天神流外伝
はじめに
この物語は、「武勇伝」の外伝です。
出来れば、「武勇伝」を読んでから、この物語を読んでもらえると、話も分かりやすいと思います。(生時名義になっています)
「武勇伝」は格闘小説ですが、自分の病気を知ってもらうため、作り話の中に、真実を書きましたが、この物語は、全て作り話です。
とにかく僕は、病気であることを少しでも忘れ、物語の中で格闘技をやり続けたいと思います。では、物語をどうぞ・・・
序章 天神流
忍術━日本の古武術の一つで、その歴史は古く、その術は修験道の山伏によって、より高度なものに高められていった。彼らの呼び名は一般的には忍者、忍び、忍術使いとよばれているが、昔は乱破、透破、密偵、間諜間者、諜者、三つ物、隠密などと呼ばれていた。
また、聖徳太子は情報活動する者達を志能便と名づけた。
忍びが主に活躍したのは、戦国〜江戸時代だ。
また、あの魔王と呼ばれた天下人、織田 信長が、一五八一年(天正9年)大軍を率いて伊賀に攻め込んだ。
「第二次天正伊賀の乱」である。
多くの伊賀者は惨殺された・・・
その生き残りで、後に天神斎と名乗る忍びが編み出したのが天神流である。
第一章 二人の姉弟
「ハアハア・・信長め・・」
まだ、十五になるか、ならないかの、伊賀者が一人、重傷を負いながらも山に逃げ込んだ。
この男こそ、天神流の開祖で、後に天神斎と名乗る男である。
織田信長は、「第二次天正伊賀の乱」の翌年、天正十年に、明智光秀の謀反により、本能寺で自害した。享年四十九歳。
天神斎はこの時、当然、魔王信長の死を知らない。
「俺にもっと、力があれば・・・」
天神斎は、怪我が治ると、二十年から三十年以上、山に篭って、そして、天神流を編み出した。
彼は、山を下りた後、兵を求める旅に出た。
そんなある日・・・
ある村が、盗賊に襲われていた。
村人のほとんどが殺された。
「姉ちゃん、怖いよ」
「佐吉、大丈夫よ・・」
姉の名は、お光、弟の名は、佐吉・・・
お光は佐吉を抱きしめ、盗賊たちから守ろうとした。
その時!
「な、なんだ・・お前は!?」
一瞬だった・・
一瞬で、数十人の盗賊たちを、殺した。
「弱い・・弱すぎるぜ」
盗賊たちを、一瞬で殺したのは、天神斎であった。
天神斎が去ろうとした時、
「あ、ありがとう・・よろしければ、お名前を・・」
お光は、震えながら、天神斎に礼をいった。
「・・ホントの名は忘れた・・今は天神斎が、俺の名だ」
「私はお光・・この子は弟の佐吉」
これが、天神斎と、お光、佐吉姉弟の出会いだった。
第二章 弟子入り
次の日・・・
「お願いです!私を弟子にして下さい!」
「天神流を、後世に伝える気はない・・あきらめろ」
「・・私が強かったら、おとっつあんも、おっかさんも、村の人達も死なずにすみました」
「お前は、弟を、命懸けで守ったじゃないか」
「あ・・あの、オイラも強くなりたい」
「佐吉・・」
天神斎の表情が険しくなった。
「後世に伝える気のない技を、教えるんだから、俺の後を継げなかったときは、その命をもらうぞ!それでもいいんだな!?」
「はい!」
天神斎は、しばらく二人の顔を眺めた。
そして、
「・・分かった。お前達を弟子にしてやる」
天神斎は、ついに、二人を弟子にした。
「ありがとうございます!」
その後、天神流は、幕末まで、継承者になれなかったら、わが子でも殺す事を運命とした。
第三章 継承者
お光と佐吉が、天神斎の弟子となってから、二十年近くの時が流れた。
「先生、何か考え事ですか?」
「お光、俺は今まで、いろいろな兵と戦ってきた・・だが、一番闘いたかった相手と戦えなかった」
「誰ですか?その相手は?」
「宮本武蔵!」
宮本武蔵・・・十三歳の時に、新当流の有馬喜兵衛を木刀で殺し、その後、巌流の佐々木小次郎との戦いまでに、六十数度の真剣勝負をし、不敗を誇る。
天神斎が山を下りた時は、武蔵はすでに、剣を封印していた。
「さて、今日はお前達に、俺の後を継いでもらうための真剣勝負をしてもらう」
いよいよ継承者を決める時が来た。
「お光、佐吉、俺の後が継げなかったら、その命をもらうという約定、忘れていないな」
「はい」
「よし・・手加減はするな。殺す気でやれ!」
「はい」
「では、始め!」
ついに、二人の戦いが始まった。
まず、佐吉が刀を抜き、斬りかかった。
お光は、佐吉の頭上よりも高く跳び、一回転して、佐吉の頭にかかと落とし・・・
天誅と呼ばれる技である。
佐吉は倒れそうになったが、再び斬りかかった。
だが、お光は、もう片方の足で、佐吉を蹴り飛ばした。
佐吉はそのまま数メートルふっ飛んだ。
そのスキに、お光は手裏剣の一種、苦無を投げたが、佐吉は刀で弾いた。
だが、その間に、お光は間合いを取り、逆関節を決め、そのまま投げ、地面に叩きつけ、佐吉の喉に肘鉄を喰らわせた。雷鳴と呼ばれる技である。
「ぐはー」
もはや勝負は見えていた。だが、佐吉も負けられない。敗北すれば、死が待っている。
「佐吉、強くなったわね」
「姉者!?」
「貴方なら、先生の後を継げるわ」
「・・姉者・・」
お光から闘気が消えた。彼女はわざと負けるつもりだ。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前・・天神流奥義龍神!」
数秒間に、常識を超えるスピードで、相手の急所に攻撃する。それが、奥義龍神である。
お光は、宙に浮いた後、ふっ飛んだ。
「(フッ・・姉者、あんたは強いが、甘いんだよ。)」
佐吉が、冷たい表情で微笑んだ。
「先生、姉者は負けた。これで、天神流の継承者は、俺に決まりましたね」
「うっ・・」
お光が、フラフラな状態で立ち上がった。
「せ、先生・・私は佐吉に負けました。約定どおり、私の命を・・」
「・・天神流の正統な継承者は、お光、お前だ」
「な、何!?」
「せ、先生・・私は・・」
「天神流の継承者は、強くなくてはならない。お前は、佐吉を助けたいからわざと負けた。負ければ死ぬと分かっていながら・・だが、佐吉は、死を恐れた。そんなヤツに、継承者になる資格はない」
「そ、そんな・・俺、死にたくない」
「佐吉、あの時のお前の心には、汚れがなかった・・だが、今のお前は、自分がよければいいと思っている。そんな男にしてしまったのは俺のせい・・だから、お前の後に、俺も自害する」
「先生・・佐吉を助けてあげてください。」
「お光・・」
「もし、佐吉が死ぬなら、私も死にます!」
「・・(コイツはあの時と変わらないな)分かった。命まではとらん。」
「あ、ありがとうございます!」
「だが佐吉、今後、お前は、天神流の技を使う事を禁止する。二度と技を使ってはならん。いいな」
「分かったよ」
佐吉はそう言って、二人の前から去っていた。
そして、この時より、お光は、天神斎から、陽炎という名を与えられた。
最終章 天神斎対黒龍
お光が、天神流の後継者になり、陽炎の名を与えられてから、十数年の時が流れた・・・
だが、二年前から、ある盗賊集団によって、次々と村が襲われていた。
この時、天神斎葉七十を超えていたが、兵を求め一人、旅をしていた。
陽炎もおそらく、兵を求め、旅をしているのだろう。
天神流の継承者は、皆、修羅となる。
兵を求め、戦いの中で生き、戦いの中で散ってゆく・・・
ある月夜の晩・・・
また、村が襲われていた。
だが、あの時のように、天神斎が現れた。
「何だ、このジジイは・・・」
「邪魔じゃ、お前らの相手は、後でしてやる。」
「何だと!なめんなよ!」
「下がれ・・」
「か、頭・・」
「久しぶりだな・・天神斎・・」
「佐吉」
「死ぬ前に教えてやる。今の俺の名は、黒龍だ」
「何故だ!何故こんな事を・・・」
佐吉の近くでは、子供が一人、親の亡骸の前で、涙を流していた。
「知りたいか?なら、ついて来い」
「頭!」
「お前達は戻っていろ!」
佐吉は、馬にまたがり、泣いていた子供を連れて、去っていった・・・
天神斎は、すぐにその後を追った。
「この辺がちょうどいいか・・」
佐吉は、馬を止め、降りた。
「その子を離せ、佐吉!」
「た、助けて・・」
「佐吉・・何故、盗賊なんかに・・お前もかつて、盗賊に襲われたじゃろ・・なら、その子の気持ちが分かるだろう」
「天神斎・・さっき言ったよな!今の俺の名は、黒龍だ!」
「ならば、黒龍よ・・さっきの質問に答えろ!」
「簡単な事だ。この世は強さが全て、弱いヤツは殺されても仕方ない・・俺は、お前のおかげで強くなった。その力を、どう使おうが俺の勝手だ」
「ワシは、お前に、天神流を二度と使うなと言ったはずだ」
「悪人は約束を破るのさ」
「やはり、あの時に、お前を殺しておくべきだった・・黒龍・・今度こそ、お前に、引導を与えてやろう」
「天神斎、あの時のお前は強かった・・だが、年老いたお前では、今の俺には勝てん!」
「なめられたもんじゃ・・お前など、今でも敵ではない」
ついに、二人の戦いが始まった。
さっきまで泣いていた子供は、二人の戦いを、目に焼き付けようと思った。
互いに刀を抜き、激しい戦いが始まった。
二人の攻防戦が続いた・・・
天神斎は、刀を鞘に収めた。
そして、奥義龍神を繰り出した。
黒龍は吹っ飛び、倒れたが、すぐに立ち上がった。
「な、何!?ワシの本気の龍神を喰らって、立ち上がるとは・・」
「俺が強くなったのと、お前が弱くなった。それだけの事だ!」
「(このままでは負ける・・こうなったら、あの技しかない)」
天神斎が、気を一点に集中し始めた。
「(まさかあの技を・・)馬鹿が、その技は、お前でも極めれなかった技だろうが!」
今度は黒龍が、龍神を繰り出した。
天神斎は、吹っ飛んだが、気を集中し続けた。
「な、何だ!?この気は・・」
「覚悟はいいな・・黒龍・・喰らへ、神技一天波!」
一天波・・・気を一点に集中し、その時に放たれた衝撃波で、相手に触れる事なく、相手を確実に殺す。まさに神の業。
その後、この技を極めた者はいない。そのため、天神流の正式な技ではなく、幻の技となっていく。
黒龍は、その後、二度と立ち上がることはなかった。
だが、放った天神斎も、ただではすまない。
しかも、天神斎は七十を超えた高年者・・・
彼もそのまま倒れ、立ち上がる事はなかった。
その場にいた少年は、天神斎だけでなく、黒龍の墓も作り、その場を去った。
少年の名は晋作・・・
晋作は、村に戻った後、親や村人達の墓を作り、強くなるために旅に出た。
そして、陽炎と出会い、彼女の弟子となった。
だが、晋作は継承者には、なれなかった。
陽炎には、影丸という子が一人いた。
継承者になるために、二人は勝負し、晋作は敗北・・・
三代目となったのは、影丸である。
だが、晋作は、
「先生の手で死ねるなら、本望です」
と、陽炎に笑顔で語った。
陽炎は、晋作の介錯をし、その後すぐに、彼女は自害した。
やがて、平成時代になり、神威龍一が、天神流の十八代目となる。
天神流の歴史は、「天正伊賀の乱」から始まったのだ。
あとがき
クローン病という病気になってから十年・・・
一昨年くらいから、「武勇伝」を書いて、僕の出来なかったことを、神威龍一という武道家が、変わりにやってくれた。
そして、最近になって、天神斎が一天波を使ったのは誰なのかが、僕の頭の中で浮かんできた。
友達からは、僕が、川原先生の「修羅の刻」のファンだから、柳生十兵衛と言われた。あと、宮本武蔵と、天神斎は戦ったのか?と聞かれ、ホントは戦わせたかったが、土方歳三の時と同じで、戦わせない事にしました。(だから、十兵衛とも戦ってない・・と思う)
とにかく、歴史上の人物はやめようと思い、浮かんできたのが、天神流を学んだ人間です。
そして、痛みと戦いながら、物語を考えました。(さっきも痛みが強かった・・今は痛み止めが少し効いてきた)
まあ、病気に負けずに頑張ります!(格闘技は好きだけど、病気と格闘したくなかった・・・)
平成十九年 生時
天神流の継承者たち
初代・・・天神斎
2代目・・・陽炎(お光)
3代目・・・影丸
4代目〜10代目不明
11代目・・・辰巳
12代目・・・不知火 蛍
13代目・・・不知火 彦斎
14代目・・・不知火 幻次
15代目・・・月形 十蔵
16代目・・・月形 良昭
17代目・・・月形 瑠奈
18代目・・・神威 龍一
天神流を学んだ者たち
黒龍(佐吉)
晋作
彦斎の子供たち
不知火 灯
隼人の祖父、父、母
不知火 隼人
堀辺 正宗
武田 武
水谷 凍矢
凍矢の影の者たち(春麗など)
神威 聖華
神威 龍之介
大空 達也