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罰ゲームで百人斬りのレズに告白してみた結果 〜なんか毎日貞操の危機を感じてるんですけど!?〜  作者: はるしゃ
第一章

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第21話 付き合ってください。




「あ……ごめん、聞こえなかったよね。わたし、じつは昔─────」


「いや、聞こえた聞こえた!! 聞こえたけども!!」




今のはい?は、断じて聞こえなかったんじゃなくて、理解ができなかったってだけで。


未だに困惑したままでいる私を見て、一織は不思議そうな顔をする。

いや、いやいや。



「嘘つけよ!!」


「うそじゃないよ。ほんとだよ」


「一織みたいな美少女が!? 優等生が!?」


「美少女……」


「いやこのタイミングで頬を赤く染めるな!!」



そういえば一織の顔の造形なんて直接褒めたことなかったっけ、とか思い出しながら、私は頭を抱える。


一織が?元ヤン?

いや、それならまあ、さっき男を三人吹き飛ばした力も、もっと遡れば映画デートの待ち合わせで、チャラ男の腕をひん曲げてたのも納得いくけど……!



「一織が強いのは、柔道やってたから……じゃないの?」


「じゅう……どう……?」


「うっそでしょ忘れてんの」



チャラ男の腕を曲げたときに、『えっと……柔道。柔道を長い間やってて』とか言ってた一織を思い出す。なんか言い訳っぽいなとは思ってたけど、咄嗟にてきとう言ってたわけ!?


じゃあ、今まで一織なんかよりも断然背が高くてガタイのいい男をコテンパンにのしちゃってたのは、柔道とかじゃなくて、シンプル一織の腕っ節……ってこと?……いや確かに、さっき三人を吹っ飛ばしたとき、投げ技?とかそういうの一切使わず拳ひとつだったもんね……。



……っていやいやいや、何を納得しかけてんの私!?

一織が元ヤンとか、そんなのありえるはずないじゃん!



「わりーけど、星宮が不良だったってのは本当だぞ」



そんなばかな!ってな具合に頭を振っていた私に、そんな声が降り注いだ。聞き覚えのある、そして最近聞く度にイラってするその声は。



「な、夏希……」


「……うっわ何これ、ちょっとした事件現場みたいになってんじゃん。手加減しろよ星宮」


「だってこのひとたち、乙葉に手を出そうと」


「あーはいはい、惚気は勘弁」



やれやれと肩をすくめながら、夏希はブランコの仕切りに腰をかける。

予期せぬ夏希の登場に、私の頭は混乱するばかりだ。

まず一織=元ヤンってところから片付いてないのに。


そんな私の混乱っぷりを見て、夏希は心底面白そうに、くつくつと喉の奥で笑ってくる。



「なんだよ、まだ信じらんねえのかよ? 男……それも不良三人をここまでコテンパンにしてるところを見てさ」


「だ、だって……そんな情報、一度も」


「んー、まあパンピーには縁のない話か。不良の界隈じゃ星宮はかなり有名なんだが…………ああ、あと星宮の出身中学とかじゃ、な」



夏希のその言葉に、私は一織の出身中学……七中?と小さく呟く。

そうして、記憶に蘇るのは……やけにテンションの高い後輩との会話だ。




『おとちゃんセンパイ、すっごいですね!!!』


『実はあたし、星宮センパイと同じ中学出身で。それで、中学のときずっと憧れてたんです!』


『百人斬り伝説に憧れまして!』


『知ってるも何も、百人斬り伝説って七中発祥ですし』


『あたしは違いますよー! ただただ憧れてたってだけで……あたしはただのパンピーです!』




佐倉和奏、通称わかちゃん。私のバイト先であるカフェで、かわいい後輩をやってくれている子で……自称一織のファン。

あのときは、レズでもないくせに百人斬りのレズこと一織に憧れてる変な子、としか思えなかったけど、今見た光景と繋げるのなら────



さっき、一織に殴り飛ばされた三人目の男の顔が脳裏に過ぎる。



『消えたんじゃなかったのかよ────百人斬り!!』



もしかして、一織のことをラベリングするその『百人斬り』という異名は、私が思っているのと全く違うのではないか。


そんな私の疑問に答えるかのように、夏希は笑った。



「こいつ……星宮は、不良の中じゃ伝説級のバケモンでさ。中学時代に、デカいチームのトップだったり不良高校の番張ってたりするような、そりゃもう有名な不良何十人って数を、単身で打ちのめしちまってさ。それでついたあだ名が────『百人斬り』」


「……夏希、やめてよ」


「んでまあ、その打ちのめされた不良の中にはあたしもいたわけなんだけど……ああそうだ、前に話しただろ? あたしがとある不良に負けたって」



まだ少し理解が追いつかない私の頭に、放課後、玲緒奈に押し付けられた作業を、夏希と一緒にやっていたときの記憶が蘇る。

たしか玲緒奈と夏希が仲良くなったきっかけ、みたいな話をしてて、その最中に……



『そしたら、ある日あたしが人生で初めて、とある不良との喧嘩に負けて』



そんなことを、めちゃめちゃ悔しそうに喋ってたっけ。

そのときは不良ってよくわかんないなーとしか思えなかったけど……冷静になったら、さっき吹き飛ばされた不良三人組が、名前を出すだけで一目散に逃げるような『望月夏希』を、喧嘩で負かしちゃうその人って、めちゃくちゃ化け物なんじゃ。



私は真偽を問うように、一織の顔色を伺う。

私の目線に気がついた一織は、すごくバツが悪そうに、そしてすごく恥ずかしそうに、顔を赤らめてそっぽを向いた。……嘘をついてるような顔には、到底見えなかった。



「ほ、ほんと……なの?」


「……うん。夏希が喋ったことは……ぜんぶ、ほんと」



一織は俯きながら、小さく頷いた。

イタズラが親にバレちゃった子どもみたいに、しょんぼりしたような、泣く手前みたいな顔をして。



……いやいや、ちょっと待って。そういえばずっとスルーしてきたけど、一織ってばさっきから『夏希』呼びしてるよね!?



「じゃあ……一織と夏希は、元ヤン同士で気心の知れた恋人……ってこと!?」


「!? ど、どうしてそうなるの」


「はぁ!? お前さぁ……!!」



だって、絶対そうじゃん……!!

私の知らない一織の過去を全部知ってて、ドヤ顔で語ってきて……コレあたしの女だからってマウントじゃないの?



「だって、さっき……!! 夏希、髪、濡れてたし。一織なんて夏希の頭撫でてて、夏希はこんなんじゃ足りないとか……!!」


「はぁ……!? お前、そんな一部だけ都合よく見やがって……ああ、だからさっき星宮のこと殴って逃げたのかよ!?」



呆れたわ、と両手を上げて肩をすくめる夏希。そしてバトンタッチ、と言うかのように一織に視線を投げる。一織はそれを受け取ってうん、と小さく頷いた。……その、心から通じあってますみたいな感じも死ぬほど気に入らないんだってば……!!


一織は私に近づいてきて、両手で私の頬を挟んだ。そしてぺしゃんこになった私の顔に、その端正なお顔をぐっと近づけてくる。



「乙葉、冷静に、きいてほしい」


「私はずっと冷静……!!」


「……うん、あのね」


「……」



一織がため息をつく。視界の端で、夏希が頭をガリガリと掻きむしる。




「夏希は、わたしの犬なんだ。わんわん」



「……は?」




私の視界の右端で、はぁ!?犬はねえだろ!!と叫ぶ声が聞こえる。

混乱する私と激昂する夏希をフルシカトして、一織はあくまでも自分のペースを崩さずにポケットからなにかの紙を取り出した。


それを見て、夏希はげっ……という珍しい声を出す。


一織はその丁寧に三つ折りされた紙を、丁重に開いて、私の眼前に突きつけた。

それは、なぜかめちゃくちゃ見覚えのある────





━━━━━━━━━━━━━━━

主従誓約書


犬:望月夏希(以下、犬)は、主:星宮一織(以下、主)に対していかなる場合も忠誠を誓うものとする。


1.犬は主の命令に絶対従います。

2.犬はいついかなるときでも主の呼び出しに応じます。

3.犬は主からいかなる命令を受けても、意義を申し立ていたしません。

4.犬は本契約に違反があった場合、どんな厳しい懲罰も甘受いたします。

5.この誓約書は、主が満足するまで有効のものとします。


20××年 8月 ×日

署名:望月夏希


━━━━━━━━━━━━━━━



いや怖すぎる!!!


……って、前にも同じような反応をした覚えがある……!!


私は、その誓約書をふたたび三つ折りし始める一織と、殺してくれ……と頭を抱えている夏希を交互に見つめた。



「これ……えっと、昔夏希をボコボ……んんっ。夏希との喧嘩に勝ったときに、書かせたもので。そのときは、その……しぶとい夏希の心をへし折るための、ほんのおふざけみたいなものだったんだけど、さいきん……あんがい便利ってことに気づいて」



いや怖い怖い怖い!!

声には絶対出さないけど怖すぎる!!!

え、じゃあなに、夏希が玲緒奈に書かせてたあれはこれのオマージュで、本家は一織ってこと……!?


夏希作のパシリ誓約書(だったっけ?)を見せてもらったとき、一織なんかよりもこんな誓約書を簡単に出してくる夏希の方が怖いとか思ってたけど、その印象はがらりと逆転した。だってもう、私の視界の右端で殺せよ……もう……って項垂れてる夏希が子犬にしか見えないもん……!!



「じゃ、じゃあ……恋人同士とか、なんなら友人同士でもない……ってこと?」


「うん。主人と犬」


「怖いって……」



私の「怖い」って言葉に、ガーンとあからさまにショックを受ける一織。……いやなにショック受けてんの、こんな非人道的なことしといて……。

てか、付き合って24時間も経ってない私に、トイレの個室でスカート脱がせてパンツ姿の写真撮ってきた一織こいつに、ハナから道徳なんてなかったわけか……。あの写真で脅されたりしてないだけ、私はまだマシな扱いを受けてるんだな……。


私のジト目に耐えられなくなった一織は、気まずそうに咳払いをして続ける。



「……えっと。それで、さっき夏希の髪が濡れてたのは、雨が降ってたせい……らしくて」


「雨……ああ!」



そういえば、公園の遊具も濡れてたっけ。……あ、このスカートも立ち上がったらびしょびしょなのかな。


昼頃にみんなが下校を始めてから夕方まで、ずーっとぶっ通しで玲緒奈の課題に付き合ってたから、外の空模様なんて全く気にしてなかった。……なんかめっちゃ初歩的な勘違いしてて、死ぬほど恥ずい。


一織は捲し立てるように続ける。



「頭を撫でたのは、ただのおふざけで。……その、いつも、わたしのために働いてくれたぶんの報酬を、あげるようにしてるんだけど。きょうは、思いつかなくて……」


「報酬……」



はっとする。そういえば、さっきふたりが一織の部屋の前でイチャコラしてるときに、そんな話もしてたっけ。なでなでとか、足りないとか、そんな言葉しか耳に入らなかったけど……なるほど。

たしかに、ちゃんと働いて得た報酬が『好きでもない人からのなでなで』なんて、『足りない』……よね。


謎が解けると同時に、しょうもないことで悶々していた自分がどうしようもなく情けなくなる。私はあぁぁぁ……と呻き声を出して項垂れた。


心配してだいじょうぶ?と顔を覗き込んでくる一織は、やっぱり死ぬほど美人で。私はこんな子の顔を殴っちゃったんだなって思うと……もう罪悪感で死んじゃいそう。



私は、一織の左頬をそっと撫でる。



「一織……その、ごめん。勘違いして、ぶったりして」


「ううん。乙葉からなぐられるのは、ごほうび」


「それはそれでキモいけどなぁ!?」



もう一発殴ってやろうかな??なんて思いつつ、いつもの調子に戻ってきた一織に私はほっと息をついた。……息をついた、ところで。ある重要なことを思い出す。


それは、一織と夏希の関係性なんかよりも、ずっと不思議なことで。



「……えっと、待って。一織の『百人斬り』って、一織がヤンキーだったときの異名、ってことだよね」


「う、うん」


「じゃあ、『百人斬りのレズ』っていうのはどこから……? いや、てかまず、一織ってレズ……じゃないの?」



一織は表情を曇らせた。

それとは対照的に、やっと話の焦点が自分から逸れたことで正気を取り戻した夏希は、その場にしゃがみこみながら、してやったりといった顔で口を開く。



「その噂な、あたしが流したんだよ」


「……は? え、は? なんで!?」



困惑しながら、一織が転入してきたばかりのことを思い出す。

そういえば一織にそんな噂が流れてきたときに、他校にいる舎弟に聞いて回って『事実らしい』と後押ししてきたのは夏希だったっけ。


まさか、主従誓約書なんてものを書かされた腹いせに?にしたって、そんな噂流すのは────




ご主人(こいつ)に、そういう噂を流せって命じられたんだよ」




あたし悪くねーから、と言いながら一織を指さす夏希。

どういうこと?と頭を抱える私に、一織はようやく話してくれる気になったみたいで。



「わたし、前の高校で……昔不良だったっていうのがバレて、迷惑をかけてしまったことが……あって」



そうして語られるのは、一織の過去のほんの一部。

一織の前の高校といえば、県内一の進学校である英東はなぶさひがし高校だ。あんな進学校で元ヤンだなんてバレちゃったら……きっと周囲から恐れられて距離を置かれるだろうし、もともと器用な性格じゃない一織は簡単に孤立するのが目に見えている。私はそんな一織を想像して、きゅっと胸が締め付けられるような気持ちになった。



「そこで、秋月に編入することになったときに、もう元不良ってことがばれてみんなに迷惑かけるのはやめよう、とおもって」


「うん」


「それから……前の高校では、みんなに近づきすぎたせいで、ばれちゃったから。だからもう、みんなと近づかないようにしよう、距離をおこう、とおもって」


「うん」


「だから、百人斬りのレズを名乗ろうとおもって」


「いやなんでぇ!?!?」



そこだけわけわかんないけど!!

夏希が呆れ笑いながら、一織のトンデモな思考回路を補強するように入ってきた。



「まあ実際、星宮はクラスメイトから怖がられてはないけど一歩距離置かれてる、みたいな、こいつが望んでた状態を作り出せてるわけだから……まあ正解なんじゃねえの?」


「いやぁ……にしたって、だよ……。絶対もっとあったと思うんだけど……いや思いつかないけどね!?」



夏希はだろ?あたしも。と頷く。

私は、じゃあ……と続ける。




「一織は……さ、レズじゃない……ってこと?」




それを尋ねた瞬間、空気が凍ったような気がした。

その凍った空気を作り出したのは、一織もそうだけど、私も含まれてて。

……だって、ここでレズじゃないとか言われたら。今まで一織にされてきたことは、ほんとにただのお遊びで。私が一織に抱いてしまった恋心も、叶うことのない想いになってしまうのだから。


私は心配げな目線を、一織に投げる。一織は気まずそうに、いたたまれなさそうに、もじもじとしていて。



そんな私たちの様子を見た夏希が、あー!もう!!と叫んだ。




「あのなぁ、星宮が言わねえならもうあたしが言うけど─────」


「まって、夏希。わたしが……言う。……ハウス」


「ハウスは余計だろ殺すぞ!!」




ガルル……と今にも噛みつきそうな夏希を片手であしらいながら、一織は私に向き直る。ようやく決心がついた、そんな顔をして。


一織は、吸い込まれそうな瞳で私をじっと見つめて、話した。





「夏希に命じて、罰ゲームで乙葉がわたしに告白するように仕向けたのは……わたし、なんだ」





それは、全く予想もつかなかった言葉。

罰ゲームも、嘘告白も、ぜんぶ一織が知らないはずなのに。


けど、一織のその表情は……嘘をついているようにはまったく見えなくて。

一織は今にも泣き出しそうな顔をして、頭を下げる。



「……ずっと、言えなかった。きらわれたくなかったから」


「え……え? えっと……な、なんで? なんで私に嘘告やらせるとか、そんなことになったの?」



私のその質問に、一織は頭を上げる。その顔は、見たことがないくらい真っ赤になっていて。





「……す、すき、だった……から。乙葉のことが。……ほかのクラスメイト全員と距離をおいても、なんともなかったけど。……乙葉とだけは、どうしても、どんな手を使ってでも、近づきたかった」





それは、予想もしない、一織から私への愛の告白だった。

私の顔が、一織といい勝負ってくらい赤くなる。鏡なんてないからしらないけど、わかる。だって死ぬほど顔が熱いんだもん。


一織は俯きながら、ぽつりぽつりと続ける。



「ひとめぼれ……だった。すぐ、すきになっちゃって。けど、すきになっちゃったのは、もう誰ともなかよくならないって、前の高校みたいにならないって決意して、夏希に噂を流してもらったあとだったから……乙葉は、わたしのこと避けてて。ずっとがまんしてた。しゃべりたかったし、触れたかった」


「い、いおり……」


「けど、もう限界……ってなって。どうしても、近づきたくなって、夏希におねがいしたんだ。乙葉とわたしをちかづけてほしい、って……。方法は夏希に任せてたから、乙葉から屋上によびだされて告白されたときは、もう、天にも登る気持ちで。……けど、とちゅうで、夏希の仕業ってきづいて……残念ではあったけど、これで乙葉と、たとえ罰ゲームでも交際できるって、すごくうれしくて」



一織は真っ赤になった顔を両手で隠す。

私は開いた口が塞がらなくて、ぽかんとしながら、一織の赤裸々な感情を受け止めていた。

一織は、だから……と続ける。



「……さっきの質問の答え、だけど。レズ……では、あると思う。乙葉のこと、すきだから」



ああ、そんなこと質問したっけ、なんてことを考える。

一織そう言い切ってから、また深々と頭を下げた。



「いっぱい、ひどいことして、ごめんなさい。からだにたくさん触れたし、写真も撮ったし、ほんとにひどいことをした。……夏希から、乙葉は交際三ヶ月が経ったらわかれるつもりっていうのは……聞いてたから。ずっと焦って、それまでに乙葉にすきになってもらわないとって、必死で。けど、人と付き合ったことなんてないし、方法とか、わかんなくて」



一織の顔は見れない。けど、一滴の涙が地面に落ちて、そして土に吸い取られていくのだけは見えて、今この子は泣いてるんだ、ということだけがわかった。ぽろぽろと、一織の涙は止まらない。



そうだったんだ。

私はずっと、百人斬りのレズである一織が、戯れに付き合った私で遊んでいるものだと思っていた。すきとか、かわいいとか、そういう言葉を浴びるほど言われてちょっと期待したりもしたけど、やっぱり私はただの百一人目っていう印象が抜けなくて。


けど、一織にとって私は初めてだったんだ。

なんでキスしてこないんだろう、なんで抱いてこないんだろう……ってずっと悩んでいたけど、一織は好きな人(わたし)にそこまで踏み込むことができなかったってだけなんだ。



私は初めて、目の前に立つ美少女───星宮一織が、ただのふつうの女の子に見えた。



「……えっと、さ。気になってたんだけど、試験前急に触ってこなくなったのは、飽きた……とか、他に女ができた……とか、そういうんじゃなかったってこと?」


「!? ち、ちがう。そんなわけない。わたしは、ただ……乙葉が思ったよりあんぽんたんってわかって、このまま放置してたら、乙葉が夏休み登校しなきゃ行けなくなる、って思って……。夏休み、したいこといっぱいあった、から。絶対にいい点とらせなきゃって、ずっと、必死で」


「……私と一緒に、夏休み満喫するために?」



一織が恥ずかしそうに、こくんと頷く。

今までにないくらい、心臓が締め付けられた。



なにこれ。かわいい。かわいすぎるでしょ。

てかこの子、私のこと好きすぎじゃん。

私がずっと悩んでた一織と夏希の関係性だって、私のことを惚れさせるための工作やってただけってわかったし。……あ、放課後発破かけてきたときの夏希、あれももしかして工作だったのか……!?



私がやれやれとため息をつくと、その音に過剰反応して一織がびくりと震えた。


たぶん、ほんとはずっと、こんな本音なんて言うつもりなんてなかったんだろう。三ヶ月間で私を落としきればいい話だったんだから。それに、こんなこと話したら私がドン引いて、一織のことを嫌いになっちゃう可能性だってあったんだし。


けど、一織は話すことを選んでくれた。

それはきっと、私がずっと悩んでたからだ。私の悩みや葛藤を解消するために、一織は嫌われてもいいって覚悟で、真実を伝えてくれたんだ。



……なら、さすがに私も、それに応えなきゃいけないよね。



「一織。顔、あげて?」


「……っ」



一織はずっと俯いていた顔をようやくあげて、こちらを見てくれた。

せっかくの美少女なのに、目は真っ赤で、涙でぐずぐずになっている。たぶん泣き声を漏らさないようにだと思うけど、口をきゅっと一文字に結んでて……なんかちっちゃい子みたい。


私はその顔を見て、小さく笑いながら。




「あのね、私もずっと言わなきゃいけないと思ってたんだ」



「……うん」



「一織って、正直めちゃくちゃじゃん。付き合ってすぐにラブホ行こうとか言ってくるし、映画観てるとき指絡めてきたり、トイレでパンツの件とか。言動も全部セクハラだし、家あがったら絶対にあちこち触ってくるし」



「………………うん」




一織の表情が曇る。

違う、そういうことを言いたいんじゃなくて。


私ははっきりと、言い切る。




「……それ全部、嫌じゃなかった」



「…………え?」




一織は曇らせていた表情を、途端困惑の色に変える。

私は顔を赤らめながら続ける。




「私がずっと嫌だったのは、そういうんじゃなくて。夏希との距離が近くて、なんか怪しい関係性ぽかったりするとことか。急に体を触ってこなくなったり、そういう不安にさせてくるところで。……いやまあ私が勝手に不安になってたんだけどさ!? まあとにかく、私はその件でこのところずーーーっと悩まされてたわけでして」



「え、え? あ、えっと……ごめんなさい?」




ああもう、顔が熱い。

罰ゲームで嘘告白したときよりも断然だ。





「つまり、何が言いたいのかと言うと! 私の頭の中はずっと、一織でいっぱいだったってことで……!!」





逃げ出したいくらい恥ずかしい。

けど、目の前で私の話を、目をキラキラ輝かせて聞いている愛おしい彼女がいるのに、そんな真似できなくて。




「たしかに、最初一織に告ったのは……罰ゲームで、嘘告白だった。一織のことなんてすきでもなんでもなかったし、罰ゲームで仕方なく、だった」



「……うん」



「けど、今から言うことは、罰ゲームでも嘘でもなんでもない、ここ最近ずっと悩んだ末に導き出した、本当の答えだから。二度と言わないから、ちゃんと聞いてて」




私は跳ねる心臓を落ち着かせるために、深呼吸をする。焼け石に水って言葉がよく似合うくらい無意味だったみたいで、依然心臓はバクバク跳ねまくったままだけど、仕方ない。


私は、自分の頬を両手でぱしんと叩きながら、ずっと待ってくれている一織に向き直る。


そして、すぅっと息を深く吸い込んで。






「一織のことが、すき。だいすき。……だから、私と付き合ってください」






たどたどしく、愛の告白をした。


一織が、またぽろぽろと涙を零す。

それを見て焦って拭きに行こうとした私を制止するかのように、先に一織が私の元へ近づいてくる。


そして、私を正面から強く抱き締めて。




「うん……わたしも、乙葉のことすき、だいすき。わたしとつきあって」




涙ぐんだ声で、耳元で囁いてきた。

胸に愛おしさが溢れる。

本当に、ちゃんと、正式に、一織と恋人同士になれたんだ。


なんだか腰が抜けちゃって、一織の方へ倒れ込む。一織はさすがの体幹って感じで私を軽々受け止めてくれて、そしてそのまま耳元で囁く。



「わたしのどこがすき?」



急に尋ねられた私は、一瞬なんのことかわからず……けど、すぐになるほどねと頷く。そして、



「顔、かな」



そんなことを言って、ふたりで笑い合った。














「……なあ、あたしいること忘れてねえ?」



……その後。砂糖を1kg食べさせられました、みたいなうんざり顔をした夏希にツッコまれるまで、私と一織は抱きしめ合いながら愛を囁きあったのでした。







ご覧いただきありがとうございます!

やっとここまで書けました……!!この後エピローグを何本か投稿して、第一章は完結にしたいかなと思います。第二章も書く予定でいます!


少しでも良いなと思っていただけましたら、↓↓↓の☆から評価をつけていただけると嬉しいです!感想・ブックマークもお待ちしております!

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