八話 魔法の町ガナス
「ドラゴン!?」
佐藤が復唱するがそれについて説明している暇は無い。とにかく急がないと丸焦げになるか食われる!
ブォォォ
クソッ!早くぬかるみから脱出しやがれ!
バキッ
やってしまった。牽引フックを折ってしまった。これでは小型トラックを脱出させることは出来そうに無い。
「どうしよう!?」
「荷台からバイクを下ろせ!トラックはあきらめろ!」
佐藤が慌てて小型トラックから降りて荷台に向かうのが見える。上空のドラゴンはいまだに旋回を続けてくれている。
「降ろしたよ!」
「エンジンをかけて俺について来い!」
プリウスをバックさせると人生ではじめての180度ターンを決める。後ろを確認すると佐藤がバイクで着いてきていた。
ドラゴンが急降下を始め、足で小型トラックのボディを掴むと持ち上げ、一緒に上昇していくのが見える。
「俺を置いてでも先に行け!」
「え?でも……」
「お前は生身だけども俺は一応鉄の中にいる!そして、お前のバイクのほうが悪路に強いだろ」
「分かったよ!次の町で待ってるね!」
佐藤の運転するバイクはドンドン俺の運転する車を置いて行く。後ろを見るがドラゴンの姿は見えない。窓を開けて上を見るとドラゴンが上空を飛んで、足には小型トラックが掴まれている。小型トラックってそんな軽い物じゃないだろ!
上空のドラゴンが小型トラックを道の先に放り投げるのが見えた。トラックが空を飛ぶなんて考えたことも無かった。というか、そんな場合じゃない!かわさないと!
ゴシャン
小型トラックは何とか道の横に落ちたおかげで直撃せずに済んだがいまだに上空をドラゴンが追いかけて来る。目の前にうっすらと城壁に囲まれた町らしき物が見える。
「おーい!この門まで走ってきて!」
門では佐藤が手を振っているのが微かにだが見える。
「このままだとドラゴンが町に!」
「良いから門を駆け抜けて!」
もうどうなっても知るか!責任は全部佐藤に押し付けてやる!町の門はすぐそこに迫っていたが、城壁の上に人影が何人も見える。人影は全員杖らしき物を持っていた。
ボウッ
その人影たちから火の玉が幾つも放たれると上空のドラゴンに命中する。ドラゴンは緩やかに降下すると地面に墜落する。その光景をバックミラーで確認しながら門を通過すると、ブレーキを床いっぱいまで踏み込んで停車すると門が閉じられる。雨もいつの間にか止んでいた。車から降りると佐藤が駆け寄ってきてくれた。
「良かった!」
「あの人たちは?」
「田中がドラゴンに追われてるって話したら協力してくれたの」
人混みの中からいかにも魔法使いといった格好の男が近寄ってくる。
「ようこそ。ガナスへ。私は町長のカンタレです」
カンタレ?あ、長老から手紙を預かっていたな。
「これ、前の町で長老から預かった手紙です」
カンタレという人物は見た目は30代かそこらへんに見えるな。町長にしては若い感じがする。
「これはあの長老のお知り合いの方たちでしたか。こちらへ」
「あの、車は?」
「車…?」
佐藤、車といってもこの世界の人たちには通用しないぞ。代わりに指でも指しておくか。
「あぁ!あの不思議な乗り物のことですね!あれはあのまま置いておけば良いです。後で警備を付けておきましょう」
こっちの町でも警備を置いてもらえるのか。あの長老一体何者なんだよ?
町長のカンタレについていくと立派な石造りの家へ案内され、応接間らしきところへ通される。部屋のろうそくがカンタレが指パッチンをすると灯がともる。すげぇ、魔法だ。
「驚かれましたか?この町の大半の物が簡単な魔法を使いこなせるんですよ」
カンタレは人差し指を立てるとその先端に小さな火が灯る。熱くないのか?
「今日はドラゴンに追われてさぞかし疲れたことでしょう。先に宿のほうを紹介しておきます」
カンタレが指パッチンをすると机の上に立体マップが出てくる。完全に俺たちの世界の負けだな。
紹介された宿に向かう途中、街中ではカンタレの言うとおり町の人々が普通に魔法を使って生活を営んでいる。中には治療まで行っている物まで見ることが出来た。
宿に到着すると、当たり前のように二人部屋が紹介される。もう何の疑問も持たないぞ。
「何か凄すぎませんか?」
「最初の町と比べ物にならねぇよ」
窓を開けて外を見ると、日が傾いて夕方になっていた。
「今日は早いかもしれないけど寝るか」
「そうですね。流石に頭が追いつかないです」
魔法か…ここに来てようやく異世界らしいモンスターにも出会ったし、何か楽しくなって来たな。
気がつくと眠りについていた。