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万屋ですがなにか。  作者: 狼花
VOLUME Ⅰ
11/53

Other file 【2】

 

 

 

 赤い太陽が、地平線のかなたに沈んでいく。もうすぐ年末、日の入りもすっかり早くなり、まだ夕方の四時だというのにこの薄暗さだ。だけど、この時期の夕焼けが一番綺麗だとエリオットは思う。太陽が沈んだ後でも見える青と黄色の微妙なグラデーションが、なんとも美しい。


「おーい、エリオット、何一人で黄昏ているんだ」


 頭上から呼び掛けられ、エリオットは視線を上に向けた。


「黄昏てなんていないですよ。ただ、夕日が綺麗だなって」

「傭兵の中で景色に感動するなんて綺麗な感性の持ち主は、お前だけだろうなぁ。ほら、日が沈むと魔物がお目覚めになる。とっとと火を焚くか水汲みに行って来い」


 草原に仰向けに寝転がっていたエリオットは、勢いをつけて起き上がった。エリオットの頭のすぐ傍に立っていた巨漢を見上げると、その男はにっと笑った。

 傭兵ジェイク。荒れくれ者たちをまとめあげる凄腕の男。


 エリオットを拾ってくれた、命の恩人。



 ジェイクは二十年前のエネルギー転換が起こる前からずっと傭兵団の長として活動していた。当時は傭兵の需要というのは高いもので、魔物と戦うプロフェッショナルだったわけだ。今のように魔装具がない時代、民間人が街から街へ旅する場合は傭兵団を雇うことが主だった。それで生計を立てていたのである。首都コーウェン周辺で生活していたジェイク傭兵団は、特に民間人から評判がよかった。人当たりの良いジェイクの性格に、質の良い傭兵たち。何より武器商として高名なスペンサーとの繋がりがあったからである。

 しかし魔装具が開発され、一気に傭兵たちは仕事をなくした。そして護衛から魔物の討伐へ仕事を切り替えた今でも、ジェイクのもとに集う傭兵たちは当時とまったく変わらない。それだけの人望がジェイクにはあり、また仲間内の絆が深かったからである。



 少し仲間の輪から外れた場所にいたエリオットは、衣類に付着した草を払って立ち上がった。大柄なジェイクは、エリオットでも見上げるほど背が高い。


「今日の夕飯の当番、誰なんですか?」

「お前だろ」

「嘘つけ!? 俺は昨日やりましたよ!」

「今日はお前の作る肉料理が食べたい気分なんだ」


 当番制も、団長の気分ひとつで替えられてしまっては意味がない。ほぼ黒色の髪の毛を掻き回したエリオットは溜息をつく。


「補給は明日なんですから、もう食材そんなに残ってませんよ。良くても今日は野菜炒めですね」

「うん、まあそれでもいい」

「え、良いんですか? てっきり『野菜なんかじゃ力がつかん』とでも言うかと……」

「今日の夕飯当番は俺だからな、代わってくれさえすれば文句は言わん」

「貴方っていう人は!」


 どうしてこう、みんな面倒臭がる。


 仕方がなく水汲みをジェイクに押し付け、エリオットは仲間の元へ戻った。そこにはいくつかのテントが張られ、その中央では火が焚かれていた。焚き火のすぐ傍にしゃがみこんでいる男性のもとに、エリオットは駆け寄った。


「イシュメル」


 彼はジェイク傭兵団の副団長とでもいうべき人だ。剛腕巨躯が目立つ傭兵の中では浮き立つほど細見で華奢な外見をしている。さらにレアな頭脳派である。もっぱら外部との交渉事や資金の管理をしてくれている、団のブレーンだ。勿論、ジェイクの右腕として相応しい剣の達人でもある。


「火を焚いてくれたんですね、ありがとうございます」

「それは構わないが、どうしたんだ? 今日の当番は団長だったはずでは……」


 エリオットが黙ると、イシュメルは苦笑した。


「……そうか、また団長の気分屋が発動か。大変だな、エリオット」

「もういい加減慣れましたよ」

「私も手伝う。二日連続の食事当番は辛かろう」


 ――イシュメルは、とても高度な教育を受けてきた人だと聞いている。会話の端々にも教養の高さがうかがえるし、エリオットもイシュメルから文字の読み書きを教わったのだ。だが彼がどういう生まれで、どう生きてきて、なぜ傭兵になったかは、誰も知らない。彼だけではなく、団員同士そういった過去の話はしないのである。

 一番謎なのは、この若作りのイシュメルがいったい何歳なのかということなのだが。


 そういえば以前イシュメルが、『エリオットは生まれが良いのかもしれないな』と言ったことがある。子供の人格形成には環境がものをいうが、生後間もなくからこの傭兵団で暮らしてきた割には、エリオットは感性も綺麗だし素行も荒くない。これは紛れもなく遺伝ではなかろうかと。

 その時エリオットは『そんなわけがない』と否定した。自分を捨てた両親の片鱗など感じたくもない。自分の世界は、この傭兵団の中だけでいい。そう思っていたからだ。



 二十人分、それも揃って大喰らいの食事を作るのは大変なことであるが、幼い時からこの団で育ってきたエリオットには苦なことではない。ひとりひとりの好き嫌いも把握している。

 野菜主体の夕食に不満の声が飛んだのは言うまでもないが、ないものは仕方がない。みな綺麗に完食し、周囲はとっぷりと夜になった。


 魔物は夜に活動を活発にする。それでなくとも、夜の闇の中から急襲されてはひとたまりもない。夜間というのは、結界に守られていない傭兵たちにとって最も気の抜けない時間だ。


 エリオットはこの日、夜間の見張り当番だった。野営地の東側の夜闇にじっと視線を向けている。寒さは厳しく、肩にかけていたブランケットをきつく身体に巻き付ける。


「エリオット、交代だ」


 背後からその声がかけられ、エリオットが振り返る。少し年上の青年がそこにいた。


「デレク」


 兄貴分のデレクだった。エリオットの面倒を一番傍で見てきてくれた人で、団員の中では一番仲が良い。実の兄弟といってもいいくらいだ。


「今夜も寒いなぁ」

「ああ」

「明日はやっと首都だな。なあ、どうせエリオットは買い物に行くんだろ? 俺も連れて行ってくれよ」

「また余計なもの買うつもりか?」


 ジェイク傭兵団は二週間ほど平原で魔物狩りをしたのち、首都へ戻って狩った魔物を換金するというサイクルを繰り返している。首都にいる間に二週間分の食材を買い込むのはエリオットの仕事である。デレクはといえば市場を回って美味しそうなものを探して、いつの間にか買ってしまっているのだ。


「魔装具を徹底的に嫌う傭兵団だったら、そんなことしてるってばれたら酷いだろうな。調理されたものって、全部魔装具で作られているんだから」

「んなこと言ったら、肉や野菜だってそうだろ? 牛を解体しているのは魔装具だし、野菜の栽培も魔装具がやっているだろうよ」


 そういえば、とエリオットも思い至る。


「もう魔装具なしの生活なんてできないんだよ。魔装具滅亡、なんてバカなこと言って魔装具破壊する傭兵たちもいるけどさ。俺たちはそうじゃない。ただ、魔装具に頼る生活よりも傭兵としての生活に誇りを持っているってだけで、魔装具を否定するわけじゃない」

「……そうだな」

「ってことで、魔装具で調理された美味いものを買ったって誰も文句言わねえって!」


 強引に結論に持っていかれた。エリオットは嘆息し、立ち上がった。


「俺がイシュメルに怒られるんだけどなあ……まあ、いっか。じゃ、おやすみデレク」

「おう、風邪引かないようにな」


 デレクと別れ、エリオットは自分のテントへと戻って行った。





★☆





「おーい、お前ら起きろー!」


 ジェイク傭兵団の朝は、団長の大喝から始まる。


 冬なので日の出が遅いが、もう朝だ。エリオットはいつものことながらその大喝に飛び起きた。二十年間聞いている声だが、やっぱり起き抜けにその声はきつい。


 朝食を終え、野営のテントを片付けたジェイク傭兵団は移動を開始した。首都までは三時間ほど、移動手段は徒歩。よほど長い距離を移動するときは馬を使うが、今は荷台を引いてくれる馬が二頭いるだけである。おかげでみな健脚だ。



 異変が起きたのは、首都コーウェンの城門が小さく見えてきたという距離まで近づいた時である。


「団長! 地中に何かいます!」

「何かってなんだ!」

「分かりません!」


 というなんとも馬鹿らしいやり取りだったが、事態は深刻だった。地を揺るがすほどの地響きが轟く。地震といってもおかしくない揺れだった。


「全員、警戒しろ!」


 ジェイクの言葉で、エリオットらは剣を抜き放った。そして身構える。


 音が消えた。静寂は一瞬。急に地面が盛り上がり、何かが地中から飛び出してきた。


「う、うわぁあああっ!?」


 その真上にいた団員が吹き飛ばされる。宙を舞った団員は、忽然と空中で姿を消した。


「!」


 エリオットは目を見張った。地中から巨躯を伸ばし、悠然と鎌首をもたげているそれは、ミミズのような魔物だった。しかしながら地上から見上げるほど長く、太い。突然変異にもほどがある。

 吹き飛ばされた団員は、一口で魔物に呑みこまれてしまったようだ。エリオットはそれを悟り、顔色を失った。


「このっ、よくも……!」


 デレクが剣を片手に突進する。だが、デレクは呆気なくその長い躰で吹き飛ばされてしまった。地に叩きつけられたデレクを、エリオットが助け起こす。


「デレク!」

「お前ら、迂闊に近寄るんじゃねぇぞ!」


 ジェイクが怒鳴る。イシュメルが両手に二刀を提げて滑るように前進する。彼は貴重な二刀流を扱う傭兵で、手数の多さは随一だった。エリオットも、デレクを後衛に下げて身構える。


「エリオット、私が囮になる。後ろからいけ」


 イシュメルは一方的にそう言うと、魔物の正面から飛び掛かった。エリオットは覚悟を決め、魔物の側面へと回る。

 人間一人を容易く丸呑みするであろう巨大な口がイシュメルに迫る。イシュメルはそれを空中で身を捻って回避し、左の剣で追撃を跳ね返した。その瞬間に、エリオットが剣を一閃させた。


 しかしながらエリオットの剣は、硬質な音を立てて跳ね返った。膂力が足りないわけではない。ただ、この魔物の皮膚は鎧のように硬いのだ。

 あまりのことによろめいたエリオットは、唸りを生じて襲ってきた魔物の頭部に反応できなかった。思わず目を閉じたとき、ジェイクが間に割り込んだ。


「大丈夫かエリオットぉ!」


 ジェイクは大剣で魔物を弾き返しながら怒鳴る。エリオットは言葉もなく頷く。

 大剣が大きく唸った。しかし、ジェイクの大剣もまた硬質の皮膚に跳ね返されていた。今度は間違いなく膂力不足などではない。ジェイク以上の力を持つ者は、この傭兵団にはいないのだ。


 他の仲間たちも隙を見て攻撃を仕掛けるが、どれも魔物を傷つけるには至らない。


「鉄器が利かない……か。ふん、魔物もどんどん近代化していきやがる」


 ジェイクの声に、若干だが焦りや苛立ちといったものがある。エリオットは剣の柄を握り直した。


 退却が最善の選択だ。けれどもこの魔物は仲間を一人殺した。加えて、首都の目と鼻の先だ。地面に潜って首都の地下にでも行かれたら、あの堅牢な城塞都市でもひとたまりはないかもしれない。

 何より、これだけ攻撃範囲の広い魔物を相手に、どう退却すればいい?


「エリオット、これを!」


 後ろからデレクの声が聞こえた。振り返ると、小型の物体が目の前に迫っている。咄嗟に受け取ると、それは小さな魔装具だった。


「こ、これは!?」

「この間首都に行ったときに買った菓子の付録だよ! そんなもんでも魔装具には違いない、エナジーを向けるんだ!」


 そんなものを隠し持っていたのか。少し呆れたエリオットだったが、やむを得ない。ジェイクを見ると、彼も頷いた。

 しかしどう使ったものか。これは完全に子供の玩具であるし、攻撃的な要素はない。それでも、エナジーを使うというその一点で魔物に攻撃を加えられるのならば、動かしてみる価値はある。


 ネジが付いていたので回してみる。なんとも場の空気に合わない馬鹿らしい音楽が流れたが、エリオットはそれを思い切り魔物に向けて投じた。


 すると効果は覿面(てきめん)だった。ごく小さな魔装具が身体に当たった瞬間、魔物は奇声をあげて悶え始めたのだ。

 よし、と誰もが思ったその時。魔物はいきなりエリオットめがけて攻撃を仕掛けてきたのだ。


「! まずい、逆効果だ!」


 イシュメルが叫ぶ。そう、刺激して怒らせただけだった。


 エリオットが跳躍して攻撃を避ける。しかし魔物は執拗にエリオットを追う。一度地面に潜ったと思えばエリオットの足元から飛び出し、長い巨躯で薙ぎ払いにかかる。


「っ、し、まっ……!?」


 足場の悪さと度重なる跳躍で態勢を崩したエリオットに、魔物が迫る。

 エリオットが覚悟を決めたその時――。



 頬に、赤い滴が落ちてきた。



 エリオットには軽い衝撃があっただけで、無事だった。慌てて何が起こったのかと上空を見上げ――。



「――ッ!」



 天高く伸びる魔物。その口にくわえられていた人間は。



「団長――ッ!」



 エリオットの悲鳴が、憎たらしいほど青い空の下で響く。

 庇ってくれたのだ。庇ってくれた団長が――自分を助けてくれて、名前を付けてくれて、父のように接してくれた団長が。


「エリオット、避けろ!」


 デレクの声が響く。我に返ったエリオットだったが、その時には魔物が目の前に迫っていた。強い衝撃を食らい、後方へ吹き飛ばされる。ろくに受け身も取れずに地に叩きつけられ、息が詰まった。

 どさっと、何か重い物体が地面に落下する音がした。見たくもない。団長の死んだ姿なんて、見たくない。


 凶暴化した魔物は、次々と味方を襲っていく。攻撃する手段を持たない仲間たちは、最初こそ防戦していたが次第に力尽きていった。屈強な傭兵団として知られたジェイク傭兵団が、あっという間に壊滅していく――。


「しっかりしろ、エリオット!」


 呼びかけられ、エリオットは荒い息をつきながら顔を上げた。イシュメルがエリオットの肩を掴んでいた。その傍には剣を構え、ふたりを守る態勢を取っているデレクがいる。

 イシュメルは右の剣を失っていた。防戦の最中で折れたらしい。


「エリオット、いいか。お前に重要なことを言う」

「イシュメル……」

「お前は首都へ行け。首都へ行き、助けを呼んで来い」

「助け……?」

「警備軍でもなんでもいい。とにかく、魔装具を扱う人間を連れてくるんだ。我らはそれまで、この魔物の足止めをする」


 それは、逃げろということか。


「ま、待ってください! そんな、嫌だ! 俺もここに残る!」

「それでは全員、あの世行きだ。お前の怪我は深い。それでそのままここに残っても、真っ先に食われる」


 嘘だ。エリオットよりデレクたちのほうが傷が多い。逃がすための口実だ。


「お前は俺たちの弟だ。兄貴は、弟を守るもんだろ」


 デレクの言葉に、イシュメルも少しばかり苦笑を浮かべた。


「私や団長にとっては、息子のような年代だがな」

「デレク……イシュメル……!」

「お前を信頼している、エリオット。助けを呼んできてくれ。そしてそのあとは……自分で生きろ」


 イシュメルはエリオットを立たせると、くるりと回れ右をさせてエリオットの背を押した。そしてイシュメルはエリオットに背を向ける。


「行けるか、デレク」

「いつでも」


 エリオットは零れそうになる涙をこらえ、走り出した。これで戻ったら、イシュメルたちだけでなく団長にだって叱られる。イシュメルらの命を背負って、助けを呼びに行かなければならない。

 傷が痛む。血が止まらない。思っていたより傷は深かったけれど、それより重いのは重圧と哀しみ。俺は――これからひとりで生きなければならない。


 背中にデレクの声が聞こえた。断末魔なんかじゃないと信じる。珍しい、イシュメルの怒声。応える、残った仲間たち。



 首都は、もう、目の前――。





★☆





 ――なんとかして『万屋カーシュナー』に辿りつき、店主テオに助けられて魔物の元まで戻ったはいいが、結局俺は間に合わなかった。団長もイシュメルもデレクも、みんなも、やられてしまった。残っていたのは、デレクの衣服の切れ端やイシュメルの折れた左の剣だけ。あとは、血の海だった。


 俺はその光景を見たとき、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。忽然と姿を消した仲間たち。それを『死』とは思えなかった。だから涙も出なくて、そのあとも一滴も零れることがなかった。

 薄情――あんなに、良くしてもらったのに。俺の家族だったのに。

 実の家族も見つかって、どうして俺だけ生き残っている?



「あの魔物はエナジーを多量に浴びすぎて変異を起こしたものだ。そのためにエナジーには敏感で、君が投げつけたという玩具の魔装具が放つエナジーに過敏に反応したんだろう。それで凶暴化した。俺が攻撃したときもそうだったでしょ」


 後になってあの時の戦いをテオに話すと、テオは淡々とそう言った。


「そうか……じゃあ、あの魔装具を投げつけたのは、間違いだったんだな」

「……でも、その責任を君が負うことはないよ」

「けどっ、俺がああしなければ団長たちはっ……!」


 テオは首を振り、俺の肩を叩いた。


「……団長は、君を守るために命を懸けたんでしょ? 他の仲間たちも。彼らに守られた命を、否定しないで」

「……っ」

「今度――お墓たてにいこうか。君が落ち着いたらね。亡くなった人たちは、弔わないと」


 その言葉に俺は驚いて顔を上げた。魔物との戦いで命を落とした傭兵の、墓をたてる。そんなことをしてくれる人がいるだなんて。


「……うん。行く」


 こみ上げてくる想いのせいで短い言葉になったが、テオは微笑んで頷いた。


「ありがとう」

「ん?」

「あの時……助けてくれて、本当にありがとう。テオに何か計算があったんだとしても、俺はそれで救われた」


 そう言うと、テオは苦く笑った。


「嫌だなあ、俺がどんな計算で君を助けたっていうの?」

「え? 違うのか……?」

「違うよ。目の前で死にかけている人を助けるのに、理由なんて必要ないでしょ」


 そんなことをさらっと言えるテオは、やっぱりすごいと思う。


「強いて言うなら……俺は昔、目の前で傷ついている人を助けることができなかったから」

「……」

「でもそういうことなしに、俺も君に出逢えて良かったと思うよ。君を守るために命を懸けた人たちの想いを、無駄にせずに済んだからね」


 団長とイシュメル、デレクが守ってくれて、テオが繋いでくれた俺の命。


 ――ここに来ることができて、本当に良かった。テオのおかげで、俺の世界が広がったから。




「……ありがとう」


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