイック・ブライド)  作者: まぷれうた。
第2章━黄色いチューリップ━
10/17

3.

 コノハ様がアルルワへ帰った日の夜、またコノハ様がお城にやって来た。

 想定外のことにお城の中は大慌て。

 とりあえず客室に案内し、今夜は寝てもらうことに。

 そのお世話を私がすることになった。

「お部屋の説明は以上でございます。何か御用がありましたら、ベッド脇のベルでお呼びください」

 ベルの音は客室によって少しずつ違うらしい。メイド長は音を聞くだけでどの部屋なのか分かるという。今夜はお客様が1人だからとお世話を任された。大丈夫かなぁ。

「了解した。さっきから気になっていたんだが、歩き方、おかしくないか?」

「へ?」

 視線を下にし、体を確認。

 歩いている途中に止まったにも関わらず、右手と右足が前に出ていた。

 知らず知らずのうちに緊張していたんだろう。全然気がつかなかった。

 手足を引っ込め、気を付けの姿勢。恥ずかしさのあまり動けない。

「ははっ、言わない方が良かったかな?今日はもう呼ぶことはないよ。ゆっくりおやすみ」

 気を(つか)われ余計恥ずかしい。

「し、失礼しました…」

 手をひらひらと振ってくれる。軽く礼をし、ドアを閉める。

「ふぅ───………」

 変な安堵感のせいでため息が出た。そのままへたり込んでしまった。

「お疲れ様」

 顔を上げると、ナギ君が立っていた。

 伸ばしてくれた手を掴み、立ち上がる。

「お水だけど飲むかい?すっきりするよ」

「ありがとう」

 随分と疲れていたみたい。一気に飲み干しちゃった。

「すごい勢い」

 ふふっと笑うナギ君にコップを返し、深呼吸を1回。

「今日はもう寝ようかな。お水ありがとう。おやすみ」

「うん、おやすみ」

 ナギ君と別れて部屋へと向かう。

 私の部屋は階段の目の前。

 階段を上るとフーガ様の部屋があって、フーガ様の部屋に行くにはこの階段を使わないといけない。

 毎日フーガ様を起こすのが日課になってきている私に、少しでも近い方がとメイド長が気を遣ってくれて、この部屋になった。

 この部屋はフーガ様の部屋の真下。フーガ様が何かをすれば、どんな音でも聞こえてくる。

 今日は既に寝ているみたい。何の音もしなかった。

 フーガ様は寝るとなかなか起きない人。今日はぐっすり眠れそう。

 寝巻きに着替え、ベッドに入る。

 意識がうっすらとしてくる。

 明日も忙しくなるだろうな。明日も頑張ら…なく……

 その時だった。

 ガチャリと、ドアの開く音とともに駆け出す音が聞こえた。

 しかも上の部屋から。

 フーガ様がベッドから出ればすぐに分かる。でも、そんな音は聞こえなかった。

 ということは。

(フーガ様が危ない!!)

 本能がそう悟った。

 気づかないうちに私は、フーガ様の部屋に向かっていた。

 私が守らなければ。

 そんなことはないのにそう思ってしまった。

 何かできる訳でもないのに。

 階段を駆け上がり、その勢いのままフーガ様の部屋のドアを開けた。

 転がり込むように中に入ると、ベッドの上でフーガ様と誰かが揉めている所だった。

「フーガ様!!」

 主人を守るのに必死だった。襲撃者が誰かなんて考えていなかった。

 襲撃者に掴みかかり、フーガ様から引き剥がすように後ろへと引っ張る。でも、襲撃者の力に負け、倒されてしまった。

「邪魔が入りましたか」

 襲撃者の声に聞き覚えがあった。思わず顔を上げると…

「コ、コノハ様…!?」

 手に持ったナイフをこちらに向け、動いたら刺すぞと目が言っていた。

「あなたが来なければ上手くいったというのに。王子を殺さなければ、アルルワに帰れないのですよ。失敗したのは、あなたのせいですよ?」

 当然の行いをしているとでも言うように、いつもの口調でコノハ様は言った。

 眼鏡を上げるいつもの仕草も、まるで別人だった。

「ど、どうしてフーガ様を狙うんですか!?お昼までお話してたじゃないですか!!」

「お話、ねぇ。確かにしていたよ。でも、その内容はなんだったかな?リンナ様に言われたんだ。他の女に取られるくらいなら殺して来いと。リンナ様の意思なんだよ」

 くっくっと笑うコノハ様はもはや別人。怪物のように私の目には映った。

「主人の狂言を受け入れ、それが間違っていたら止めるのが私達の役目でしょう!なのに…!!」

 時に受け入れ、時に拒む。メイド長が心得として教えてくれた言葉。すべて受け入れることが主人の為になる訳じゃない。拒むことが主人の為になることもある、と。

「私はリンナ様の為なら手を血に染めると誓った。もう後には引けないんだ!!」

 大きく振りかぶったナイフを私に向かって振り下ろしてくる。一瞬反応が遅れた。ゆっくりとナイフが迫ってくる。殺される…

「止まってんじゃねぇ!!」

 横から衝撃とともにフーガ様が突っ込んできた。体勢が崩れ、床をゴロゴロと転がる。

 胃の中をシェイクされたような感覚が全身に寒気を感じさせる。

「何でもいいから動け!止まっているのは殺してくれと言っているようなもんだぞ!!」

 フーガ様のおかげで殺されずに済んだ。守りたい相手に守られてしまった。

(これじゃいけない。でもどうすれば…)

 そう考えている間にも、コノハ様は迫ってくる。

「さぁ、これで終わりです。見られた以上あなたを見逃すわけにはいかない。2人仲良く死んでください!!」

 このままだとフーガ様諸共(もろとも)殺されてしまう。助かる方法はないのかと必死に頭を回転させる。……いい方法が思いつかない!!

「コノハ様落ち着いてください!あなたに人殺しは似合わない!!殺す以外の道があるはずです!!」

「そんなものあるならこんな事していませんよ!」

 和解は手遅れ、殺されるしか道はないのか。

 迫り来るナイフを見つめ、考えていると、

「俺たちが助かるには、あいつを()るしかない」

 背後に(かば)うようにしていたフーガ様が、そう言った。

「フーガ様…!?」

「だってそうだろ!ここは城の端だから、いくら騒いでも誰も来ないんだよ!夜中に逃げ出そうとする俺を阻止する為に、抜け出したら分かるように作られた部屋がお前の部屋だ!あの部屋以外、ここの音は聞こえないんだよ!」

「でも武器になるものなんて…!?」

 …あった。簡単に仕留められる能力《武器》が。

 コノハ様は3メートル向こう。十分間に合う。

(コノハ様を殺すしか……ない!)

 フーガ様に見られる訳にはいかない。悩んだ末、フーガ様の目を手で覆う。

「な、何しやがる!!」

「大人しくしていてください!!」

 何かを察したのか、フーガ様は静かになってくれた。

 目を閉じ、意識を集中させる。ズキズキと頭が痛むけど今はそれどころじゃない。

 目を閉じているのに、コノハ様がはっきりと見える。コノハ様の胸に意識を向ける。そして送り出す。

「ゔ…あが……ぐぉ………」

 目を開けると、コノハ様は胸を押さえ、苦しそうにしていた。

「あなた…もしや、異常人(ペキュリアー)ですか…?」

 ドサッとうつ伏せに倒れたコノハ様はそのまま動かなくなってしまった。

 冷や汗が出始め、震えが止まらない。

 辺りにははぁはぁと息の音だけが響く。

 気にならなかった頭の痛みが、今更になってぶり返してくる。

 頭が痛い…気が遠くなる…

「…リオン?リオン!おい!リオン!!」

 私の意識はそこで途切れた。








 目を開けると、そこは自分の部屋だった。

 外は少し明るい。きっと明け方なんだろう。

 ベッドの上にいるのだという事は分かるけど、自分でベッドに入った記憶がない。

 昨日の記憶を辿っていく。

 寝ようとしたらフーガ様が襲われて、助けに行ったら大ピンチで、それで私は…私は……

「あぁぁぁ!!あ、あぁ…あああぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 使ってしまったというの!?

 常識人(スタンダード)の前で!?しかも王族の前で!!

 フーガ様に見られたのかな…どっちにしても、もうここには居られない!

 幸い、今は明け方。誰にも見られずにお城から出て行けそう。

 部屋をそっと抜け、大広間に向かう。

「あら、どこに行くの?」

「ひっ!!」

「驚かせてしまったかしら?」

 声をかけてきたのは、メイド長だった。

「出かけるの?」

 なんて言えばいいのか分からない。メイド長、ごめんなさい……

「目が覚めてから眠れなくて、お庭に行ってきます」

「相変わらず花が好きねぇ」

 笑顔で見送ってくれるメイド長。…本当にごめんなさい……

 お城を出て庭を通り抜け門へと走る。

 スワナ城の隣には大きな森がある。そこに身を隠そう。



 フーガ様、ごめんなさい………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ