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「ティナ、大丈夫か?なんか、国王が呼んでるらしいんだけど」

 医務室に入るのを見たという証言に、レオンは扉を開けた。

「ちょっと待って。すぐ行くから」

 振り返った後、包帯を巻いた腕を服で覆い立ち上がる。

「ありがとう、フリシア」

「どういたしまして」

 ティナはローズに医療室まで連れてこられて、大した怪我でもないのに、医療長のフリシアに包帯を巻かれた。

「怪我、酷いのか?」

 その様子を見たレオンは心配になった。庇ったはずのティナが大怪我では意味がない。

「大丈夫、大したことないから」

 ティナは手をヒラヒラと健康さをアピールするが、呆気なくフリシアに手首を捕まれた。

「確かに重症ではないけれど、油断しないこと。いい?」

「――気を、付けるね」

 医療長の本気の目に、ティナも素直に頷いた。

「よろしい。行っていいわよ」

 手首を解放されて、ティナはレオンと医療室を出ようとし、レオンが左手で扉を開ける。だが、ティナは普通の行動に違和感を感じた。右利きのレオンが左手を使うのはおかしい。レオンの右腕を掴んだ瞬間、体を強張らせた。何もなかったように振り返ったレオンにティナは言った。

「レオン、右腕どうかした?」

「どうかしたって何が?」

 とぼけようとするレオンにティナは袖を捲りあげた。

「……何これ?」

 包帯を巻かれた腕。少し血が滲んでいる。明らかに自分より怪我をしている。

「何でもないって」

「そんな訳ないでしょ?」

「だから、言ったのに……」

 椅子から立ち上がり、フリシアはティナの頭を撫で安心させる。

「入院するほどの重症じゃないから心配はいらないわ。――だから、言ったじゃない。隠したって、すぐにティナにバレるって。案の定よね」

 あからさまにため息をつくフリシア。

「しゃべり過ぎ」

「これでも医者ですからね」

「……レオン、ごめんね」

「いや、大丈夫だって!自分の、ミスみたいなもんだし」

「でも、隠されたら余計に心配するよ」

「悪かったって。これからはちゃんと言うから、な?」

 レオンは膝を曲げて、ティナと目を合わせる。

「なら、いいけど」

「よし。それじゃあ、行くぞ」

「うん。フリシア、今度こそ、ありがとう」

「律義にどうも。お大事に」

 フリシアに手を降って、医務室を出た。




 書類に目を通していたフレッドは扉を叩く音が聞こえて、顔を上げて入るように声を掛けた。

「すまないね、二人とも。急に呼び出したりして」

 ティナとレオンにソファに座るように合図して、フレッドも座った。

「大丈夫だけど、何かあったの?」

 座りながら、ティナは応えた。

「フタリに仕事を頼みたいんだがな」

「仕事?」

 ティナははっきりと言わないフレッドの様子に何か深刻な事でもあったのかと感じた。

「実は人間界に不穏な動きがあって、調査員を派遣しているんだが、どうも二人の協力が必要らしい」

「私達が必要な仕事?」

「あぁ。詳しくは人間界に降りてから聞いてほしい。確実に二人の力が必要になるか分からないが念のため、と言うことだ」

 わざわざ、ティナとレオンを指名しての仕事。人間界で起きてはならない何かがある。しかし、国王は詳しくは話せないのだ。

「分かった。直接現地で対応するね」

「すまないな。人間界へのゲートの許可は出してある。準備出来次第頼むよ」

「分かりました」

「あと、一緒にコレも持っていってくれ」

 ティナとレオンの前に置かれた黒い袋。数センチの厚みに柔らかそうな物が入っているのは見た目で分かった。

「何ですか?」

 レオンが開けようとして、フレッドが開けるな、と言わんばかりに袋を押さえる。

「中身は調査員に会ってから確かめてほしい。今開けても、意味が分からないだろうから」

 そんなに謎な物が入っているのかと思うとあまり持っていきたくはないが、国王の言葉に逆らうわけにはいかない二人は袋を持って立ち上がり、直ぐに人間界に降りる準備に取りかかった。

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