第12話 先生のひみつ
コンビニで甘いものを爆買いして貪ったところで、ようやく夏希への苛立ちが収まった。そんなことをしていると辺りはいつの間にか暗くなり始めていて、まずったなーと思う私。
「ここどこだろ……」
天沢乙葉、高校二年生。絶賛迷子中でした。
いやまあ、スマホさえあれば帰ろうと思えば帰れるんだよ?けどさすがに、イライラしながら何も考えずにずんずん進んでたら、来たこともない街にまで来ちゃうとか思ってもなかったわけで。
ママに遅くなるって連絡するべきだろうけど、なんて説明するか……。とりあえずお姉ちゃんに、友達と勉強してるから遅くなるって言っといてって伝えとく。ワンクッションってとっても大事。
地図アプリを開いて、とりあえずいちばん近い駅を探す。……げ、徒歩25分。歩けなくはないけど、微妙に嫌な距離。しかも歩いてるうちにどんどん日が暮れそうだ。
ここで大人なら、スマホでぴぴっとタクシー呼んじゃえたりするのかなーとか思うと、自分はまだまだ子どもなんだなとか思ったり。
コンビニで爆買いしちゃったせいで所持金が1580円の私は、タクシーなんて高級車を呼び出せるわけもなく、仕方なく25分先の駅を目指して歩き始めた。
残り7分と表示されたところで、辺りは既に真っ暗になっていた。時計を見ると、あと10分で8時になろうかという時間。友達と遊んでるときならまだしも、ひとりで出歩くのは、女子高生にとってちょっと怖くなってくる時間帯だ。
お姉ちゃんが上手いこと伝えてくれたのか、ママからの鬼電はまだない。でも帰ったら小言言われるんだろうなぁ……。
どれもこれも、意味わかんないこと宣って私を怒らせた夏希のせいだ。もっというと私と夏希に雑用押し付けた玲緒奈のせい。いやいやさらに遡ったら、そんな玲緒奈に雑用なんて任せちゃった高槻先生のせい!
近くにあった石ころを蹴ると、電柱に当たってカーンと音が鳴った。
「調子乗ってんじゃねえよ!!」
空気がビリビリと割れるような大声に、私は思わずびくっと肩を震わせた。
困惑して辺りをキョロキョロ見回すと、路地裏で不良らしき三人組の男に、一人の女性が囲まれていた。
げ、治安悪くなってるとか、不良が増えてるとかガチだったんだ……。
私が大柄な男性ならすぐに助けに行けるんだけど……とか思いながら、一旦物陰に隠れてその様子を見守る。
「おねえさんさぁ、ちょっと美人だからってちょーしのってね? おらおら、タッくん怒らせっとガチやべーよ? いちお言っとくけど、この辺仕切ってんのタッくんだかんね?」
「そーそ。喧嘩売る相手は選ばねえとなぁ……」
そう言って下卑た笑い声をあげる後ろの男二人。代表格みたいな、先頭に立つ男は、震える女性を見て舌なめずりをする。
「まあでも、お前結構胸あんじゃん。顔も案外カワイイし……へへ。俺のオンナになったら、解放してやってもいいぜ?」
そうやって、女性の後ろの壁を蹴り上げた。
女性はずっと震えている。それでも、女性は口を震わせながら、
「お断りよ。残念ながら、あなたみたいな乱暴な人、私タイプじゃないもの」
そう強気に言い切った。
それも、めちゃくちゃ聞き覚えのある声で。
女性にフラれてしまった男は、顔を真っ赤にして、青筋をピキピキと立てる。そして、女性に向かってそのゴツい拳を見せつけて、
「だからよォ……そういう態度が調子に乗ってるって言ってん─────」
「さいってー!!」
女性の顔に振り下ろそうとしたところで、その動きを制止する声がひとつ。……無論、私だ。
突如現れた私に一瞬驚いた顔をするも、私が制服を着たただの女子高生だとわかると、すぐにまた下卑た笑みを浮かべる男三人組。
「なんだぁ? てめェ、今なんつった?」
「さいってー、って言ったの。女の人ひとりに寄ってたかって、さいてーじゃん。キモすぎ。てかふつうに警察呼んどいたから、逃げた方がいいよ?」
「てめ、余計なことをッ!!」
もちろんハッタリだ。こんな近い距離で警察に電話して、あの男三人組にバレようもんならタダじゃすまなかっただろうから。けどこんなんで効いてくれるなら僥倖ってもんよ。
けど、後ろの取り巻きふたりは狼狽えたものの、先頭に立つ男はそうはいかなくて。
「落ち着けよ。要するに、だ。警察が到着するまで、てめーとこの女を甚振る時間は、たーっぷりあるわけだ」
そうだろ?と口角を上げる男。くそ、そう来たか。
けど、私だってそう言い返されるなんてことは一応想定済み。なるべくこの手は使いたくなかったから、警察呼んだよーでなんとかなってほしいと願っていたけど。
私は召喚獣を喚びだすサモナーみたいな顔をしながら、自分のスマホを突きつけた。
「望月夏希」
「……なっ!?」
途端に狼狽える男三人組。よかった、夏希の恐ろしさはこの辺にも伝わってたみたいだ。
私は、夏希と私のツーショットをくそ野郎共に突きつける。
「私、夏希と大の親友なんだよねー。私と、あとそこのお姉さんに手出しでもしたら、夏希が黙ってないと思うけど」
「く、くそ……!! おいお前ら、行くぞっ」
こうかはばつぐんだ!
不良たちは捨て台詞すら吐かずに、素直に逃げていった。夏希パワー恐るべし。……てか夏希、あの結構イカつそうな不良三人が怯えるって……どんだけ強かったの?もう私怖いんだけど。
不良たちがいなくなって、その場には私と、囲まれていた渦中の女性だけが残される。
強気な表情を保っていた女性は、急に緊張の糸が切れたみたいに、その場に座り込んでしまった。
私は慌てて近づいて、手を差しのべる。
「大丈夫ですか? 高槻先生」
「あ、ありがとう……天沢さん」
不良に囲まれていた女性とは、我らが副担任かつ英語の担当教師、高槻先生だった。
✝︎
「天沢さん。着替え、これでも大丈夫かしら」
「あ、はい! すみません、ありがとうございます。私が先に入らせてもらっちゃって……」
「いえいえ。助けてくれたお礼だもの」
私は今、高槻先生の家にお邪魔していた。……なんでやねん。
実はあの後、急に降り出した雨(というか天気予報で雨って見たの忘れてた)のせいでびしょ濡れになってしまった私と高槻先生は、とりあえず近くにあったファミレスで雨宿りすることになった。
お腹が鳴ってしまった私に、「お礼だから。他の生徒たちには内緒ね」と大人のウインク&スマイルをして、ステーキセットをご馳走してくれた先生と晩ご飯を共にしたわけだけど、食べ終わってもまだ雨は止みそうになくて。
天気予報を見てみると翌朝8時まで大雨とのことだったので、ずぶ濡れになることを覚悟で外に出ようとしたのだが……風邪をひく可能性もあるし、こんな時間に女子高生がひとりで出歩くのは危険という理由で、おうちにお邪魔させていただくことになったのだ。めちゃめちゃ優しい。さっきは(心の中で)八つ当たりしてごめんね、あやちゃん先生。
お風呂にも先に入らせてもらったので、贅沢に湯船にも浸かっちゃう。私以外が大の暑がりで、夏場はシャワーで終わらせることが多い天沢家では、湯船に浸かれる日は夏場だと超少ない。
あ゛ぁ〜とおじさんみたいな声を出しながら、私は湯船の中で背伸びをした。
高槻先生は、簡単に言うと美人だ。テレビの中にいても遜色ないくらい、ふつうの学校で教師してるのがちょっともったいないと感じちゃうレベルの、美人。あと巨乳。(ちなみに巨乳と評したのは玲緒奈だから!)
しかも授業は面白くてわかりやすいし、休み時間には生徒に構ってくれるし、ちゃんとやってたらやった分評価してくれるいい先生。ちょっと頑固で融通が効かないところがあったりするけど、それでもなお、英語を担当してる2年生全員から好かれてるだろうなーって感じがする。実際、英語って科目が大嫌いな玲緒奈も慕ってるしね。
とまあ、結構人気のある先生なわけだけど、そんな先生の家に入れたりするとか……。
私はちょっとドキドキする。
そこで、夏希の言葉が脳裏を過ぎった。
『だって、お前レズじゃん』
違う。ドキドキしてるのは、教師っていう生き物のプライベートに侵入できてる、ちょっとした好奇心みたいなもの。断じて先生が女性で、それも美人だからって理由ではない。断じて!
私は湯船からすくいとったお湯に顔をざぶんとつける。
てか、いつまで引きずってんの、私。
夏希がノンデリなのはいつものことだし。しかもさっき、虎の威を借る狐みたいな感じで夏希の名前を利用したばっかじゃん。なっさけな。
私は湯船から出て、浴室を後にする。
わかりやすい場所に置かれているバスタオルを手に取ると、体の水分を簡単に拭き取る。カゴの中に替えの新品っぽい下着、それからたぶん先生のなんだろうなーっていうパジャマが入れられていたので、ありがたく着させていただいて……。
「先生、お風呂いただきましたー」
先生も結構雨で濡れちゃってたし、私が遅かったら風邪ひいちゃうかなーと気を使って早めに脱衣所から出ると。
「ただいまー!! いやー疲れたー、私を癒して綾乃〜〜〜!!」
玄関から入ってきたやけにテンションの高い美人が、私の存在に気づくことなく前を通り過ぎていく。
そして「あさひ!? 帰ってこれないんじゃなかったの!?」と驚いた声をあげる高槻先生を、黙らせるようにぎゅーっと抱きしめて。
そして、
「ん、んむっ!?」
高槻先生の唇を、奪った。
……え?
しかも、それで終わらない。
謎の美人が高槻先生の口の中に舌を入れる。
高槻先生は肩を押して抵抗するけど、なにそれそういうプレイ?と楽しむように腰を抱いて逃がさない。ついでとでも言うようにおしりまで揉まれている。
「ん、ふぁ、はふ……あ、あさひっ」
「ん〜」
にゅる、ぬぷ、ちゃぷ、といやらしい水音が私の耳朶を叩く。
高槻先生と目が合った。頬を真っ赤に染めて、見ないでって目で訴えかけてくる。
私はなんだか変な気分になっちゃって、いつもなら「何してんの!?」とか止めていただろうに、じっと見入っちゃっていた。
しばらく口内を蹂躙された高槻先生は、腰がくだけちゃったみたいで、謎の美人に全体重を預けてる。
美人は嬉しそうに目を細めて、先生の口をいじめながらその手を下に────
ってところで、私はハッと我に返る。
「あ、あのぉ…………」
めちゃくちゃ気まずい中、申し訳なさいっぱいで声を出す。
すると美人はえ!?って顔で慌てて振り返った。高槻先生と美人の唇の間を、銀色の橋が伝う。エロ……。
高槻先生はぐったりとして、美人に体重を預けたままだ。……仕方ない。私は困惑した様子の美人と目を合わせて問い詰める。
「わ、私、帰った方がいい……ですかね?」
「だ、誰ぇ!? 浮気!? 綾乃ー!?!?」
でぃーぷなキスで高槻先生の体力を奪った犯人であるはずの美人は、高槻先生の背中をバシバシ叩きながら尋ねる。
ほぼ生気を失った高槻先生から、「ばかぁ……」という声が漏れたのが、微かに聞こえた。
ご覧いただきありがとうございます。
新キャラ登場です。女教師大好き……何故ならエロいから……
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