十六話 傾いた思想
オルガの町へ近づくと上空でドラゴンが旋回を始めた。
「監視でもしてるんですかね?」
「さぁな。とにかく魔王に会ってみるんだ。そうすれば何か分かるはずだ」
城壁の入り口には守衛所があり、車止めのゲートまで用意されていた。明らかにこの町だけ技術力が段違いだ。
「入り口には……ゴブリン?」
確かに、入り口を守っているのはゴブリンだが装備がおかしい。ゴブリンの森に居た奴らは、西洋の鎧みたいなの来ていたが、こっちはボディーアーマーにヘルメット、まさしく現代の軍人だ。
「お前達、エンジンを切れ」
日本語だ。この町のゴブリンはしっかり日本語を話すようだ。それよりもこいつらの装備だ。自動小銃に、拳銃。下手なことをしないほうが身のためだ。佐藤もそれを察しているな。
「この町に何のようだ」
「魔王に会いに来た。日本から来たといえば分かるはずだ」
ゴブリン達は守衛所で電話を使っている。電話なんて物まであるのか。
「良いだろう。前の車についていけ。変な行動をするなら容赦なく撃ち殺す」
なんだこの町は、完全に軍の施設と変わらない感じだ。ここまで良く一年で仕上げたもんだ。
前を走るピンク色の軽自動車について行くが、途中の城下町は人っ子一人居ないどころか、猫や犬すら見かけない。一体どこに行ったんだ?
「ねぇ、この町から生きて帰れるの?」
「わからねぇ。だけどもここで変な行動を取れば確実に死ぬ」
そうだ。今は大人しく従っていれば殺される心配は無いはずだ。多分……きっと……
城の前の駐車場に車を止めるように誘導される。
ガスッ
やべ、隣の車に当ててしまった。おい、ゴブリン笑うな。恥ずかしいだろ。
「こっちだ。着いて来い」
後ろには、自動小銃を持ったゴブリンが二体。前には拳銃を持ったゴブリン。お願いだから佐藤よ。変な行動を取るなよ。
「くしゅん!」
ビックリした!くしゃみをするな!ゴブリンたちもビックリしてこっちを見てるだろ。
しばらく城内を歩くと広い所に出た。王様とかが居るような部屋だろうか?テーブルには沢山の食事が用意されて、テーブルには一人の男が座っている。
「ようこそ。わが城へ」
なんだ?歓迎でもしてくれているのか?
「私はこの世界では魔王と呼ばれている実島武だ。まぁ、座って食べなさい。長旅で腹も減っているだろう」
「はい。遠慮なくいただきます」
佐藤!いきなり席について飯にがっつくな!周りのメイドらしきゴブリンたちがくすくす笑っているだろ!あぁ、こいつこんなに馬鹿だったっけ?
「君も食べたらどうだ?」
ここは食べないと失礼だな。というか、食べないと何されるか分からない。まずは佐藤がおいしそうに食べている肉なら問題ないだろ。
まずっ!
この肉は一体なんだ!?生ゴミみたいな味がするぞ。よく佐藤はおいしそうに食べるな。一応、他の料理は日本で見たことの有る料理だから安心だな。
「この肉は何の肉なんですか?」
「あぁ、その肉か?それはメスのドラゴンだ」
ドラゴンの肉ってこんなに不味いんだ。この25年生きてきた中で一番の衝撃の事実だよ。
「それで、何か話があって来たんじゃないか?」
「そうでした。貴方は日本から来たんですよね」
「そうだが、それがどうした?」
「日本に戻る方法って知りませんか?」
「そうか……君は日本に戻りたいのか……」
え?もしかして地雷踏んだ?空気が重くなったぞ。
「君は今の日本をどう思う?」
急にどうした?政治の話か?それなら俺はさっぱりだ。
「どうって……政治にはあまり興味はないですし……」
「そっちのお嬢さんはどうだ?」
「私も関心はありませんね」
「そうか……やっぱりな」
「あの……それが日本と戻るのに何の関係が……」
「悲しいな。これが現実か……」
なんだこの爺さん。泣き出したぞ。ヤバイな……。これはひとまず帰ったほうが良さそうだ。
「佐藤。帰るぞ」
「え、でも……」
帰ろうとすると、数体の武装したゴブリンが行く手をさえぎってくる。
「今の日本は腐っている」
この爺さん突然語り始めたぞ。
「若者は未来に絶望し、政治家は自分のことだけを考え管理職の人間は部下をロボットだと思っている。私はそんな日本を変えたい……いや、壊したい」
「ねぇ、あの実島って人語り始めたよ」
言われなくても分かってる。それでも今は大人しくしているしかない。
「君達人間にはその兵隊となってもらいたい」
逃げよう!待っていても今の一言を聞いたらヤバイ!確実に無事ではすまない!
「逃げるぞ佐藤!」
「え!?ちょっと!?」
ゴブリンどもは呆気に取られてまともに機能していないな。想定外のことには対処できないマニュアルゴブリンか。
タァン
あれ?足に力が……入らない。
「田中!?ねぇ!しっかりして!」
なんで佐藤が俺の太ももを押さえてるんだ?何故、そこから赤い液体が流れ出してるんだ?
「いってええええええ!」
痛い!ここから逃げないとマズイのに痛い!気が狂いそうだ。
「男は軽く治療して独房にでもぶち込んでおけ!」
ヤベ……気が遠くなってきた……俺死ぬのかな。
「女のほうはいい検体になるぞ。すぐに処置室に連れてけ!」
「いや!離して!一也が!」
おいおい、いつから下の名前で呼ぶほど親密な関係になったんだよ。……無理だ。意識が……。
「いてっ!」
痛さで目が覚めたが、ここはどこだ?周りはコンクリートの壁に、鉄の扉、汚い様式便所にベット……。あぁ、牢屋か




