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「ティナ様、お待たせしました。バジル様がお着きになりましたので、訓練所へどうぞ」

 トニーが部屋まで来てティナを訓練所まで案内する。

「バジル様が来たら、試合を開始しますね」

「はい。じゃあ、準備して待ってますね」

 中に入ると広々とした空間に明るい天井。鳥のさえずりさえも聴こえる。

 相手は銃使いだと聞いている。魔法で対応してもいいのだが、防御優先になりそうなので、ティナもホルスターから銃を取り出す。

単純にやり合えば負ける可能性もあるが、隙を見て魔法攻撃が出来れば勝算があるかもしれない。

 まだ相手にも会ってないのでどうなるかは分からないが。

「お待たせしました。今回は試合を受けていただいてありがとうございます」

 扉が開き男性が入ってきた。短髪黒髪でしなやかな体つき。手には銃を所持していた。

「バジルさんですね。よろしくお願いします。ティナといいます」

「こちらこそ、……あり」

 目があった瞬間にバジルが目を見張る。

「どうかしましたか?」

 ティナは不思議に思い、率直に聞いてみた。

「いや、想像より若かったもので……」

「ポスターは顔が写ってなかったから。私じゃ役不足ですか?」

「いえいえ、そんなことは!――ポスターに付いていた魔力はあなたのですよね?」

「微量だったのに分かっちゃうんですね。正解です」

「なので、あなたと試合をしたくなりました」

「そう思っていただけるなんて、うれしいです。試合お互い頑張りましょうね」

「あ、はい」

 まさか、試合相手に頑張ろうなんて言われるとは思わなくて、バジルは少し驚いた。

「じゃあ、始めましょうか」

「はい。お願いします」

 ティナは銃を構え、弾を撃ち、斜め左に走る。それをバジルは避けて、反対に右に向かいながら発砲してきた。

 後ろに飛び、回避した。

 相手の順応が早く、撃って避けるという行動しかさせてもらえない。ティナは別行動に移るべく、バジルを目で追いかけつつ銃を構えながら、岩に隠れる。

 隠れ際、バジルからの発砲があったが、回避出来た。

 ティナは銃をホルスターに戻し、杖を発動する。この際、バジルが隙を見せるかどうかというよりも出来ることをしようとティナは考えた。

 しかし、どう応戦するかが問題だ。

 バジルに見えないようにさらに奥に下がろうとすると、あるはずのないフワリとした毛の感触と共に聞いたことのある声が聞こえた。

「きゅっい!」

「ん?」

 振り向くとペケランが涙を浮かべて座っていた。

「ペケラン、どうしてこんな所に?」

「きゅっ」

「もしかして、迷子?」

「きゅっ!」

「レオン探してるんじゃないかな。ペケラン、危ないからここに隠れててね。終わったら、連れていってあげるから」

「きゅ」

「いい子」

 ティナはペケランの頭を撫でてあげる。迷子になり、銃声の音にもビックリしているだろうから。

「でも、どうしたらいいかな……」

「きゅっ」

 ペケランが袖を引っ張り、奥を示す。そこには薄汚れた細い綱が放置されていた。誰かが使ってそのまま片付けられないままなのだろう。

「縄かー。捕まえての降参もアリか」

 戦略を急かすかのように銃声が響く。

「長く考えてる暇はないか」

 ティナは呪文を唱え、杖を出現させる。

「ウォートレスよ、姿を現し、祝福の雨を降らせよ!」

 生えている木の成長を借りて、素早く綱を形成するため、訓練所全体に雨を降らす。ティナまでも視界が見にくくなるが、我慢だ。

 弾の装填音が聞こえ、バジルが銃を撃ってくる。

 岩を盾にするようにして、バジルの対角線上にある角の木を狙い、弾に魔力を込めて二発撃つ。バジルの方も正確に見えないためか、乱射してくる。さらに、撃った木の隣側の角の木も狙うって二発撃つ。

 ちょうど狙ったのか、たまたまなのかバジルが撃った弾がティナの銃に当たり、弾き飛ばされる。衝撃で体が横に流されるが、足を踏ん張るが、体勢が固定出来ない。

 無理矢理、前方に体重を動かし、ホルダーから弾を込めてモノを取り出し、魔力を込めて、放り投げる。準備は出来た。ティナは呪文をとなえる。

「ウディネスよ。我の魔力と水により、綱を形成し、彼の者を捕らえよ!」

 ふとバジルの方を見る。呪文中かに放たれた銃弾がこちらに向かってきていた。

 ティナは回避を試みたが、間に合わない。無理だと思った瞬間に視界が横に流れる。

 体が宙に浮き、着地する。混乱した頭は瞬時には理解できずにいた。

「…………ナ!」

「……?」

「ティナ!!」

「うわっ!?――――なに」

 耳元で名前を大声で呼ばれ、頭が覚醒する。体は地面と垂直に寝転をでいて、当たったはずの痛みはない。擦り傷程度の軽い痛み。

 ティナを呼ぶ声はレオンだ。しかし、なぜレオンがここにいるのだろうか。

「なに、じゃない。助けてもらってその言葉はないんじゃない?」

「助けてもらって?」

「弾を回避出来たのは、オレが避けさしたから。理解できた?」

 だから、痛みが少ないのかと理解した途端、ティナは今の状況を把握した。

 レオンが上から覆い被さり、完全に守られている状態。目が合い、レオンは起き上がり、手を差し出す。

「ありがとう……」

「どういたしまして」

「けど、どうしてここに?」

 バジルとの試合を知っているとはいえ、タイミングが良すぎる。

「迷子の野獣を探しててたら、いつの間にか体が動いてた」

「て事は、ペケランのお陰だね。綱の知恵もペケランだし」

「へー、あいつがねー」

 レオンはゆっくり歩いてくるペケランを不満げに見る。

「何で不満げ?」

「ティナがそれでいいならいいけど」

「ん?意味分からないんだけど」

「分かんなくていいの」

 レオンはティナの頭をくしゃりと撫でる。

「あの人、あのままでいいの?」

 綱に捕らえられているバジルに目線をずらす。

「あ。――レオン、ありがとね。行ってくる」

 ティナは手を振り、バジルの所へ走っていった。

 レオンはペケランを確保し、訓練所を後にした。

「降参します?動くと余計に絞まっちゃいますよ、それ」

「なら、解いてくれないかな」

 四方から繰り出された綱に見事に捕まったバジルはどうにか外そうとしたが、動けば動くほど拘束が強くなる。バジルの前でしゃがみ、ティナは首を傾げる。

「降参してくれたら、外します」

 偽りの無い完璧な笑顔のティナにバジルはため息をひとつ吐く。

「分かったよ。身動きとれなきゃ、君を倒せない。君の勝ちだ」

「ウディネス、外してあげて」

すぐにバジルの拘束は外れ、腕を擦っている。

「容赦ないね、君の精霊ちゃんは」

「だって、本気でやってますから」

「ですね」

「体は大丈夫ですか?」

 バジルは立ち上がろうとして目の前に差し出された手をやんわりと断り、自分で立ち上がる。体格差がありすぎる。

「君は大丈夫?よく避けれたね、あれを」

 あれというのは、最後に撃たれていた弾の事だろう。一対一の試合に他者が介入したとなれば、違反もいいとこだ。

 大丈夫かと聞くとなれば、レオンの存在は気づかれていないと思われる。

「大丈夫です。これでも私、反射神経には自信があるんですよ」

 誤魔化そう。それがいい。

「試合終わったみたいね、ティナ」

「はい。ローズもお疲れさま」

 見計らったように、訓練所に入ってきたのは、ローズだった。医務室のフリシアの助手をしているローズは黒髪で腰以上の長い髪で、きめ細かい肌とふっくらとした薄紅色の唇の美人なお姉さん。

「私は仕事だからね。ティナもお疲れさま。さあ、バジルさん医務室へどうぞ」

「ありがとうございます」

「けど、ティナはすごいわね。お姫様なのに……」

「ローズ!」

「――あれ?言っちゃいけない話だったの?てっきり、知ってるかと」

「あの。もしかして、ていうかもしかしなくても、王女様?」

「黙っててごめんなさい。改めまして、ティナ・ローレンス・グランドールです」

 バジルは開いた口が塞がらなかった。

 声も出ない。

 一国の王女と試合をしてしまったのだ。

 拘束どころじゃない。

「バジルさんが悪者になんてなりませんから、大丈夫ですよ。承諾したのは私ですし、みんな納得しての事です。こちらこそ、今まで黙っててすみません」

「ティナ。あまりバジルさんをイジメると可哀想ですよ」

「イジメる?」

「あなたが謝るほど、バジルさんは恐縮してしまうんです。それぐらいにしてあげてください」

 頭が上がらないバジルであった。

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