いつもの朝に
窓際の自分の席に座り、手に収まる小説に没頭する。
いつもの朝。
授業が始まるまで、まだまだ時間はある。すでに登校している学生は少ない。
いつもの朝。
少し離れた場所に座る男子たちの話し声は、私と彼ら以外に誰もいない静かな教室全体に響いている。
いつもの朝。
全部が『いつもの朝』。
…訂正。
全部が『いつもの朝』になると思っていた。
ガタッと音がして、私の前の席に座る黒い影。
その物音に、現実に引き戻された。
思わぬ訪問者 改め 招かざる訪問者は、目を見開く私を横目にフッと笑う。
突き刺さる視線。恐る恐るそちらを向くと、先程の男子たちがすぐに目を反らす。
「なんでここにいるのっ!?」
「お前に会いにきた」
「いや嘘でしょ、それ。」
「俺、嘘ツカナイ」
「柏木、今 嘘ついてるよ!」
中学からの腐れ縁の彼は文系。私は理系。
校舎が違う彼がこの教室に来ることは、不自然。
普段、男子とあまり会話をしない私に、文系男子の訪問は、不自然。
そしてなにより、半年以上 不登校だった柏木が学校にいること、それが不自然。
「なんでここにいるのっ!?」
「だから、お前に…」
「いやいやいや、それは嘘。学校行きたくないって言ってたのに、どうしたの?心変わり?」
「………………」
「……まあ、いいや」
特別な会話どころか、些細な日常会話もしない。
再度、小説に入り込む私の前に、ぼーっとしながら座る柏木。ただ近くに居るだけ。
「最後だから」
顔をあげて柏木を見る。
きっと誰も気付かない。
でも私だから気付くこと。
柏木が寂しい思いをしてるって。
「…最後だと思ったから、お前に会いにきた」
「そっか。じゃあ、会いにきたのは嘘じゃないね」
「寂しいだろ?」
「寂しいのは、そっちでしょ?」
「かわいくないなぁ。全然 素直じゃない」
「ほんと、柏木くんは素直じゃない。かわいくないなぁ」
「俺かよ」
フッと笑う柏木は、いつも通り。
素直じゃない私も、いつも通り。
二人が一緒にいることだけが、いつも通りじゃない。
「仕方ない!さみしがりやの柏木くんのために、私が構ってあげる!」
「ヨロシク。アリガトウ」
「ちょっと!もう少し心を込めて感謝してよ」
「コレガ、精一杯ダ」
「なにそれ(笑)」
一緒に教室を出る。
笑顔で、並んで歩く。
そんな私たちを不思議そうな目で、クラスの男子たちが見ていた。
明日からは『いつもの朝』『いつも通り』