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栗&リス

作者: BJ

すべてがオレンジ色に染め上げられた夕暮れのオフィス街を一人

私は   歩く


仕事を終え帰路につく人の川の流れに

私も   流されゆく


スローモーションで無音の世界


そんな中

この川の流れの向こうから逆流に乗って

一人の品の良い白髪の紳士が悠然と歩いてきた


私は彼を見た瞬間現役時代の王貞治の一本足打法フルスイングで後頭部を強打されたような衝撃に全身を包まれたのをおぼえている


いや、彼を感じた瞬間と言った方が正確なのかもしれない

何かこう言葉では言い表せない得体の知れぬ『気』のような物を感じたのだ


彼がだんだんと私の方へスローモーションで近づいてくる

彼は少し伏し目がちで下を見るようなさまで向かってくる


とうとう私と彼がシンクロする瞬間がやってきた


彼と私のシルエットが一つになる


時間が止まった


私は横目でシャッターをきるように彼を凝視する


彼は依然伏し目がちだが私とシンクロする寸前、一瞬チラリと刺すような横目私を見据えた


そして彼の口から聞こえてくる独り言が鮮明に私の耳に入ってきたのだ


私の耳は彼の独り言を彼とシンクロした0.007秒の瞬間を捕らえて離さなかったのだ


この0.007秒間の私が聞いた彼の独り言と言えばこうだ


「と、すればだぞ・・ややもすればもしかしてイベリコ豚としても私の憶測からしてみれば恐らくパンティを脱がすときのときめき×羞恥心÷3.14と数式をたてたときのみの四国88カ所巡りを敢行した時の躍動感としてもいみじくも若輩ながら僭越ながらこの場を借りてあえて告白するとすれば我々地球防衛軍としては是が非でも二人三脚できたと豪語する甘粕夫妻に少々類似しているのかもしれない・・そしてあの婚前交渉も・・フッ・・」


と、私には確かにこう聞こえたのだ


そして私は彼の意味深な独り言を聞くと同時に彼の意味深な身体の異変に気づいた


瞬時に彼の全身に目を走らせると赤のネクタイにグレイのスーツ姿といういでたちで腰の周りにひしめき合いながら数珠繋ぎになって全員でクルミを囓る数十匹のリスをぶら下げていたのだ


私はそのいきの良い、元気の良いリス達のことがどうしても気になってもう、いてもたってもいられず意を決してその紳士にこう尋ねてみた


「オノノ!ボノノ!フンバリアン!モンバリアン!ソノノォオォ〜?」


すると紳士はピタッと行く足を止め幾分緊張気味に私に向かってコクッと一度うなずくと一匹のリスを腰から外すとおもむろにそのリスの尻尾を掴み「ォォ・・ゥオイショォォオオオオオオオオオーーーーッッッ!!!」と雄叫びを上げそのリスを天高く大空の彼方へと投げ放ったのであった


そして紳士は懐から葉巻を取り出すとその端を食いちぎり苦虫を潰したような表情でその切れ端を地べたに吐くと少し猫背気味に葉巻に火をつけまるで溜息を吐くように煙を口から燻らせ、その鷹のような眼光で私の目をグッと見据えたまま、さも私はスロースターターなのだよと言わんばかりに徐々に徐々に路上でタップを踏み始めるのだった


私も負けじと自慢の腫れぼったい切れ長の一重まぶたをカッと見開き紳士の目をグッと見据え徐々にルンバ、マンボ、チャチャチャの順で紳士にすり寄って行った


私が紳士との距離を詰めるにつれ紳士のタップの速度は一段と加速してゆく


それに伴って私の情熱のダンスの速度も加速してゆく


二人の足下から摩擦熱で煙がたつほどに二人の足の動きの速度は極限まで達していた

その様はまさにレレレのおじさん状態の域まで達していたのである


やがて私と紳士の距離はもうすでに二人のおでこが密着するまでに密接してしまっていた


その状態で紳士は懐から一枚の名刺を取り出し低い声と丁寧な口調で「どうぞ・・」と私に差し出す・・


私も懐から名刺を取り出すと「あ、どうも・・あ、私こういう物です」と紳士に名刺を差し出した


名刺に目を通すとその名刺には【バッキンガム興業・企画二課長・栗 春信】と書いてあった


やがて我々はタップを踏みながらダンスを踊りながら服を脱ぎ始めるのだった


あたりは黒山の人だかりだったがもうそれは関係無い


二人の世界に身を投じるしかなかったのだ


私たちは愛し合った


路上で愛し合った


公衆の面前で臆面もなく


・・愛し合った


初対面なのに・・


出会って38秒なのに・・


男同士なのに・・


確実に愛し 


合った・・


私たちは激しく愛し合った


私と紳士のまるでケモノのような絶叫は夕暮れのオフィス街をつんざいた


凄まじい私たちのSEXにもやがてフィナーレが訪れようとしていた


紳士が断末魔のような絶叫をあげた


「ぉ・・ぉぉ・・おずごんげ、のわらきゃんたま、えべっこげっこげっこ!ぼぼんが!ぼぼんが!ぼぼぼぼぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!」


私も叫ぶ「オノノォォオオッッ!!ビノノォォオオオッッ!!ボノノォォオオオッッ!!ソノノォォオオオッッ!!ガノノォォオオオッッ!!・・・・・・・・ジャノノォォォオオオッッ!!!」


     “ガックゥゥウウウウーーーーンッッ”


二人は燃え尽き果てた


あたりを一瞬、静寂が包み込む


しばらくして人だかりの中から“パチッ・・パチッ・・パチッ・・”と誰かの拍手が鳴り出すと次第に拍手の数が増えしまいには割れんばかりの大喝采の渦のど真ん中に私たちはいたのであった


すると・・


「キキィイィ〜ッ!キキィイィ〜ッ!キッキ、キィイィ〜ッ!」と小動物の鳴き声が聞こえた


私はその鳴き声がする方向に目をやると茜色に染まった空の彼方から一時前に紳士が天高く投げ放った一匹のリスが舞い戻ってきたのだ


リスは紳士の肩に着陸すると何事もなかったかのように可愛らしくクルミを囓り始めた


オレンジ色の情景にシルエットとなった裸の紳士とリスは神秘的に神々しい


私はなぜかしら溢れんばかりの涙をアスファルトに落としながら「My Love・・ My Sweet Love・・」と何度も呟きながらそのシルエットにただひたすら手を合わせたのだった。




                     


                 

               〓END〓














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