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ガラス堂ミリューの外に二階に繋がる螺旋階段があり、登る度に鉄の軽快な音が鳴る。扉を開けると横に台所が設置されていて、奥に左右二部屋あり、左が居間で右が寝室だったので、左の部屋で待つことにした。ベッドやタンス、テレビなど必要最低限の物だけだったが、所々に一輪挿しや観葉植物が置いてあった。
「そういえばさ、調査員って誰なんだろうね」
ティナはふと気になった事をレオンに聞いてみた。
「報告書にも記名がないし、国王からも名前は告げられていないからなあ。案外、オレたちが知ってる人かもしれないな。驚かそうとか」
「お父様なら考えそう」
しばらくして、階段を登ってくる音がする。二人は入り口に注目した。
「いらっしゃい、二人とも」
「ビアンカ!」
声をかけたのはビアンカだった。ビアンカは城内で知り合った人でローズと仲が良い。特に何をしてるとか聞いたことはないが城の皆と仲が良かったので、疑問に思ったことはなかった。ティナの四歳上の二十歳。赤髪で肩下ぐらいの長さでストレート。年齢よりも年上に見られるため、幼顔であるティナは羨ましかった。逆にビアンカに言わせてみれば、若く見られる方が羨ましいと言う。
「久しぶり、二人とも」
ティナとビアンカは再会を喜んで抱き合った。
「調査員ってビアンカだったんだね」
「あれ?国王様から聞いてなかったの?」
「うん。報告書にも名前なかったし、詳しいことはこっちで聞くように言われてたし」
「なるほどね。それはびっくりするよね。私の事もあまり知らなかったっけ」
「てか、ビアンカって何してる人?」
レオンは特にビアンカが隠そうとしてる様子がないので直球で聞いてみた。
「ナルティノの秘密偵察部隊所属ビアンカ・スコット。今回は研究所の職員として派遣され中。ちなみに、弟のカイト・スコットと友達のレナード・フォンも同じ。通常は兵士という事になってる。周辺にバレないようにね」
カイト・スコットはビアンカと同じ赤髪のショートで十四歳。元気が取り柄の活発な少年。レナード・フォンは二十一歳で背が高く、スラリとした体型ながら、筋肉はちゃんとついている。銀髪で肩より上の長さで男性にしては少し長い。
「そんな部隊あったんだ。ティナは知ってた?」
「全く知らない。初耳」
「では、素性が分かった所で今回の仕事の説明していいかしら」
「うん。お願い」
「二人にお願いしたいのは、研究所に見学者として入ってもらって、所長に実験の参加を要請してもらうこと」
「見学しにいくだけで、そんなこと無理じゃない?」
「実験が大詰めに近づいてきて、強大な魔力を必要としているようなの。だから、魔力の強い人を集めてる。そこで、二人に研究所周辺から魔力の制御を少し緩めて欲しいの。ずっとだと周りの人が圧力感じちゃって疲れちゃうしね」
「けど、この世界に合うようにしてる魔力を今以上に出しちゃうのって、怪しく思われない?」
「学生設定だから大丈夫。まだ制御が定まってないって言ってあるから」
「ちょっと待って。学生設定?」
聞き捨てならない言葉が飛び込んできてレオンは話を遮った。
「問題ないでしょ。十五歳と十六歳なんだから。アレ持ってきてない?」
「アレって?」
「制服」
「せい、ふ、く?」
言っている意味が分からない。なぜ、制服なんかを……。
「あっ!!レオン、袋の中身!」
「あれか!!」
「何、二人して。びっくりするじゃない。本当に何も知らなかったんだね。中身確認してみれば」
レオンは端に置いていた黒い袋を開けた。中には二着の制服があった。
女子の制服はキャメル色のブレザーで白のカッターシャツ。襟元には紺色で細い水色のストライプのリボン。ブラウンとピンクのチェック柄のプリーツスカートと紺色のハイソックス。男子の制服はキャメル色のブレザーで白のカッターシャツ。襟元には紺色と細い水色のストライプのネクタイ。ブラウンと暗い紫色の細かいチェックのズボン。
「あったな。制服」
「あったね。お父様らしい隠し事ね。何が入ってるかと思えば。まだ、逆転してないだけマシかな」
「逆転?」
「ううん。気にしないで。似た感じの事があっただけだから」
「二人の設定は、私の友達の友達で、長い休み期間中。学校はレイピアの学校で、どこを調べても疑いが掛からないようにしてあるから。滞在は一週間程度。靴はこっちで用意してあるから」
「振り撒い的には普段と変わらない感じでいいって事でいいのかな?」
「うん。それで大丈夫」
ティナとレオンはビアンカの説明を聞いて、難しい事もないので少し安心した。
施設内や作戦を聞いているうちに夕食を食べる時間帯になり、ミリューから夕食のお誘いが階段の下から聞こえた。