1、2人が出逢ってしまうまで
この小説は、シリーズを通してGL要素を含みます。ご注意下さい。
ある日、いつか、何処かの世界は、角を持つ者と持たない者の二つに分けられていた。角を持つ者は獣人と呼ばれ、気が高ぶると獣化し本能のまま戦いを始めてしまう。そこで、獣人達は持たない者を傷付けないため、人間から離れて暮らしている。
これは、隔離地域にたった一つの獣人学校でのお話。
エフside
私は、ずっと見えない何かと戦ってきた。今でも、ずっと。それが自尊心だと気づいたのは、大嫌いな彼女と出会ってしまったせいだった。
月曜日。長い長い一週間が始まる憂鬱な日。でも、そんな憂鬱を吹き飛ばしてしまう程、私は緊張していた。何故なら、今日は獣人学校で行われた模試の結果発表の日である。
獣人学校は、小学生、中学生、高校生がそれぞれの棟に分かれて授業を受け、学年は無く、成績順にクラス分けがされている。2ヶ月毎に定期試験があり、学期毎に小学生、中学生、高校生全員参加の模試がある。模試で見事一位に輝いた者には、奨学金が給付される。
そして、前回の第一回模試で模試を制して奨学金を受け取ったのは、この私だ。早くに両親を無くしてから祖母に育てられてきた私にとって、少しでも祖母の負担を減らすことが出来る絶好のチャンスであり、亡き母の言い付け通り「いい子」になるためにも最適の場だと思ったから。まだ高校生一年目の生徒が一位になる事例は極めて珍しかったらしく、「秀才さん」なんてあだ名が広まってしまったくらいだ。私は人付き合いが苦手な方なので、少しこそばゆく感じた。
そんな事を思い返しているうちに、何時もより随分長く感じられた通学路も、もう終わりに近くなっていた。校門を跨いだ瞬間、さっと思考が現実に引き戻され、見慣れた景色が視界を埋め尽くす。
糸が張り詰めているような、輪郭がはっきりしないような風景に、一歩を踏みしめる毎にローファー越しに伝わるアスファルトの熱に、じりじりと心を焦がしながら、少し早足に下駄箱に向かった。
ギフトside
学校が今日はやけに騒がしい。何時も早めに登校してきているから、こんな人混みを見る事はそうそうない。何かお祭りごとでもあったのかとぼやきながらその騒ぎの中心に向かう途中ふと気がつく。
「あ」
驚きでつい声が出てしまった。いやそんな事はどうでもいい。そうか、今日は模試の結果発表だったか。それなら、あの子の“顔”も見られるかもしれない。私は期待に胸を膨らませて辺りを見回した。
私が秀才さんを見たのは、この前の第一回模試の結果発表の時だった。知り合いに無理矢理に結果発表掲示場所に連れて行かれ、特に興味の無い順位を見つめていた時、お節介な知り合いが、ほら見て、と、ある人物を指差した。
そこには、綺麗な水色の髪をぱっつんと切った女の子が居た。角にリボンが付いている、ということは前回の模試を制覇した噂の秀才さんか。実物は初めて見るなぁと思考が巡った後、私は少しの引っ掛かりを感じた。
周りが喜んだり、悔しがったり、それぞれの表情を浮かべている中、その子だけ、その子の顔だけに、明らかな「安心」が浮かんでいたからだ。
1位を取ることに絶対的な自信があっても、それでも多くの人は「達成感」や「満足感」などの優越に溢れた表情をするだろうに。これは面白い子を見つけたなぁと思うと同時に、あの顔が、安心しきって一気に緊張が解けたようなあの顔が、怒りと焦りと哀しみで一杯になったら、どんなに楽しいだろう、と、そう考えてしまった私は。
ちょっとだけ、本気を出してみた。