三十五話 チンピラ
浅草は確か半年前の事件でかなり爆風を喰らっていたはずなのに表向きの建物はほとんど修繕が終わっているな。でも、ちょっと裏路地に入ると窓がすべて割れたビルや、壁の一部が崩落した建物が目立つ。東京はほとんどこういう感じなんだけどな。しかも、治安は最悪と来たもんだ。
「おい!そこのお前!」
ほら、変な奴らに絡まれた。人数は三人か。ナイフにバット、素手か……。
「怪我したくなきゃ金を全部出すんだな」
「この先の有料駐車場に車を取りに行くだけなんだ。見逃してくれないか?」
「車も持っているのか。鍵も出しな!」
こういう時って問題起こしたらマズイ様な気がするけども、これは正当防衛に入るよな。
「いいから早く出せ!殺されてぇのか!?」
相手が武器を構えてきた。いつでも来い!一ヶ月間の間に近接格闘術もしっかり叩き込まれたからお前らみたいなチンピラには負けない。
「もういい!殺してでも奪い取れ!」
「うおおお!」
バットを持った男が走ってきた。バットを頭上に振り上げて下半身ががら空きだ。最初の一撃をかわして足を払えば……。
「ぐえっ」
簡単に倒れた。そんで、みぞおちを殴れば息が出来なくてすぐには反撃できないだろ。
「かはっ!」
バットを地面に落として苦しんでいる。後は二人だ。
「次はどっちだ?」
「くそっ!」
こんな風に力の差を見せ付ければ他の仲間は怖気づく。まったく、教官は余計なことばかり教えてくれたよ。
「どうする?まだやるつもりか?」
「姉貴がいれば……」
「姉貴?」
「あぁ!姉貴がいればお前なんか瞬殺だ!」
「馬鹿野郎!それ以上喋るんじゃねぇ!警察に姉貴の存在がばれるだろ!」
俺の周りの奴らは何でもペラペラ喋ってくれる。おかげでこいつ等がただのチンピラじゃないことが分かった。
フォォォォ
「この音姉貴のバイクだ!」
この音……前に聴いたことがある。嫌な予感がする。
「姉貴だ!」
路地から勢いよく真っ白な大型バイクが飛び出してきた。サイドに書いてある漢字一文字に、乗っているライダーのヘルメットが猫耳付き……。
「さぁ!私の弟達をいじめてるのは誰!?」
猫耳付きのヘルメットを取ると、やっぱり。美香だ。
「え?一也!?」
「知り合いなんスか?」
「あんた達、また一般人を武器を使って脅したの!?」
「へ?いや、これは……」
男がナイフを隠した。話を聞く限りこいつ達、常習犯だな。魔王軍と違ってこっちは統率が取れて無さ過ぎだろ。確か、美香は一回バイトリーダーになったけども皆言うことを聞いてくれないって泣きついてきたことがあったな。
「あんた達は基地に戻ってなさい!」
「……はい」
ウーウーウー
パトカー?
「マズイ!あんた達は先に逃げなさい!」
「姉貴は!?」
「私は一也と一緒に逃げるから大丈夫!」
勝手に巻き込まれる。何とかして回避しないと。
「おい!そこの二人大人しくしてろ!」
警察官だ!待て!俺は襲われそうになった被害者だ!って言っても聞いてくれそうに無い感じだ。
「このヘルメットを被って後ろに乗って!」
「俺は関係ないだろ!」
「もう警察に言っても無駄よ!銃を構えてるよ!」
マジだ!警察官二人が銃をこっちに向けている。もう美香についていくしかなさそうだ。
ヘルメットを被ってバイクの後ろにまたがると警察官のほうへと加速していく。
「止まれ!」
警官が発砲してきたが、まったく当たらない。猿が撃った方が上手なんじゃないか?
「うわぁ!」
「現在浅草でクイーンを発見した!至急応援求む!」
クイーン?美香のことか。警察も痛々しい名前を美香につけて恥ずかしくないのか……。
バイクが大通りに出ると覆面パトカーがすでに向かってきていた。それも一台じゃない。五台もだ。
「カラーボールをフロントガラスにぶち当てて!」
美香から中に赤色の液体が入っているボールを渡された。これを先頭のパトカーにぶつければ良いんだな。
ビシャッ
カラーボールがパトカーのフロントガラスに当たって割れて、中の液体がフロントガラスに広がった。視界が塞がったパトカーが路上駐車の車に突っ込んだ。この調子でカラーボールを投げ捨てれば良いのか。
「次!」
「もう無い!」
「はぁ?残りはどうするんだ!?」
「振り切る!」
バイクは通行止めの首都高に入った。後ろのパトカーも付いて来た。首都高って確か……。
「おい!首都高って所々崩落してなかったか!?」
「そうだけど、どうかしたの?」
半年間で人間ってこんなにも変わるのか。いや、無茶はするタイプだったような……。って、高速道路が崩れてる!
「止まれよ!」
「え?やだ」
アクセルを吹かすな!ブレーキをかけてくれ!あ……ああ!
「うわあああああ!」
空を飛んでいる……。違う。落ちてる!下の幹線道路に落ちる!
「大丈夫だって」
幹線道路に荷台に大量のスポンジを乗せたダンプが落下地点に通りかかった。
ボフッ
「ね。大丈夫だったでしょ」
美香が満面の笑みを見せてくれた。




