5、長い再戦の始まり
頭の良さは時に間違った方向へ。
ギフトside
嬉しさのあまり小躍りしそうになりながら、帰り道をほぼスキップで駆ける。ああ、こんな心踊ることが起こるなんて!あまりに衝撃だった先程の出来事を味わうように思い出し、噛みしめる。
真っ白な肌に震える喉、驚き瞬くことを忘れた瞳、どれも私の心を急かすのには十分過ぎた。
「ただ、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ」
彼女の立ち位置からすれば、喧嘩を売られしかも負けた相手にキスされたのだから、それはそれは混乱を極めているだろう。しかもこれは全て一日中の出来事である。
「どうせなら口にしちゃえば良かったかも....」
にやにやと緩んだ口元から願望が漏れ出てしまう。ごく僅かな理性が自分に残っていたことに少し残念ながらも、まあそれは今度でいいか、と浮かれている脳で判断した。
「...また派手にやってんな、おじさん」
帰ってきて早々に私が目にしたのは、部屋中に漂う煙だった。帰宅してドアを開けたら燻製にされるなんて体験を一般の女子高校生はするのだろうか。する訳無いな。
独りごちながら今にも燻られそうな煙の中を進んでいくと、煙の発生源がもぞもぞと動き、真っ黒に煤けたおじさんが出てきた。
「おぉ、ギフトか、お帰り」
眼鏡は割れているし髪の毛は所々チリチリに焦げているし、漫画かよ、とツッコミたくなるような出で立ちである。
「一体今日はなにやらかしたんだ?」
あまり聞きたくはないが。
そう尋ねると、おじさんは目を輝かせて答えた。
「よくぞ聞いてくれたな!ふっふっふ、遂に完成したんじゃよ!!」
...見たところ完成したんじゃなくて爆散したようなんだけど。
「...一応聞くけど、何が?」
「ネズミの餌じゃよ!!キャットフードならぬマウスフードじゃ!」
...そうだ、このおじさんはそういう人だった。
はぁーーーーーーっという私の長いため息など気にもせず、おじさんはきゃっきゃとはしゃぎながらクッキー状のそれを砕いてネズミにやっている。おじさんが底抜けに優しいせいで、実験用のネズミや猫は本来の役目を果たすことなく、本日も悠々と研究所で生活を送っているようだ。
私からも餌を貰おうと指にすり寄ってきたネズミをつつきながら、これも悪くないか、と思う。
(...その優しさでここに置いてもらっているわけなんだし)
終いにちょんとネズミを弾き、かろうじて無事であったキッチンへ夕飯の準備をしに向かった。
エフside
もう何がなんなんだ。
あれからへたり込んだ地面で悶々と下校時刻まで悩み続け、理解出来たことといえば、私はとんでもなく厄介な奴に目をつけられてしまったようだ、ということだけである。家に帰っても考え続けていたせいでおばあちゃんにまで心配されてしまった。勉強もさっぱり手に付かない。
よし、
私は腹を括るように小さく呟いた。
何にせよまた明日学校に行けばどうせまたあいつには絡まれるだろう、今ここでくよくよ考え込んでいても何も変わらない。
だけど負けっぱなしも性に合わない。
じゃあ、こっちも相手の弱味を見つけて脅してやれば良いのだ。それこそ立場を逆転させるほどの。
その情報はどうやって集める?奴に接近するのが一番の方法だろう。
クリアになった脳内は答えを弾き出したようだった。
「なってやろうじゃないか、
『友達』に」