第一話 超完璧美少女、遠藤沙織の場合
これはよく漫画や小説であるパターン
「○○君が好き!でも、○○君は△△ちゃんが好きみたい・・・!どうしよう?」
「いや、俺が好きなのはお前だ!」
「○○君・・・!」
で、ハッピーエンドになっちゃうの。
最後はキスとかで終わるヤツ。
あたしはそんな恋、絶対にしたくないの。
告白されんのを待っていてもしょうがない。
自分からガンガン攻めなきゃ、彼氏なんてできっこない!
最近、よくこういう事を思うようになった。
小さい頃から恋愛漫画、恋愛小説なんて腐るほど読んでいた。
だから、だいたいの恋愛パターンなんて頭に入っちゃっているし、友達からよくされる「恋愛相談」は当たる!と大好評だ。
夢見る女子達があま~い恋を望む中、あたしはすっごい恋がしてみたい!
誰もしたことないようなのを。
そんな恋しちゃったら、絶対に100%彼氏ができると思わない?
だってそんな特別な恋、あたししか攻略法を知らないから。その恋ができるのはあたしだけなんだから。
あたしだけじゃない。
きっと、誰にでも、その人だけの恋があるんだ。みんなそれに気づかないだけ。
だから漫画や小説の真似しかできない。
ありきたりな恋しかできない。
だからってこんなこと、他人に教える必要はない。
これはあたしの恋のやり方だから。
気づかないなら、気づけばいい。
それを教えてくれる人ー
必ず現れる。
想いの強さがなければ、恋はできない。
100%ー
不可能か。
可能か。
決めるのは恋する自分次第・・・
そしてあたしは、
不可能を可能に変えてみせる。
ヒソヒソ
誰かにウワサされているのが分かる。
私が歩くだけで誰もが振り返る。
どうやら私は外見に恵まれているらしい。
モデル、アイドルなんてスカウトはしょっちゅうだ。
「おはよー沙織。朝っぱらからモテモテですなー☆」
「知っているわよ。だって私、美人だもん。」
「うっわぁ、相変わらずの自信ッスね~。」
「でもね、よく考えてみて?もしこの中の誰かに私が告白されて付き合っちゃったらつまらなくない?先が見え見えじゃない。あたしはそんな恋、絶対にしたくない。それより、すっごい変わったカタチの恋をして、100%彼氏をつくったほうが良くない?」
「・・・それは沙織は美人だから言えるコトだよ。あたし達からしたら彼氏作るのさえ難問なんだからさ。みんながみんな100%彼氏作るだなんて、ありえないよ。」
友達の望月が肩を落とした。
「そんなことないわよ?みんな一人一人、違う恋の仕方があると思うな。」
「沙織かっこいい~!」
「100%彼氏をつくるかつくらないか、みんな次第なんだから。」
「そりゃみんなほしいよぉ~!」
フッ
「だったら自分から行動しなきゃね☆」
キーンコーン
「うわっヤバイ!望月、また後で!」
「うん、バーイ☆」
ヤバイ!送れる!次って数学だよね、先生こわいんだよなぁ~遅れたら絶対的にさされる。
向こうからも誰か、男が走ってくる。
はは~ん、あたしと同じ状況だな。
ゴンッ
すごい音がした 。
口のあたりがなんか温かい・・・?温かいっていうか生温いような・・・人肌みたいな。
って
人肌って・・・
男の顔が目の前にあった。
お互い倒れている。
あれ、顔まっかだ。この人どうしたんだろう?
このようなことを約0.03秒くらいで思った。
結果論として最悪・・・
これって事故チューじゃん・・・
あまりの衝撃に気を失ったらしくて、気がついたら保健室だったんだよね・・・。
「沙織!沙織!大丈夫?生きてる!?」
望月のよく響く高い声で目覚めた。
「勝手に殺さないでよぉ・・・。」
それにしても、あの感触。
知らなかった。唇ってあんなに柔らかいものなの?って!何意識しちゃってんの!?
キモい・・・。
はっ
あの男、言いふらしてないでしょうね?
や、やだ。こんな美人の初キスが事故チューだなんて。くっそぉ~私の初キス返せー!
奪ったのはどこのどいつだ!
「望月・・・あたしとぶつかったヤツ、分かる?」
「え・・・多分、えと・・・藤原ヒロトって名前だったと思う?」
「なんでこっちが聞いているのに疑問系で答えるのよ?」
もう、望月ってば面白すぎ。ちょっと怒りが和らいじゃったよ。
「まぁいいや。その人何年何組?」
「二年一組だったと思うよ。ついでにいうと出席番号二十二番。」
「へ~じゃあ一つ上の先輩だね?」
なんで一年生の廊下走っていたんだろう?
「そだよ~☆」
「ちょ、情報ありがたいんだけどどっから仕入れてくるわけ?」
「友達たちがいっぱい教えてくれた。」
「その友達はなんでくわしいの?」
「ファンだからじゃないかなぁ?ストーカー的なコトよくしてるし~。」
「ファ・・・ファン?って?」
「知らなかったのぉ?藤原ヒロト先輩って芸能人なんだよ?アイドルグループの「ARATA」の一員なんだよ。聞いたことない?芸名は佐倉蒼っていうんだけど。」
「さ、佐倉蒼!?超有名人じゃん!メガネしてたから全然気づかなかった・・・」
「そーだよ~!だから沙織結構ヤバイよ。」
「?」
「だから~佐倉蒼とキスしたことで二年,三年の女子の先輩達が沙織に目つけているんだよー。沙織、ただでさえ可愛くて目立つのにさぁ~。」
・・・ヤバイ、先輩恐いんだよなぁ
何されるかわからない。
面倒くさいコトになっちゃったなぁ・・・。
ってかなんでこっちが恨まれるわけ!?
いきなりぶつかってきてしかもキスまでされたのはこっちなんですけれど?
キスなんてしたくてしたんじゃないし!
芸能人の佐倉蒼だなんて知らなかったし!
はぁー・・・
やな展開になった・・・
とぼとぼ歩いていたら声をかけられた
「あのっ・・・」
「は?」
さっきのメガネヤローだった。佐倉蒼。
あんま一緒にいたくないんだけれど・・・
「あのっ、さっきは本当にすみませんでした。あの、なんかお詫びしますので・・・」
ちょーっと面白い
あの超有名人の佐倉蒼があたしにお詫びしたいだなんてなんだか気分がいい
よーし
「じゃあ日曜日、原宿でデートしてください!」
「ええっ!?」
「お詫びするって言ったじゃないですか!あ、メガネは外して下さいね。」
「ちょ、それは・・・」
先輩の言葉を遮る。
「絶対ですよ!」
「ええええ!?じゃあ本当に佐倉蒼先輩とデートすんの?」
望月が絶叫する。
「まぁそーいう事になる。」
「いいなぁ!大人気アイドルとぉ?羨ま死す~。」
フフ。いい気分だ。大人気アイドルと美人なあたしがデートしていたら、世間は大騒ぎだよね?「恋人発覚!」とかいわれてあたしの顔写真が雑誌に載ったりして。それをキッカケにあたしも芸能界入りしちゃったり?あ~夢がどんどん広がる!
日曜日、何を着ていこっかな?お金はいくらくらい持っていこう?あ、でも、先輩は大人気アイドルだからおごってくれたりするのかな。
最初はノリで言っちゃったけど、なんだか凄いドキドキしてきた。楽しみになってきた。
と、浮かれていたら二年生の女子の先輩が目に入った。なんかあたしをジッと見てる。ヤバ、さっきの会話聞かれた?捕まると面倒い・・・
あたし、ササッと逃げる
でもこの時の先輩達の会話、聞いておけばよかったー
後で後悔するという結果になるから・・・
「ちょっとぉ~あの子!一年の遠藤沙織!佐倉蒼くんと事故チューったのってあの子でしょ?」
「え?あれって事故チューだったんだ?うちは遠藤沙織が蒼くんを誘惑したってきいたけど。」
「ええ!?あたしが聞いたのは蒼くんと遠藤沙織は幼なじみで小っちゃいトキから付き合っているっていうウワサだよ?」
「はぁ!?なにそれ。みんなバラバラじゃん。」
「でも、遠藤沙織が蒼くんとキスしたのは事実でしょ。それって許せなくない?ウチらを差し終えてさぁ。」
「だよね。」
「本気許せね~。」
「遠藤沙織、ちょっと美人だからって調子のってる。一年のクセにさぁ、生意気だし。」
「日曜日、原宿っていってたよ。ムカつくからちょっと嫌がらせしてやんね?」
「お~、いいね。どするー?」
「まぁまぁ、時間はいっぱいあるし。ゆっくり考えよ。」
ー日曜日
あたしとしたことが。これは小説や漫画でお馴染みのパターン。昨日、なかなか眠れなくて寝坊しちゃった。こうならないよう、いつもより長めにお風呂に入って、寝る前にホットココアも飲んで、夜八時に寝たのに~・・・。
こんなありきたりなの嫌。あたしは世の中のみんなと違う恋がしたいのに!初デートで寝坊って誰もが予想していることでしょ。
こんなことを思いながら駅にダッシュ!
ピッ
Suicaで改札をそそくさと通る。小走りで、階段を上る。
チラッと時計が目に入った。今は九時三十七分。待ち合わせは十時・・・。電車に乗って途中乗り換えてバスに乗って原宿にいくと
・・・
・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!
もう最悪!完璧遅刻だ。
ピーッ
やっとの思いで駆け込みながら乗車。椅子にドスンと座る。電車の席は、端っこに限るな、とつくづく思う。後十秒も遅れてきてたらアウトだった。なんとかセーフでホッとする。車内にアナウンスが響く。
「本日は、当社の電車をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。当列車は、渋谷方面・・・」
走って乱れた呼吸を整えるのに聞くのは、アナウンスが最適だと思う。
「危険ですので、無理な駆け込み乗車はご遠慮下さいませ。」
最後に流れたアナウンスに、私は赤面してしまった。この全車両に、あたしのしたことが流れている、と考えると、恥ずかしくなってきたからだ。実際、目の前にいたおばさんが苦笑している・・・。こんなキャラ、100%あたしに似合わない。かっこ悪い。
はぁー・・・
肩を落とすとスカートが目に入った。今日のために、おろしたヤツ・・・。今日、何をきていくのか、散々迷った。ガーリーで甘めなピンクのワンピースにしようと思った。小っちゃいリボンが胸元についていて、裾は花柄でレースもついている。これに白いベレー帽をかぶって、茶色のブーツで行こうとしたんだけど・・・。
妹の二菜が今日友達と遊ぶのにきて行っちゃた。だから急いで選び直したんだよね。ってか遅刻の原因、二菜のせいだ!もう・・・。
結局来てきたのは真っ白なブラウスに、水色のスカート。ちょっと地味だったから色んな色のネックレスを重ね付けして、ベルトもしてきた。清らかなお嬢様風のイメージで。って結構リキ入っちゃってるかも。
服装の確認をして、顔のチェックもしたら渋谷駅についた。一回降りて、バスで移動。
原宿についたのは十時十一分・・・!
待ち合わせ場所にちゃんと藤原ヒロト先輩はいた。いなきゃどーゆーこと!?ってことになるけど。
「すいませーん!ちょっと寝坊しちゃって・・・」
「あぁ、別にいいよ。こっちも朝の五時まで撮影だったし。」
え?じゃあ・・・
「・・・もしかして寝てないんですか?」
「あ、うん、まぁ、そういうコトになるね。」
先輩・・・寝てないのに来てくれたんだ。
ドキン
・・・なんてときめかない!これは先輩が事故チューしてきたお詫びなんだから。これくらいしなきゃね。
「じゃー先輩。まず、お腹空いてませんか?あたし、朝ごはん抜きなんです。あそこのマックでなんか食べませんか?」
「へーマックね。いいよ。食べよう。」
「もちろん先輩のおごりでね☆」
軽くウインクする。先輩はちょーっと苦笑いしているけど。よーし、いっぱい食べちゃお。
ウイィーン
「いらっしゃいませー」
お姉さんが明るく迎えてくれた。
「なに食べよっかな?チーズバーガーも美味しそうだけど・・・うーん、えびフィレオも美味しそう。先輩はどうします?」
「俺は・・・んー、ビックマックセット。」
「じゃあ私はえびフィレオセットで!」
「お飲み物をこちらからお選び下さいませ。」
「あたしジンジャーエールで。先輩は?」
「俺もジンジャーエールで。」
「へぇ、以外です。コーヒーとかじゃないんですか?」
「なにそれ。俺ってそういうイメージかな?」
「では、合計千七十円です。」
先輩がお札をだす。
「あ、先輩、ご馳走様です。」
「これくらいいいよ。お詫びだし。」
ハンバーガーがのったトレイを持って席へ。
「じゃ先輩、いただきます!」
パク
ハンバーガーにかぶりつく。
「うーん、おいし~っ。」
「あ・・・えっと、」
「?」
先輩どうしたんだろう?
「なんですか?」
「その・・・名前、」
「あ、私、一年生の遠藤沙織です。知りませんでしたか?結構有名なんですよ、私。」
「そうなんだ。遠藤さん、美人だしね。芸能界に入れそうだよね。」
「ホントですか!?嬉しい。あの、先輩。先輩のこと、いっぱい教えて下さい!」
「いいよ。じゃあ俺も遠藤さんに質問していい?」
「全然オッケーです!」
ハンバーガーを食べながら、お互い色んな事を教えあった。
藤原ヒロト先輩は、自分の仕事のこと、将来はビッグな俳優になりたいこと、絵を描いたり、音楽を聞くことが趣味なこと、好きなものはオムライスで嫌いなものは鳥肉だということ、いっぱい教えてくれた。
あたしは、毎日エクササイズをしていること、モデル志望だということ、趣味は美容体操で毎日欠かさずやっていること、好きなものはゼリーで嫌いなものは寝起きの自分の顔だということを伝えた。
お互い、何も知らなかったのにわかったことが増えた。英語の単語一つ覚えるより、よっぽど楽しい。それは先輩も同じだと思う。
だって呼吸がピッタリだもの。
芸能人ってもっと堅苦しい人だと思ってた。
自分に自信があって、周りをみないような人だとおもってた。百聞は一見に如かずって本当。話してみると、全然違うんだ。
藤原先輩は、とっても素直で、話しやすい。
飾りっ気がない。
洗いたての白い木綿のシャツみたいな男の人。
先輩と付き合う人はきっと幸せだろうな。
ハッとしてしまう。違う、違う。好きになんかならない。あたしが望んでいるのはこんなのじゃない。まだ、誰もしたことがないような恋をするんだからー・・・。
食べ終わって、店を出る。
「ごめん、俺、ちょっとトイレいってくる。」
「あ・・・ハイ。」
先輩の走っていく後ろ姿をみながら少しホッとする。ちょっと色々かんがえたかったから。
自分で自分に聞いてみる。
あたしが望んでいる恋ってー?
なんなんだろう?
よくよく考えると、まだ誰もしたことがないような恋ってどんな恋?
そんな恋、あたしにできるの?
あたしは美人で勉強も中々できて、スポーツも得意だ。こんな自分を「特別」だとずっと思っていた。なんでも「特別」を求めていた。頭脳や美貌、運動神経は「特別」が存在する。でも「恋」って、「特別」は存在するの?
分からないー・・・
あたしが求めているのは
なに?
ボーッとしていた。頭を冷やしたいと思った。そしたらシャレにもならない。
アイスティーが空から降ってきた。
氷の涼しげなカランという音が耳にのこった。
「ふふっいい気味。佐倉蒼と調子のってデートなんかしているからよ。」
それだけ聞こえた。
微かに顔を右に向けるとこの前、あたしの噂をしてい先輩の顔が見えた。
あぁ、あたしはアイスティーをぶっかけられたんだ。
それしか思いつかない・・・。
寒い。冷たい。先輩、先輩・・・。
服を見ると茶色に染まっていた。意外とこのときの自分は冷静で、洗っておちるかな・・・などとのんきに心配をしていた。
が、さすがに動揺した。
「透けてる・・・!」
そう、私は今日、白いブラウスをきているのだ。下着が透けてしまっている。さすがに、すごいはずかしくなってきた。通行人がジロジロ見ている。男の人の中ではニヤニヤしている人もいる・・・!気持ち悪い。
先輩・・・先輩。早く帰ってきて。今あたしが頼れるのは、先輩だけなの・・・。
涙がでてきた。別に泣きたくなんかないのに。もう、さっきまで楽しかったのに、なんでこうなるの?
「遠藤さん!」
振り向くと先輩がいた。
緊張がほどけて・・・思わず抱きついてしまった。
「・・・っ先輩・・・!」
「遠藤さん・・・ごめん、これに、早く着替えて!」
差し出してくれたのは黄色のワンピースだった・・・。
「え・・・これ、」
「いいから早く!風邪ひく!」
わざわざ買ってきてくれたの?遅かったのはこれを買っていたから・・・。
先輩。
先輩は、
優しすぎるー
あたしの話を一生懸命聞いてくれたり、
自分の体調が悪いのにあたしのわがままに付き合ってくれたり、
嬉しすぎる。
美人で頭がよく、なんでもできるあたし。遠藤沙織。
なんでもできるから、心配なんてされたことなかった。
望月としかしゃべらないから、クールな外見なせいか、みんなから遠巻きに敬遠されていた。
それが誇らしくもあり、悲しかった。
すごいね。
可愛いね。
頭いいね。
みんなにいわれて嬉しかった。
これがあたしなんだって、思っていた。
でもこんなの、
悲しいだけじゃない・・・。
これしか取り柄がないっていわれているみたいで、すごく惨めな気持ちになる。
だから先輩があたし自身と接してくれて嬉しかったの。
「そのままのあたしでいいんだよ」
そう言ってくれているみたいで。
ホッとする・・・
「遠藤、大丈夫か?ごめんな・・・」
着替え終わったあたしにそう言った。
「・・・平気です、別に。」
「怒るなよ、本当ごめん。俺、ダメだな。」
「え?」
「その・・・事故のお詫びでデートにきたのに、また遠藤に嫌な思いさせちゃったし。」
「ううん。あたし、嬉しいんです。」
「は?」
「だって先輩、あたしのコト考えてくれたじゃないですか。」
「それは・・・」
「嬉しい気持ち、いっぱいもらったので。」
「そっか。」
先輩が笑う。
私も笑う。
寒いのに、温かい。
でもハッとする。
「あれ・・・?」
「遠藤さん?」
「アイスティー・・・空から降ってきた・・・?」
「空から!?」
「後ろからバシャっって・・・。後、声が聞こえたんです。いい気味だって・・・。」
「・・・」
「先輩・・・あたし、恐いんです。あたし、強がっているけど本当は、弱いんです。自分の気持ち、伝えられないんです。」
「遠藤・・・」
「どうしよう・・・あたし・・・。」
「ごめん、俺のファンの仕業かも・・・。」
「恐い・・・」
そうつぶやいたきり、シーンとしてしまった。しばらく先輩は、何かを決断したかのように真っ直ぐな瞳を私に向けた。
「距離をおこう。」
ーえ?
距離
って・・・。
何?
「遠藤は俺と一緒にいないほうがいいよ。何されるか分からない。危ないよ。」
「でも!だからって、」
「明日から、今まで通りに戻ろう。」
「あ、」
「こんな風にしゃべったりしない。」
そんな。
先輩は、あたしと一緒にいたいって思わないの?これぐらいで距離をおこうって思えるの?
ひどい・・・
「・・・遠藤、送って行くよ。」
「いいですっ!一人でっ・・・帰ります!」
駆け出す。
風が冷たい。先輩に買ってもらった黄色のワンピースの裾が揺れる。
こんなコトでショックを受けるなんて。
こんなんじゃ100%彼氏ができるなんていっっていた自分が恥ずかしい・・・。
先輩とのデートは、マックを食べてケンカして終わった。
虚しすぎる・・・。
だけど、これより深い奈落の底があるんだなんて知らなかったー
翌日
学校に行くと、みんながあたしを見ながらヒソヒソ話をしている。いつものことだとすましていると、
「さっ、沙織ー!!!」
望月が慌てて走ってきた。
「どうしたの、朝から。見苦しいわよ?」
「こ、こここ、コレ!これこれこれ!!!」
望月が興奮しながら持っているのは一枚の薄い写真だ。
「なにこれ。」
望月から軽く奪う。でも、見なきゃよかった。
「あの時の・・・!」
目を見張った。
あのときの。
日曜日、アイスティーをかけられたときの写真だった。下着が透けているのが写真でもハッキリ分かる。
「あ、あのね、朝、一部の先輩達が校門前で配ってたの!今、それで、大問題になっちゃって・・・。」
大体見当はついている。
誰がこんなことをしたのか。
きっと、日曜日の予定を聞いていたあの先輩達だ。アイスティーをぶっかけたのも、この写真も。
許さない。
燃えてきた。
この私にケンカを売るなんて
いい度胸している。
あ・・・
あたしは
本当は・・・
藤原先輩が・・・
よし。
遠藤沙織、復活!
全校集会ー
整列した私を、大勢の人がジロジロ見ている。
(あのこじゃない?一年の遠藤沙織。美人だねー。)
(でもあの写真・・・。恥ずかしすぎない?下着の色、くっきりだったよ。紫だった。)
クスクス
(えー?だって紫ってさぁ・・・)
感じ悪っ。
でも気にしない。
自分らしくいるためには
ポジティブが大切だ。
「えー次は生徒会長からのお話です。」
ツカツカ
生徒会長をさしおえて、段に上る。とたんにざわめきが大きくなった。
みんなが私を見ている。それが痛いくらいに分かる。
今まで何もいわなかった私。本性をだしていたのは望月の前だけだった。
完璧な優等生って思われていたかった。でも私、何を遠慮していたのだろう?いいたい事もいえずに、完璧に振舞ってばかりで。
いい事なんて一つもなかったじゃない。
遠藤沙織、ときにはNOもださなくちゃ。
それがあたしでしょ?
あたしはいつだってあたし。
あたしの世界では、あたしが主役なの!
壇上のマイクを取る。
沙織、落ち着いて。
今の気持ちを上手に言葉にすればきっと
先輩も・・・
「ふざけんな!」
キィーン
あまりの音量のせいか、マイクから変な音がでた。人は皆、ざわついている。
先生達も戸惑っている。
それもそのはずだ。今までの私は「ふざけんな」だなんて乱暴な言葉、使わなかったから。今は「ふざけんな」っていいたかったから言っただけ。
「こういう写真撮って、何が楽しいの?面白いの?それを見て笑っている人も。」
静まる。
「そうよ。私、藤原ヒロト先輩が好きだからデートしたんだもの!」
視線を先輩に向ける
あたし、本当はこんな恋、納得できない。
まだだれもしたことのない、恋がしたかった。
特別な思いが欲しかった。
でも でも
気が付いたの。
先輩とあたし
これだけでこの恋は
まだ誰もしたことがないんだって。
何億人と人が生きるこの世界。
そんな中であたしと先輩が出会ったのは100%の奇跡だ。
そんな奇跡のなかで
デートして
笑いあったり
話し合ったりしたら
そんなの
好きになるに
決まっているでしょう・・・!?
「先輩!」
壇上から飛び降りて、先輩に抱きつく。
「あたしっ・・・、何言われていいから!辛くないから!だから・・・」
「今度は恋人同士として一緒にマック、食べに行きましょう・・・!」
「遠藤」
先輩が顔を真っ赤にしている。
「あ、今度は、私がおごるんで!」
微笑む。
「はははははっ」
先輩が笑いだす。
「遠藤って・・・本当は面白いヤツだよな!・・・うん、また二人で、マック食べに行こう!」
「先輩っ!」
ほら。
気持ちを伝えるだけでハッピーエンド。
ちょっと素直になるだけで、好きな人と一緒になれた。
たったこれだけなのに、不思議。
きっとこの気持ちが
恋の100%を生んでいるんだな。
ー100%両想いになる方法
それは
どんなめずらしい恋でも
ありきたりな恋でも
自分の気持ちをそのまま相手に伝えること!