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フォークス研究所は医薬研究と魔力研究施設の複合施設で、水辺や森林などを生かし、環境に配慮した建物である。実験棟はそれぞれの研究機能間で行き来をし、連携しやすいような構造になっている。環境面への配慮や研究者間の交流や相互連携を活性化させ、想像力や柔軟な発想を促す施設である。
ティナとレオンはビアンカにフォークス研究所のパンフレットを渡されて、説明を受けながら施設内を見学していた。魔力研究の施設は魔力影響を配慮して一般の人は見学出来ないようになっているが医薬研究施設
研究室を通りすぎる度に施設内の人に声をかけられるのは、歓迎しているのをアピールするためだとか。しかし、今日はいつもより出入りが激しいらしい。
「ごめんね。レイピア国王様のご視察と重なっちゃって。それで、みんな張り切っちゃって」
呆れ顔のビアンカは研究所の一員に馴染んでいた。
「大丈夫だけど、私達普通に見学してても大丈夫?」
ティナも、研究所の広さに圧倒している高校生を演じ中だ。
「通常の様子が見たいからって、特に制限はしてないみたい」
「そうなんだ。なら、大丈夫だね」
「一応、国王様の近くになれば、目立たないように、魔力の放出量は通常の抑えたままの状態でよろしく。目的は所長だけだから」
「了解」
ティナとレオンもそう言うと目線を研究室内に移した。
しばらくすると、男の人の声で何か説明しながら近づいてくる音がした。
ティナがビアンカを見ると、目配せと頷いてみせたので、魔力を通常通りに抑えた。
ティナ達は二階からガラス張りになっている所から薬を製作している機械が見える場所にいた。歩みを止めて半円状になっている廊下の反対側にガラス越しで何人か人が見えた。中央にいるのがレイピアの国王のロイド・マンティーン・ダグラスと王妃のフェイ・ユートリア・ダグラスで、周りを警護兵が取り囲んでいた。国王に手を交えながら説明をしているのがフォークス研究所の所長であるヘンリー・カティだとビアンカが教えてくれた。
三十歳の若さでフォークス研究所の所長に抜擢され、自らも魔力の研究に余念がない。水色髪で細身。実際年齢よりも若く見えたが、研究者の強い眼差しは熱心さが伝わるようだった。
ヘンリーは国王に話しかけ、一緒にいたスタッフに国王と王妃を任せ、こちらに向かってきていた。
ビアンカは機械の説明を始め、ティナとレオンはそれを聞いていた。魔力を少し上げ、学生を装う準備をした。
ヘンリーが近づいてきたところで、さも今気がついた振りをして、ヘンリーに向かってお辞儀をした。先に話しかけてきたのはヘンリーだった。
「こんにちは。研究所内はどうかな?」
「こんにちは。とても素晴らしい研究所ですね」
レオンは笑顔で答えた。
「ありがとう。二人はビアンカの知り合いの子だったね。フォークス研究所の所長ヘンリー・カティです」
「レオン・ルシタールです」
「ティナ・ローレンスです」
二人は名前を言って、ヘンリーが手を差し出してきたので、レオンとティナは順番に握手をした。魔力を現状よりも少し増すのも忘れずに。
ヘンリーは一瞬、目を見張った。レイピアの民たちの魔力の程度はすべて知っている。研究の資料という名目で把握済みである。しかし、握手をした時に微かに感じた魔力の量。学生にしては高い。この二人は使える。瞬時に判断したヘンリーは、膝を曲げて二人の目線に合わせて、レオンとティナの肩に手を置く。
「二人はここにどれぐらい滞在するんだい?」
「一週間程です」
レオンが答えた。
「よかったら、近々実験をするんだけど、是非君たちにも手伝って欲しいんだけど、興味はないかな?」
「どんな実験ですか?」
「内容は秘密事項だから話せないんだが、成功すれば君たちも驚くよ」
驚くだけの話では済まないのだが。
「何をすればいいんですか?」
ティナも聞いた。
「その場に立っていてくれれば、何もすることはないよ」
「すみません、所長。この子達を預かっている身ですので、賛成出来かねますが」
「そうだったね、ビアンカ。君も参加すると良いよ。それなら、大丈夫だろ?」
「はい。それでしたら」
形振りかまってはいられないらしい。どうしてもティナとレオンの魔力が必要なのだろう。元々参加予定のなかったビアンカも参加できるのならば、好都合である。ビアンカ自身では参加できるように漕ぎ着ける事ができなかったから、二人だけでは心配だった。
「では、国王と王妃の案内に戻るよ」
ヘンリーは廊下を戻って、国王の訪問に合流しに行った。