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4、奇妙な関係の始まり

やっとこさちょっとGLです。

カチカチという秒針の音、カリカリと何かを書き、時折ぱらりとページをめくる音だけが流れている図書室には、私しかいない。

利用者が少ないのは珍しい事でもないが、司書さんまで居ないのは何でだろう。

何時もなら落ち着くはずなのに、約束の事もあってか勉強は捗らないままだった。


「...はぁ」

思わず溜め息が漏れるが、咎める者もいない。

ええいこれで区切りだ、と、半ば投げやりに最後の問題を解き終わり、シャーペンを置く。いい加減遅過ぎる。まだ来ないのかとドアの方を振り返ると、

至極真面目そうに分厚い本を読む赤髪が目に入った。


「!?!?!?」

「あ、勉強区切りついた?」


そいつはぱたんと本を閉じ、驚きのあまり勢い良く椅子から転げ落ちた私に向かってめちゃくちゃに嬉しそうに話しかけてくる。いや、区切りついた?じゃなくて。

...くそ、次あったら絞めるとばかり考えていたのに、その笑顔にどうしても毒気が抜かれてしまう。

差し出された手は振り払って、椅子を直して用具をしまって、少し汚れてしまったスカートをはらうと、上辺だけは落ち着きを取り戻した。


「で、話って何ですか?手短にお願いします」

「あ、これ読み終わっちゃったから返しながらでもいい?」


頼むから話を聞いてくれ。






「いやーこの本めちゃくちゃ面白かったんだよね!」

「もうそれ32回目なんですが」


なんやかんやで本のあった棚に辿り着くまで延々と本の感想を語り続けられ、全く本題に入れない始末である。どれだけ私のペースを乱せば気が済むのだろう。今も、ちゃんと数えててくれたんだ...!と顔を輝かせているものだから本当にこいつという生物がわからない。


因みに、この学校の図書室は国の書物が集まっている場所らしく、物凄く広い。故に、本のジャンルごとに階やエリアが分けられていて、本を見付けるのにも一苦労するという不便な場所である。

私はいつも勉強関係や少し気になった歴史書などを読むばかりなので、こいつが借りてきた『卵かけご飯とエビフライ、そして宇宙』とかいうもう全くもって訳のわからない本のある棚など訪れたことがなかった。というか何なんだその本。卵かけご飯にエビフライが突き刺さっている謎の食べ物の後ろに広がる宇宙が壮大さを増している表紙は見ているだけで頭が混乱してくるし、大体その三つのものがどうなってその壮絶な文量で繋がって行くのかが1ミリたりとも想像出来ない。あれ、これ私気になってないか。まさか。





「とうちゃーく!」




悶々としているといつの間にやらお目当ての棚に着いたらしい。そいつはいそいそと本を本棚に戻すと、立ち上がりくるりとこちらを向いた。



「で、本題なんだけど」




やっとか。というか話聞いててスルーしてたのかこいつ。



「このリボン、見覚えあるよね?」


そう言ってそいつがポッケから取り出したのは、紛れもなく、校内で1位であり、模試を制した者だけに送られる赤いリボンだった。



と、いうことは。






「...あなたがギフトさん、ですか」








そこまで察しが悪くはない。あの抗争の発端になったあの"ちょろい"発言から推測するに、きっと1位はこいつなのだろう。



「そうそう、私がギフトだよ。名前、知っててくれたんだね」



メモに天才さんって書いたのはまだ気付かせたく無かったからなんだけどね、秀才さん気付いたら来てくれなさそうだし、などと呟きながら、ギフトは何処か上機嫌に指先でリボンを弄る。


その鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌の笑顔のまま、




「それじゃ、はい、どうぞ」



と、リボンを私へ差し出してきた。





「....は?嫌味?」





「やだなぁそんなに好戦的に受け取らないでよ〜」




からからと笑うが、正直馬鹿にされているとしか思えない。何がどうぞ、だ。素直に受け取れるはずが無いだろう。



「どういう事ですか?まさかとは思いますが1位を譲るとか言い出しませんよね?」


「あー、半分正解で半分間違いかな!!」




半分?こいつの意図がさっぱり読めない。1位を獲得したのは間違い用のない事実だし、それを取り消すことは不可能なはずだ。

私が混乱している間も、彼女はリボンをひらひらと振りながらこちらを見てくるだけ。視界に赤がちらつき、思考が上手く纏まらない。




「残念、時間切れ」



そう言うと、ギフトは答えられなかった私を嘲笑うかのように、一歩、一歩とこちらに歩を進めてくる。そのさっきとは裏腹な高圧的な笑みに気圧されながら、私も同じ分だけ後ずさる。ああ、もう壁だ。誰も居ないこの場所に、嫌に私の心音が響いているように思って、緊張からか鳥肌が立つ。




「正解はね、



奨学金、秀才さんにあげようと思ったんだ」



「...え」



そんなこと出来るのか?



「さっき校長に聞いてきたらいいよーってさ」



出来るのか....

想定外過ぎる話になんだか気が抜けてしまう。いや、驚いたのは勿論なんだが。なんであの方は校長なんて地位に着けたのだろう。あの緩さで成り立つのか、色々と。ともあれ、前代未聞な事は間違いないだろう。返す必要のない給付型奨学金を受け取らないどころか人に譲るなんて。






「....で、どうする?受け取る?受け取らない?」


ぴら、と私の目の前にリボンが垂らされる。

イエスかノーか。とても簡単な2択問題にこうも悩むとは。

施しを受けるような気がして躊躇われたが、生活が厳しいことに変わりはない。それなら、と、恐る恐るリボンに手を伸ばすと、ひょいと持ち上げられてしまい、私の手は宙を切る。


「ただし、条件がひとつ」


...やっぱりか。そんな美味い話があるはずがないし、別段驚きもせずに腕を下ろした。



「条件、とは?」


聞くだけ聞いて無理な要求であれば断れば良い話だ。それに、これだけのものに対しての一つだけの条件、というのにも少しだけ興味が湧いた。


ギフトはにこりと笑い、さらに私との距離を縮める。

すうっと顔が近付いてきた瞬間、反射的に目を閉じてしまったが、それが良かったのか悪かったのかも分からないでいるうちに、




喉で笑う声と共に、まぶたに唇が触れる感覚がした



あまりにも唐突なその感触に、腰が抜けてその場にへたりこむ。声は出ないし、言葉も出ない。今どんな顔をしているのかすら分からない。頭の中では警鐘が鳴りっぱなしなのに、



「エフ」



その声がした方へ顔を上げてしまった。

蛍光灯によって逆光を帯びている顔は、暗さの中に確かな微笑みをこちらに向けて、言った。







「友達に、なってくれないかな?」






その問いかけは、答えを必要としていないようだった。




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