パラレルショップ
★とあるアパレルショップ(?)にて★
店員「いらっしゃいませこんにちはー!」
客「さーてどの服にしようかなー…ん?」
店員「お客様、どのような商品をお探しでしょうか?」
客「えーっとその…服は…?」
店員「はい?」
客「服。商品の服。」
店員「服? 当店服は販売しておりませんよ?」
客「え? だってここ『アパレルショップ』でしょ?」
店員「あー申し訳ありませんお客様、当店『アパレルショップ』ではございません。」
客「は? だって店の前の看板にでっかく『アパレルショップ』って堂々と書いてあったじゃない?」
店員「お客様、当店は『アパレルショップ』ではなく、『パラレルショップ』となっております。」
客「『パラレルショップ』?」
(店内に飾られた看板を見る客)
客「ほんとだ! 『パラレルショップ』だ!」
店員「そうなんです。なので当店、衣料品は取り扱っておりません。」
客「そうだったんだ…。というか『パラレルショップ』って何?」
店員「その名の通り、『パラレルワールド』を販売している店でございます。」
客「わけがわからないよ…。『パラレルワールド』を販売している??」
店員「はい。『パラレルワールド』、日本語で言えば『並行世界』でございます。」
客「まあそれはわかるよ。映画とかでよく聞くもん。別世界のことでしょ? それを売っている?」
店員「はい。まあ不動産屋で物件を売るのと同じ感覚ですね。」
客「うーん、それでもよくわからないな。それじゃさ、ちょっと気になるからその物件?商品?を見せてよ。」
店員「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。」
(店員に促され店の奥へと進む客)
客「なんか、壁に穴がたくさんあるね。」
店員「この先に『パラレルワールド』がございます。」
客「なんか気味悪いね。いっぱい穴開いてるし。それでなんか色々と種類があるの?」
店員「ええ。例えばですね。こちらのパラレルワールド、穴の中をご覧ください。」
客「穴の中?」
(示された穴をのぞき込む客)
店員「いかがです?」
客「なんか普通の住宅街が見えるけど?」
店員「よーくご覧ください。我々の生活に大事なものがありませんよ?」
客「生活に大事なもの? あ!わかった!電柱が一本も無い!」
店員「正解でございます! こちらは『電気が発明されなかった世界』でございます。」
客「そういう世界があるんだ! へぇ~すげぇ! で、これを物件を売る感覚で販売してるの?」
店員「えぇ。購入された方はこちらの世界に住むことになります。」
客「買われるかなこれ…。わざわざ電気が存在しない不便な世界に住みたいと思う人いるのかな?」
店員「そうですね。静電気が苦手な方がよく購入されますね。」
客「買う人いるんだ! えーでも静電気を無くすことに対する代償がでか過ぎでしょ!」
店員「それでも冬場になるとよく売れるんですよ。」
客「マジか…そうなんだ…。」
店員「似たような世界ですとこちらですね。」
(隣の穴を示す店員)
客「こっちはなんだ?」
(穴をのぞき込む客)
客「似たようなってことは『火が発明されなかった世界』とかか?」
店員「お客様、大正解です!」
客「正解しちゃった…。マジでそんな世界もあるの…?」
店員「火がございませんので火事や火傷をする心配はございません。」
客「まあそれはいいかもしれないけど火使えないのもだいぶ不便だよ? 誰が買うのこの世界。」
店員「こちらはですね、ヴィーガンの方がよく購入されますね。」
客「もしかして肉を焼かないから!?」
店員「そうかもしれませんね。」
客「代償がでか過ぎるって…。火葬もできないし、キャンプファイヤーもできないじゃん! というかはちみつとか乳製品とかは火関係ないじゃん…。」
店員「どうです?お客様。『パラレルショップ』のパラレルワールドは?」
客「なんか『いいな~』と思うような世界が無いね。火が無いとが電気が無いとか…。」
店員「確かにこちらは『概念欠落系』の世界ですからね。」
客「そんな分類まであるの!?」
店員「ええ。今ご紹介させていたのは『火』や『電気』といった物質の概念が欠落しているため『概念欠落系』に括られています。その他には『概念置換系』というのもございます。」
客「『置換』?」
店員「あらゆる概念が別のものに置き換わっている系統の世界でございます。例えばこちらです。」
客「なになに?今度はなに?」
(穴をのぞき込む客)
客「これは…スーパーのレジ?」
店員「スーパーの店員さんとお客さんのやり取りをよーくご覧ください。」
客「まずは商品が入ったカゴをレジに置いて、スーパーの店員さんがレジ打ちしてる…ここまでは変わらないね。で、お金を払って…ん? は? なにやってんだあのお客さん! ホコリをスーパーの店員に渡してる! そんでスーパーの店員さん普通に受け取ってる! なにが起きてんだ!?」
(穴を食い入るように見る客)
客「次のお客さんは? レジ打ちまでの流れは一緒で…は!? なんか自分の髪の毛を一本渡したぞ!? 次の客はさんは? 布きれみたいなの渡したぞ! そんでスーパーの店員は普通にそれ受け取ってる!どうなってんの!?」
店員「こちらはですね、『現金の代わりに原子が貨幣として使われている世界』になります。」
客「どんな世界なんだよ! 原子ってこの世のありとあらゆる物質を構成してる物凄い小さい粒のことでしょ? 学校で習ったよ。それを貨幣として使っている?」
店員「そこら中に天文学的な数が存在しているので案の定インフレが起きていますね。」
客「インフレどころの騒ぎじゃないでしょ!」
店員「あ、お客様! 場面切り替わりました!」
客「なになに? 今度は、自動車の販売店か? なんかディーラーがでっかい袋持ってる。それで車を買った人がすごい息を吸い込んで、袋の中に息を吐き出してる?」
店員「大量の二酸化炭素分子で支払っていますね。」
客「見てらんないよ! そんなホコリとか髪の毛とか息を取引の道具として使ってるの気色悪くて見てらんないよ! 誰が買うのこの世界は!」
店員「働く気のない無職の方、ニートの方が購入されることが多いですね。」
客「自分で稼がなくて良くなるからか。そんでこの世界を買う金は誰から貰ってるんだろうな…」
店員「因みに原子が硬貨、分子が紙幣の感覚になっています。」
客「どうでもいい、どうでもいい。目に見えないし大して変わんないでしょ。」
店員「左様でございますか。ではもっと平穏なパラレルワールドをご覧になりますか?」
客「あー見せてよ見せてよ。目の保養をしたい。」
店員「ではこちらになりますね。」
客「さあどんな平和な世界だ?」
(穴をのぞき込む客)
客「ここは、道路? すんごい渋滞してる…いや待てよ? 若干動いてね? 錯覚? いや動いてるな。なんだこれ?」
店員「どうです? こちら、ゆったりして平和な世界でしょ?」
客「なんかただの静止画を見せられてる気分だな…。車が遅すぎて青信号の間に一台も交差点通過できてないじゃない…。」
店員「まあこちらは『自動車の制限速度が2キロの世界』ですから。」
客「自動車の意味! この世界では自動車は何のために作られたの!?」
店員「歩行者同士の事故を防ぐためですね。」
客「歩行者同士の事故が多いんだ…。どんだけ治安悪いんだよ…。」
店員「ちなみに高速道路での最高速度は5キロに制限されています。」
客「なら歩くよ。なんなら走るよ。」
店員「お客様、どうですか? 気に入ったパラレルワールドはございますか?」
客「あるわけないでしょ。どれも狂ってるよ。」
店員「本日は購入されないですか?」
客「ああ。今のこの世界が一番だな。じゃ、俺、『アパレルショップ』のほう行くから。」
(『パラレルショップ』を後にする客)
店員「またお越しくださーい。」
(店内の電話が鳴る)
店員「はい。こちらパラレルショップ△△店です。あ、エリア長お疲れ様です。はい、はい、在庫処分? かしこまりました。対象は? "この世界"ですね。」
ー終ー




