2、二人の抗争
エフside
「・・・は?」
一瞬状況が理解できなかった。何だ、これは。この、結果は。
「“ギフト”・・・?」
貼り出された結果の1番最初にあったのは、知らない名前だ。クラスも同じではない。まさか別学年?
それにしても、満点だなんて。
「嘘、うそ、」
「今回は“秀才さん”が1位じゃないんだな」「まぐれだったんじゃないの?」「ほら、でも見てみろよ、1位の奴満点だぞ!」「嘘、マジかよ!!」「凄いな」「秀才さんも勝てない訳だ」
周りの人の声が流れ込んでくる。
五月蝿い、煩い、私より努力してない奴等が、私の努力を量るな、私の努力はそんなに軽くないんだ、毎日毎日、永遠と勉強して、解らない悔しさでいっぱいになって、それでも解いて、ふざけるな、これじゃあダメだ、1番じゃなきゃ、2番じゃだめなんだ、祖母の期待はどうなる、もう両親の残した貯金も少ないというのに、母との約束はどうなる、順位を下げるなんて、いい子のすることじゃない、私の努力はどうなる、努力が足りなかったなんて、絶対思いたくない、私は誰よりやったんだ、なのに、なんで、やめて、怒りと、悲しみと、憎しみと、悔しさでぐちゃぐちゃなんだ、なんで、なんで
「初めまして、こんにちは」
とんとん、と肩を叩かれた。
私は今、そんなに話しかけやすい様な雰囲気をしているのだろうか。色んな感情でごちゃ混ぜの思考が一旦停止する。こいつは、誰だ?
顔も名前も知らないそいつは振り返った私の顔を見て、心の底から嬉しそうににこーっと笑って、言った。
「案外ちょろいね、“秀才さん”?」
瞬間、腕を振り抜いた
ギフトside
案の定、彼女はそこに居た。
呆然と、何もかも失ったように立ちすくむ彼女の横顔に、私の中でぞわりと何とも言えない感情が湧き上がってくる。
嗚呼そうだ、そうだよ、その顔だ。何時もの澄まし顔より、色んな負の感情でぐっちゃぐちゃのその“顔”が見たかったんだよ。
嬉しくて嬉しくて、その感情を動かしているのは私だと思うと、もう堪らなくって、
もうちょっと虐めたいなぁ、なんて。
そう思った時には、もう体が動いていた。
獣人学校において、獣化してしまう生徒は珍しくはない。それでも、もう感情の制御を覚えた高校生が暴走する事はあまり無い。
目の前の少女の攻撃を、斜め後ろに跳んで躱す。脇腹を掠め、獣化した腕が通り過ぎて行く。
「っうわ、やば」
ごくり。と無意識に唾を飲み込む。口元のにやけは収まらない。こんな状況なのに、こんな状況だからこそなのか、ざわざわと、自分の血が騒いでいるのを感じる。ふと腕を見ると、やはり私も少し獣化が始まっているようだ。皮膚がうっすらと獣のものになっていく。この地域に来てから、獣化したことはなかったから、よっぽど興奮しているんだろう。趣味が悪いなぁなんて考えていた、
刹那。
横の壁に凄まじい勢いで腕が叩きつけられた。しまった、次の攻撃が来ることを想定していなかった。首筋を冷や汗が伝う。獣化した相手を前に余所事を考えるなんて。
秀才さんはもう殆ど理性が残っていないらしく、荒い息で私を睨みつけている。唸り声ばかりで言葉を発さないってことは、もうトんでるか。瞳孔は青く光っていた。
わぁ綺麗だなぁなんて思う暇はなく、首筋を狙ってきた彼女の膝をしゃがんで躱し、横に転がり出る。
丁度階段だ。
素早く立ち上がると、踊り場を目指して踏み込んだ。ダンッと足に力を込めて7段飛ばしで階段を駆け上って行く。もちろん、後ろからは凄い勢いで彼女が追いかけてくる。このまま追いかけっこを続ければ、間違いなく追いつかれてしまうだろう。
力強く地面を蹴り上げる音、時折壁が抉られる音が暫く続いた後、
「・・・この辺りかな」
そこは、最上階へ上がる階段。
踊り場を目指し、加速して距離を取り、秀才さんの背後へと、手すりを軸に跳ぶ。予想外の行動に戸惑ったのか、少しだけ動きが鈍ったその時。
「もーらいっ、と」
首に一閃、蹴りが入った。