表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四法院の事件簿 1    作者: 高天原 綾女
8/12

七章 先物取引

        一


 四法院が帰ってきたのは、翌朝六時だった。僕が、徹夜で数学の受験問題を解いていたにもかかわらず、朝帰りした友人の清々しい顔。その肌艶は、格段に上がっていた。

 満足感漂う四法院は、布団に横たわった。


「疲れた・・・・・・」

「そうか、そうか」


 目にクマが住み着いている状況では、まじめに相手をする気は無い。


「体は、疲労の極みにあるが、至極の満足感と達成感。こんな快感に包まれるのは久々だ」

「そうかそうか」

「これから寝る。邪魔はするな」

「ああ、俺も帰って寝るよ」


 四法院の部屋で、あの一問を除いた過去問を全て解いた。

 あの問題に関しては、塾側から渡された解答は見なかった。自分にもプライドがあり、四法院にわかって自分がわからないのは、正直悔しかった。

 既に、四法院は寝息を立てていた。

 休める日にちは、今日を含めて二日。四法院は全て解ったと言ったが、わかったとは言っても理由説明がない。本当に解ったのかは、怪しいものだ。

 約半日を潰し、仕事の準備を済ませた。これで、残りの時間は全て事件に費やせる。

 書類をまとめ、自宅に戻るとシャワーを浴びながら今後の事を考える。

 四法院は、事件の全容が解ったと言う。それも数学の問題を見た時にだ。にわかには、信じ難い。

 露骨な嘘を四法院は吐かない。戯言や、真実としか思えない嘘なら時にはあるが、大半は嘘にしか思えない真実だった。今回も、本当に解ったんだと思う。

 そうだとすれば、今後の行動を推測してみる。これから午後まで寝て、それから証拠固めに動くのかもしれない。であれば、同行するために、仮眠を取って置いたほうが懸命だろう。

 僕は、バスルームから出て、バスタオルで荒っぽく体を拭き、短パンとTシャツを着ると布団に入った。

 まどろむような感覚だった。後頭部にモヤがかかっている。もう、思考力が無くなっていた。自分は、四法院とは違い睡魔には強い方だ。それでも、ここ数日の疲れが出ているのだろう。体の感覚が分離するように眠りに落ちていった。


 音、頭上から電子音が聞こえた。携帯電話が鳴っていた。


「はいはい」


 声を出したつもりだったが、出ていないかった。


《永都、いま大丈夫か?》

「ああ」


 しわがれた声を絞り出した。


《どうした?寝てのたか》

「大丈夫だ」

《四法院から連絡があった。全て見えたから捜査権を貸してくれと言ってきた》

「また無茶を・・・・・・」

《だから、刑事が付き添い。我々が動くことを伝えると、しばらく考えると言って切りやがった》


 御堂の口調から怒気を感じ取る。


「それで?どうするんだ」

《どうもこうもない。本当に解ったのか?》

「あいつは、そう言っている」

《お前も事情は知らないのか?》

「残念だが、知らない」

《だったら、すぐに奴を連れて来てくれ》

「それが、まだ証拠が無いらしい。それを探したがっている」

《それは何だ?こちらで探そう》

「それを聞いてないんだ」

《わかった。こっちで吐かせる。連れて来てくれ、それで十分だ》

「ちょっと待ってくれ。四法院を尋問なんて不毛だ。冤罪の時の取調べで、どれだけ頑迷に不屈な態度で抵抗したと思ってるんだ。四法院に強攻策は逆効果だ」


 その意見に、御堂は無言だった。


「四法院の様子から、差し迫った証拠隠滅の恐れは無さそうだ。僕が出来る限り早く説得して連れて行く。それでいいだろ?」


 御堂は何も言わないが、悩んでいる沈黙のように感じた。

 無言の通話が数秒続いた。


《わかった。頼む》


 その言葉を聴き、電話を切った。

 布団から出て、洗面台に向かった。冷水で顔を洗うと眠気はすっかり飛んでいた。身支度を整え、冷蔵庫から柑橘系炭酸飲料を取り出して口に含んだ。

 胃から体全体に冷たさが伝わる。

 今日は、どこに行くかわからない。そう思って、服装はスーツにしている。

 睡眠量は足りているとは言えないが、頭は十分働く。今日、事件が動く予感がしていた。



 時計を見ると、既に十五時を二十分ほど過ぎていた。歩きながら、四法院に電話を掛けたが出なかった。

 車に乗り込むと、ゆっくりと車を進めた。安全運転を心掛けている。

 四法院の行き先を考える。だが、家以外思い浮かばない。敢えて、思い浮かぶ場所といえば、本屋、料理店、少ない確立で風俗店だろうか。

 闇雲に探すのは、愚策というものだ。とりあえず、寝ているかも知れないので、家に向かってみることにした。

 四法院の自宅前に着きノックをしたが、自宅には居ないようだ。

 再び、四法院に電話を掛けてみる。数度、コールがした後に回線が繋がった。


《ほーい》


 暢気な声だ。


「四法院。今どこに居るんだ?」

《今?新宿東口辺りかな。そうだ。永都も来てくれ》


 四法院の声は弾んでいる。その口調に、解決への期待が増した。


「すぐに行く」


 そう言って電話を切ると車で新宿へ急いだ。ここからなら、そう時間はかからない。

 急ぎ車を走らせると、銀行の前に四法院は立っていた。


「四法院」


 パワーウィンドウを開けて呼ぶ。

 右手を挙げて答えると、四法院が乗り込んできて口を開いた。


「行くぞ!」


 吐いた一言には、意思が漲っていた。鳥肌が立つ感覚。ハンドルを握り直す。


「どこへ行く?」

「決まっている。とりあえず、直進だ」


 四法院の眼に光が帯びていた。

 既に、日は落ち始め夕方になっていた。


 ………。………………………。

 明かりが灯された看板。店内に、緑と青のレーザービームが放たれている。御香のような匂いが店内に充満している。

 店の隅のテーブルに四法院と向き合って座っていた。両脇を女性に固められていた。


「で、なんでここに居るんだ?」

「んっ?何がだ?」

「何がって、この場所だよ!」


 立ち上がって、両手で机を叩いた。


「お兄さん、何を怒っているの?」


 胸を露わに出した茶髪の女がおどける様に言った。


「そうだぞ。何を怒ってるんだ?こんな心地良い場所で」


 四法院の手は、女性の胸を掴んでいた。


「僕は、事件の真相を知るために、今日は君と動いているんだ。それなのに、なんでこんな場所で時間を浪費しないといけないんだ」

「お兄さんたち、警察の方なの?今日は出張とか?」


 女性は、驚いたような仕草をして、胸を押し付けてきた。


「永都は、真面目だな~。もう少し、楽しむ時は楽しまないと精神を病むぞ」


 四法院は、横に座っている女の乳首を摘んで喜んでいる。


「真面目で結構だ。御堂にも、今日中に連れて来てくれと言われている。こんな場所で、貴重な時間を無駄にしたくない。証拠だって揃ってないんだろう」


 四法院は女の後ろに回り込み、その華奢な肩に顎を乗せて頷いた。


「ひょっとして、口からでまかせじゃないだろうね?事件を解決していないなら、僕は捜査に戻る」

「お兄さん」


 女性の色っぽい声を振り切って席を離れた。


「大丈夫だよ。証拠は逃げないし、残っているなら消えないよ。消えているなら、既にこの世には無い。だから、今は楽しめばいいんだよ」


 愉快そうに言う四法院の手は、女の太ももに触れていた。


「そうか。勝手にしてろ」


 四法院を残して、店を出て行った。

 一等地にあるコインパーキングに入り、安くない駐車料金を払った。

 車に乗り込むと御堂に電話を掛ける。


「僕だ。四法院はダメだ!」


 御堂からどういう事かと説明を求められた。とても、電話で話す気にはなれない。


「今からそちらに向かって説明する。あぁ、分かった。亀有署に向かえばいいんだな」


 車を走らせる。緩やかに景色が流れる。

 深い溜息を吐いた。まったく意味の無い時間だった。



        二



 亀有署の特捜本部に着いたのは、四法院と別れて四十分後だった。

 人の出入りが激しい。特捜本部の活気に圧倒され、国家権力の力の大きさを思い知らされる。

 会議が終わったのか、御堂管理官を訪ねてきた事を告げると亀有署の方に異様な丁寧さで案内された。

 捜査員が塞いでいる廊下を潜り抜けて、奥の一室に通された。

 御堂は、部下と亀有署上層部に囲まれていた。何かを伝える光景の後に、僕の存在に気づいてこちらに来て声をかけられた。


「どうだ?」


 普段は精悍な御堂の顔も、心なしか疲労の色が浮かんでいた。


「どうもこうも、四法院は事件のことなんか忘れているように遊んでいる」

「そうか」


 溜息にしか思えない言葉を吐くと、御堂は深く息を吸いこんだ。

 警察署の建物の外に置いてある販売機に行く。


「詳しい話を聞きたい」


 そう切り出されると、この場が隔絶されたような雰囲気になった。

 御堂がジュースを買い、販売機から拾い渡された。そして、言葉を続ける。


「四法院には、この事件が解けているのか?」

「わからない。だが、本人はそう言っているよ」

「まだ証拠が無いと言っていたな。それは変わらないのか?」

「それは変わらないようだ。四法院の云う事には、すぐに消されていなければ、証拠は残っているらしい」

「証拠なんて、消されない限り大体が残っているだろう」


 御堂が、もっともなことを言った。自分もその意見には賛成だが、四法院の性格を考えると少し意味合いが違うような気がする


「もしかして、証拠を作らないように犯行をしたんじゃないのか?」

「どういう事だ?」

「昔、四法院が言っていたんだが・・・・・・・」


 御堂が腕を組んで聞く態勢を作った。


「昔、四法院が中古ゲームショップでバイトしていたそうだ。その時、四法院のゲーム知識と卒の無い接客でオーナーの信用を得たらしい」

「あいつが信用されるのか。珍しいな」


 四法院の知識量は幅が広い。ゲームショップ店主もゲームだけに止まらず広範囲にわたって助けられているはずだ。仕事は几帳面、知識は豊富、朝が弱いが、その欠点も完璧すぎる人物よりも受け入れやすかったはずだろう。


「店主は、喜んでいたらしい。それはそうだろう。時給八五〇円で、かなり優秀な人材を雇えたんだから」

「それで?」

「二ヶ月を過ぎた頃から、四法院の金回りが良くなった」

「何があったんだ?」

「何をしてると思う?」


 御堂は、興味が無さそうに答える。


「ソフトでも盗っていたのか?」

「四法院が、そんな短絡的なことをすると思っているのかい?」

「いや。何をやっていたって?」

「四法院は、バイト先で商売をやっていたんだ」

「どういうことだ?」

「中古店の店内で、自分のソフトを売ってたんだ」

「詳しく説明しろ」


 御堂の目が真剣になった。


「例えば、毛利元就の野望という定価九八〇〇円で発売したばかりの人気ソフトがあるとする。それを客が売りに来て、そのソフトを三五〇〇円で買い取る。当然、買い取るのは自費だ。そして、人気ソフトだから、すぐに購入者が現れる」

「なるほど。それで、自分のソフトを売る訳だな」

「ああ、そうすれば、売価六九五〇だ。三四五〇円の利益だ。さらに、ここのメリットはバイト代も保障されている。一日に何度も出来ないが、狙いを人気ソフト、二、三タイトルに定めて、一日に一度、多くても二度まわせば、かなりの高収入だ」

「そう、巧くいくのか?買取用紙に書かないと売買出来ないだろう」


 御堂の感想だった。


「その点は、問題ないらしい。窓口でのやり取りだけだから、書いてもらった買取用紙は破棄さえすれば、何にも残らない」

「店主は、不審に思わないか?」

「店主からすれば、人気ソフトだが意外に利益が薄い、そんな程度に思わせられる。そんなソフトは現実に多くあるからね」


 御堂は唸っていた。


「あの小悪党が・・・・・・」

「四法院曰く、バイト代をケチるからこうなる、んだそうだ」

「バカな」

「だが、四法院の能力をはした金で少しでも使おうという意図が見えていたのは確かだ。事ある毎に、四法院に助言を求めるようになっていたそうだ。現に助言に従うと店全体の売り上げは上がっていた」

「それでも犯罪だ」

「だろうね。だから、完全犯罪をしたんだろう。それに、立件は無理だ。客に訴えて貰わない限り。だが、客方は気付かないだろうし、面倒は御免だろう。四法院は、時給一二〇〇円貰ってればやってないと言っていたしね」


 御堂は、腕を組んで思案している。


「で、四法院が店を辞める時には、買取用紙には通し番号を打つことを提案したそうだ」


 御堂は、鼻で笑った。


「でも、その提案は却下されたそうだよ」

「だろうな」


 御堂にも結論が薄々見えているようで、言葉を続ける。


「そんな番号を打つと、税務署の追及が激しくなって、身動きが出来なくなるからだろう」

「税金で締め上げられるのは、本当に真綿で首を締め上げるような感覚だからね」


 御堂は、反応しなかった。公務員であり、税での不正の余地はない。だが、キャリアの彼の未来には、警察の外郭団体への天下り特典が待っているのだ。一般市民の苦労は分からないだろう。

 しばしの沈黙が生じた。

 沈黙を破ったのは御堂だった。


「今回は、そういう手で証拠が残らないようなやり方ではないということか?」

「口調から察するに、そうだと思う」

「事件の全容が解っているなら、なぜ言わないんだ?」

「僕も聞きたい」

「だが、この事件は解決できる。そう言う事だな」

「あぁ、四法院の気の迷いでなければ」

「そこが一番心配だ」


 御堂の心境を察すると、自分自身無性に不安になった。


「アイツ、絶対に吐かせてやる」


 御堂が拳で手を強く握り込んだ。。


「一応、四法院の推理破綻を計算に入れておいた方が懸命だな」


 僕もそう思った。何も四法院の能力を疑っている訳ではない。だが、あまりに矛盾だらけ、証拠はあるが全てが黒幕に繋がらないのだ。


「僕も手伝うよ。これから全死刑囚の犯罪と周囲の動きを調べたい。何か見えてくるかも知れない」

「それは、また気が遠いな」

「そうかも知れない。だけど、そこが気になるんだ」


 御堂は、何も言わずその場を離れた。

 四法院が、どうであろうと関係ない。独力で、迫るしかないのだ。

 明日、御堂は四法院に会いに行くだろう。その時に、僕も同行して説得しよう。

 四法院の推理が当たって無くても、捜査を広げることが出来るかもしれない。

 この行き詰るような閉鎖感を何とかすることが第一に思えた。

 今頃、四法院は何をしているのだろう。まだ女と乳繰り合っているのだろうか。

 飲み終わった空き缶を、ゴミ箱に入れると資料を見せてもらうことにした。



        三



 思いのほか亀有署に長居をしてしまった。

 資料を取り寄せてもらい、少しの間眺めていると、御堂に来客だと知らされた。

 御堂の名を呼ぶ声に、思いっきり聞き覚えがあった。


「御堂、どこだ?善良な市民が、警察の地位向上に協力をしてやるぞ」


 急いで廊下に出ると、四法院が大声で探していた。

 既に、制服警官は訝しげな表情で見ている。すぐに出ないのは、御堂の名を出しているからだろう。とりあえず黙らせようと、駆け足で出迎えた。

 四法院の前面に出た。


「おお!永都。来てたのか」

「おお、じゃない。こっち来い」


 四法院を奥の部屋に連れて行く。


「御堂は、こっちに居るのか?」


 警官たちの視線などまるでそよ風のように受け流し堂々としていた。


「御堂はどこに居るんだ?」


 室内に入った四法院が、パイプ椅子に腰掛け言った。


「よく来たな」


 開きっぱなしのドアから御堂の姿が見え、そう言って歓迎した。


「いやいや、善良な市民なら警察に協力するのは当然ですよ」


 四法院は、満面の笑みを御堂に向けた。


「永都から聞いている。事件の全貌がわかったんだってな?」

「ああ。わかった」

「だったら、これからすぐ、説明して貰おうか」


 御堂はドアを閉めると、室内に三人だけになった。


「さぁ、説明して貰おうか」


 御堂がドアの前に立ち、僕は壁に凭れ掛かった。

 椅子に腰掛けていた四法院が、ゆっくりと立ち上がる。いち動作を目で追う。

 四法院が口を開いた。


「その前に」


 四法院の手が、ズボンのポケットに入り出された。その手には、沢山の紙が握られていた。


「それはなんだい?」

「これは、御堂へのプレゼントだ」


 御堂の前に、四法院が進み出た。


「これを頼む」

「何だ?」


 御堂は、その紙を手に取ると驚きの声を上げた。


「なんだこれは!」

「なんだと言われてもな、見たら判るだろう。領収書だ」


 御堂の傍に行き、領収書を覗き込んだ。

 どれも風俗の領収書のようだ。あ、でも中華料理弁当の領収書も含まれていた。ざっとだが金額を合計すると三十万近くになる。


「コレは全て必要経費だ。立て替えて貰おう」

「お前なぁ。こんな経費認められるか!」


 領収書を床に叩きつけた。


「だったら、この事件は迷宮入りだ。お前の出世の場が、中央から地方に移るぞ」


 御堂は、四法院に鋭い眼光を向けている。四法院が、領収書を拾い、御堂の胸に押し付けた。


「御堂、警察には巨額の裏金があるんだから、これくらい何でもないだろ。キャリア官僚だけ不正できるなんて不公平だ。俺にも欠片くらい分けてくれよ」

「貴様~」

「お前だって、俺の手柄で出世するんだ。お前が立て替えてくれても、いっこうに構わないが?天下りで何度も退職金貰えるんだ。先行投資だぞ」


 四法院は、悪そうな笑い方をしていた。御堂は屈しない。


「いいか御堂。今、この事件に何人動員してるかわからないが、所轄を含めれば少なくとも百人は居るだろう。その人員の給料を一日限界まで安く見積もっても五千円。いくら食費なんかは、所轄の金だといっても、警察の金は税金だ。一日でも早く解決すれば直結して節約になるじゃないか」


 御堂が口だけで笑った。


「いいだろう。だが、説明が先だ」


 四法院は目を半開きにして、その言葉に応じた。


「駄目だな。俺は、警察は信じない。まずは、領収書分の現金と引き換えだ。それと、解決後の報酬は別だからな」

「無理だ。事件が解決したら、経費として認めよう」

「御堂、それは呑めない条件だ。俺には、もう金が無い」

「だったら今すぐ話せ」


 金が無いと知った御堂は強気だ。


「そうか、残念だ。だったら俺は、明日からバイトに戻る」


 御堂の顔つきが変わった。


「御堂。一応、明日の昼まで待ってる。気が変わったら、現金を持って来てくれ。それが駄目なら、金のなる木を作ることにする」

「金のなる木だと?どういう意味だ?」


 四法院は微笑っていた。


「明日が楽しみだ」


 そう言って、四法院は亀有署を出て行った。

 僕は、御堂を見ていた。冷静な面持ちだが、胸中穏やかじゃないだろう。


「御堂、どうする?」


 御堂は、考えている。そして、疑問を口にした。


「四法院の金のなる木とはどういう意味だ?」

「それは・・・・・・」


 言葉に詰まった。金のなる木という語句。それに加えて、意味深な態度。四法院の人間性。全てを考慮する。

 ………。

 ………………。

 ………………………。

 ………………………………。

 どこをどう考えても、最悪のシナリオしか思い浮かばない。


「御堂は、どう思う?」


 御堂は腕を組み直し、落ち着いて話し始めた。


「あいつは、事件の全貌が解ったと言っていた。あいつなら、黒幕に金をせびりに行きかねない」

「まさか、いくら四法院が金に困ってるからって、犯罪者と繋がるなんて」


 御堂は、澄んだ目でこちらを見ている。


「本当にそう思うか?」


 そう真剣に聞かれれば・・・・・・。人の心だ。完全に言い切ることは出来ない。

 だが、四法院がその気なら、富などいくらでも稼げるはずだ。卓抜した商才があることも確認している。覚悟をすれば、二、三十年後には権力の一翼も担えるほどの力があるのだ。そこまで考えが至って、断言した。


「四法院が、この犯罪の黒幕と手を組むことは絶対にない」


 だが、御堂は懐疑的だった。

 四法院は、金より女。女より信念で動く。金を軽んじているわけじゃないが、金は便利な道具だとしか見ていない。

 だが御堂は、四法院の心を量らず、能力だけを恐れている。

 僕が四法院との仲介をしなければ、今後は両者にとって不利益にしかならないだろう。四法院も誤解を招くような言動を慎み、注意をすれば、もっと社会で飛翔できるだろうに・・・・・・。

 四法院の金のなる木は察せないが、僕は御堂を説得し続けることにした。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


御意見、御感想、誤字脱字の指摘、なんでも大歓迎です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ