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悪役令嬢はエンディング後の生活を満喫する。~おひとりさまには飽きたのでペットと村人を拾いました~  作者: 中野森


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第2話 悪役令嬢は断罪されて歓喜した

 卒業式の会場に一歩足を踏み入れると、いくつもの視線が突き刺さった。


「やだ、エルザ様、今日もおひとりよ」


「よく平気な顔していられるわよね。わたしなら耐えられないわ」


「内心、気が気でないんでしょう。マリアさんへの嫌がらせ、エスカレートしてるらしいわよ」


 私は聞こえないふりをして、微笑みを浮かべながら歩みを進める。


「みました? あの顔。性格がにじみ出てるわ」


「近づかないようにしましょう……」


 ただ笑みを浮かべただけなのに、失礼しちゃうわ。

 少し釣り目がちなこの顔は生まれつきだった。

 マリアが登場するまでは、あんなに私にすり寄ってきていたくせに。


 まぁいいわ。あと少しの我慢よ。

 私は静かに、その時を待ち続けた。


 そして会場に、ひときわ大きな歓声があがる。

 王太子アルフレッドとマリアが入場してきたのだ。


 アルフレッドは得意げに手を掲げ、群衆の称賛を浴びている。

 私の前を通りかかったとき、彼はおおげさに鼻を鳴らした。

 その隣で、マリアがわざとらしく腕にしがみつき、震えてみせる。


「ごきげんよう。今日もお二人は仲睦まじいですね」


「ふん、白々しい。貴様がそうしていられるのも今日までだ」


「あら? そうなんですの?」


 断罪イベントが予定どおり開始したのだとわかり、思わず声が弾んだ。


「みなにも聞いてもらいたい!」


 アルフレッドは大声で宣言し、怯えたふりをするマリアを連れて壇上へと上がった。

 本来は開式の挨拶をするためのマイクを勝手に使い、声を張り上げる。


「エルザ・グラシエラ! 貴様は公爵令嬢という立場を利用して、幾度となくマリアに悪事を働いてきた!

 ここにいるすべての者が、貴様の行いを証言している!」


「すべての者、ですか?」


 断罪されることは甘んじて受け入れるつもりだ。

 けれど、どんな“悪事”を捏造されているのか、少し興味がわいた。


 試しに目が合った青年に問いかける。


「……では、そこのあなた。わたくしがどんな悪事を働いたのか教えてくださる?」


 突然指名された青年が、たどたどしく答え始めた。


「マ、マリア嬢の鞄を……広場の噴水に投げ捨てていたと聞いた!」


「それはひどい行いですね。……“聞いた”、ね」


 今度は、関わりたくないというように目をそらしている少女に話しかける。


「ではそこの桃色のリボンが素敵なあなた。そう、あなたはどうかしら」


「わ、私が聞いたのは……マリアさんの机にひどい言葉を書いたと」


「ふぅん、下劣な行いね。そしてあなたも“聞いた”と。……この中に、わたくしが実際に行っているところを見た方はいらっしゃいますか?」


 互いに顔を見合わせるばかりで、一向に名乗り出る者はいなかった。


「いまさら白を切るつもりか!」

 アルフレッドが顔を真っ赤にして怒鳴る。


「一応弁明させていただきますと、身に覚えのないことですので。

 そもそもマリアさんの教室がどこにあるのかも存じ上げませんし」


 実際、校舎は高位貴族と低位貴族で分かれている。

 マリアがいる校舎には、近づいたことすらなかった。


「ひどいわ! 公爵令嬢だからって、馬鹿にするのね!」

 マリアが大げさに泣き崩れ、周囲の同情を誘う。


「この期に及んでマリアをいじめるとは、なんてやつだ!

 そもそも、彼女を突き飛ばそうとしたという、言い逃れできない事実があるだろう! 悲鳴を聞いた者が大勢いるんだ!」


 ……アルフレッド様って、ここまで馬鹿だったかしら?


「怪我をしたのはわたくしなのですが……」

 誰にも聞こえないほどの声でぼやく。


 彼も“強制力”の影響下にあるのかもしれない。

 いいえ、彼だけではない、この場にいる全員、正常な思考が働いているとは思えない。

 この世界そのものが、シナリオを遂行するための“強制力”に支配されていると思えば腑に落ちた。


 私も、前世の記憶を思い出さなければこの異様さに気づけなかっただろう。


「これまでの振る舞いから、王太子妃を務められる器ではないことは明白だ。貴様との婚約を破棄する!

 さらに、本来模範となるべき公爵令嬢が、この国の品位を貶めるような行いをした罪は重い。

 よって貴様を――この国から遥か離れた『未開の島アイル』への流刑とする!」


 アルフレッドの宣告に、会場中がざわめいた。


「そんなぁ~! エルザ様がかわいそうです!」


「なんて優しいんだ、マリア……。だがこうしなければ、将来王太子妃となる君の命が危ない!」


「まぁ、あたしが王太子妃だなんてっ!」


 マリアが、私にだけ見えるようにニヤリと笑う。


「アルフレッド様、この決断は、国の総意と考えてよろしいのでしょうか?」

 私は万歳したい気持ちを必死に押さえ、淡々と問いかける。


「ふん、当たり前だろう。父上にも許可を取ってある!」


「でしたら、何も申し上げることはございません。――謹んでお受けいたしますわ」


「ずいぶんあっさりと受け入れるのだな。何を企んでいようが無駄だ。おい、逃げられぬよう連れていけ!」



 アルフレッドの一声で、騎士たちが動き出す。

 腕をつかまれ、会場外に待機していた質素な馬車へと押し込められた。


 そのまま無言で動き出し、馬車は石畳を揺れながら進んでいく。


 やがて馬車が止まると、私は地下の薄暗い部屋へと連れていかれた。

 おそらく、罪を犯した貴族を入れるための牢だろう。


 騎士たちの姿が見えなくなったところで、見張りに気づかれぬよう小さくガッツポーズした。


 ――ここまでは、予定通りね。


 冷たい部屋の中、私の心だけが熱を帯びている。

 この先に待つ“自由”を思えば、寒さなどどうということはない。


 ……はやく島に連れて行ってくれないかしら?


 そんなことを考えていると、足音が近づいてきた。

 護衛を引き連れたアルフレッドだった。


「このような場所で笑っているとは、気が触れているという噂は本当のようだな」


「王太子様、わざわざお越しいただきありがとうございます」


「これが最後だから慈悲をくれてやる。何か言い残すことはあるか」


「言い残すこと……」


 もしかしたら、この先――エンディングのその後、

 この世界がシナリオの“強制力”から解放される瞬間が来るのかもしれない。

 そのとき、人々は何を思うだろう。後悔するのだろうか。


「わたくしのことは忘れて、健やかにお過ごしください」


 私は死なずに、生き抜くつもりだ。後悔など不要。

 自由に生きるので、みんなも気にせず生きてくれればいい。


「そう、わたくしの家族に伝えていただけますか」


 家族だけではなく、目の前のこの男にも向けた言葉だった。

 けれど今の彼に、届くはずもない。

 もし正気に戻ることがあれば、その時に思い出してくれればいい。


「良いだろう。……明日の朝にはお前はこの国から出て行ってもらう。せいぜい最後のひとときを噛みしめると良い」


「寛大なお心、感謝いたします」


 アルフレッドが立ち去ると、静寂が訪れた。

 牢の中には月光が差し込み、淡く床を照らしている。


 ――この国には、もう戻らない。


 鉄格子の窓越しに見える月を、私は目に焼きつけた。

 それは、これから訪れる未来への希望のように輝いていた。

読んでくださりありがとうございます!

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