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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第三章 風の国編

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第85話 フォルテ ―白光―

 

 皆がざわつく会場の下。急なゲリラのライブの準備に奔走(ほんそう)するスタッフたちの声が飛び交う。

「舞台装置、照明、音響……すべて準備完了しました!」

「ありがとうございます!」


 その声に応じたのは、マネージャーのエイーダだった。

 緊急開催という無理なスケジュールにもかかわらず、スタッフは誰一人文句を言わなかった。


「……私たちも、エアリアの歌を信じていますので!」


 そのスタッフの言葉に、エイーダの瞳が熱を帯びる。


 そして、立っていた少女が一歩前へ進んだ。

 エアリア――。

 “彼女”は、派手な衣装を纏いながら、毅然と前を見据えて言った。


「当然よ。――私は、私達はまだ終わらない!」



 * * *



 開演を待つ会場――


 一人会場の最上にいた俺は、視線の端に“見覚えのある後ろ姿”を見つけた。


 服装や髪型は違うが、その深緑の長髪。身長、体型。そして、左の手首に巻かれた特徴的な掘りの銀のバングル。

 俺が“一度見たら”忘れるものか。


(アイツ……)


 人混みを縫ってその男の方へ向かい、観客に紛れて立つその男に声をかける。


「昨夜はどうも」


 その一言で、男の肩がぴくりと動く。

「……お前。昨日の甘ちゃんじゃねぇか。よく俺を見つけられたな」


「そんなことはどうでもいい。いったいこんなところでなんのつもりだ? まさかライブを楽しむため、なんて言わないよな?」


 男は苦笑した。

「おいおい、ここはライブ会場だぜ? あの嬢ちゃんの最後かもしれないステージを、台無しにする気か?」


 俺は続けた。

「……目的はなんなんだ。昨日のことを新聞社に売ったのはお前だな?」


「さぁな。お前、熱くなりすぎだぜ? 俺は今日は“客”。俺達がここで暴れたりしたら、被害が出るのは観客と今日のライブそのものだ」


 俺の拳が、無意識に握られていた。

「いいから目的を言うんだ」


「ったくこれだからガキは。金だよ。それと……退屈しのぎ。俺は雇われて動いていただけさ。レイとかハクとか、正直俺は詳しくは知らねぇ。……が、そういう連中がやりあってくれる分には個人的に面白くて都合がいいってだけさ」


「……っ!」


「ま、俺を殴ってもいいぜ? だが、無抵抗の男を殴れば、お前は牢獄行きだ」


 俺はじっと男をにらみつけていたが、やがて握った拳をほどいた。


「やっぱ、お前は“そういう奴”だよな。……甘い。甘いけど、俺はそういうの嫌いじゃねぇぜ」

「……」


 男は観客の波に紛れていった。


 それと同時に――


 会場の照明がスッと落ち、スポットライトがステージ中央を照らす。


「もう時間か」


 ゆっくりと、碧――いや、“エアリア”がステージの上へと上がってくる。


 だが今回は、前回のような歓声は上がらなかった。

 まるで誰もが言葉を失っているかのように、思い思いの表情で静かに彼女を見つめていた。


 ノエルは客席で思わずつぶやいていた。


「……エアリア……」


 一方、俺は先ほどの男との接触の余韻が消えないまま、最上段でステージを、彼女を見下ろしていた。


 さっきの情報屋の男。目的はただの“金”と、“個人的な愉悦”だった。

 タチは悪いがここでエアリアが上手くやれば、上手く汚名返上も狙える。


 そんな考えを巡らせながらも、俺は視線をステージに戻す。


 そこには、照明を一身に受けながら、微動だにせず立つ“歌姫”としての姿があった。


 ステージ中央――


 彼女を取り囲むように円形の客席。そこから向けられる無数の視線。


 いつもなら――

 それは歓喜や憧れの眼差しだった。


 だが今は違う。疑念、不安、戸惑い。

 それらが混ざった“刺さるような視線”に、彼女は晒されていた。


 エアリアはステージから周囲を見渡す。


 彼女は思った以上のプレッシャーに目を伏せかけたその時、ふと顔を上げる。

 最上段、広報スペースに立つ黒髪の青年――黒瀬凪の姿を見つける。


「……来たんだアイツ。私に関わるなって言ったのに……」

 誰にもわからないほどわずかな笑みを浮かべて、そうつぶやく。


 その彼女の様子を見守っていたマネージャーことエイーダが、舞台袖からそっと声をかける。

「――頑張って。エアリアなら大丈夫。アナタの“本当の姿”を、歌で届けて」


 エアリアは静かに、深く息を吸った。


 ステージの中央。エアリアが拳を握り、まっすぐに前を見据え、そして語る。


「みんな! 今日は急なライブの開催なのに、来てくれて本当にありがとう! そして……不安にさせて、ごめんなさい!」


 その声が、静まり返った会場に響いた。


 誰もがその言葉に耳を傾けていた。

 彼女にいつもの華やかさはない。けれど、その分、彼女の“素”がむき出しだった。


「私は……歌が好き――。それを聞いてくれるみんなも好き! だから、この歌で私の世界を変える。今日も、明日も、ずっと!」


 宣言のような叫びと共に、曲のイントロが始まる。


 昨夜のような舞台装置も、光の演出もない。

 だが彼女の声は、まるで風のように、客席の隅々まで届いていた。


 ――まだ、歓声はない。

 けれど観客は確かに、立ち尽くし、目と耳、そして心を彼女に奪われていた。


 偽物などと囁かれた姿は、今ここにいない。

 いるのはただ、必死に思いを歌う、一人の少女――


 俺はその光景に見惚れながら、息を呑んだ。


「……やっぱ、すごいよ……君は」


 歌姫は一曲を歌い終えると、深く息を吸い、笑顔で前を向いた。


 まるで、嵐を超えた後の青空のような笑みだった。


 客席のウィンは腕を組みながら唸る。

「この空気の中で……よく。大した根性だな」


 隣でノエルがうなずいた。

「うん! やっぱり本当に……すごい……。」


 観客たちの表情も、安堵に変わり始めていた。

 疑念や不安の雲が、少しずつ晴れていく。


 だが――その瞬間だった。


 最上段の俺の位置から見える、会場の真向かい。

 向こう側の最上段の上から、“黒い奔流”見えた。


「あの黒い光は……!」

 俺には迷う暇はなかった。


 俺は白の力を天に向かって放出した――


 そう、これは事前に決めたリルとの合図。


 会場に持ち込めない魔封剣(俺の剣)

 もしもの時のために、リルにこれを合図として俺に魔封剣を届けてもらう。


 会場の屋根は解放されていて上空からなら自由に出入りできる。羽を持つ妖精なら難しくはない。


 黒の力の波動は放たれた。――ステージ上のエアリアを狙って。


「ナギっ! お待たせ!」


 リルは重そうに運んできた魔封剣を俺に向かって落とした。


 ――俺はそれをしっかりと掴んだ。

「ありがとう、リル!」

 俺は鞘から抜刀し、そのまま流れるように魔封剣を変身させた


魔封剣(まふうけん)全開放(オーバードライブ)!」


 魔封剣はその封印を解き放ち、“白の力”を纏って輝く。


「アタシも力を貸すよナギ!」

「頼む!」

 リルは魔封剣の中の透明の魔法石中へ消えた。


 風を裂く音とともに、俺は剣を前方に突き出す。


「間に合えぇぇぇ! ≪魔封剣(まふうけん)浄閃光(ピュリファイ・レイ)≫――ッ!!」


 向かいの最上段から放たれた黒い衝撃波――

 まるで呪いのように、ステージの中心の彼女へと向かっていた。


 その軌道に対照的な“白い衝撃は”がエアリアの上空で真正面からぶつかる!


 白と黒――


 光と闇――



 空中でそれが衝突したその瞬間、

 眩いグレーの色の閃光と共に轟音が会場全体を包んだ。


「キャーー!」

「うあぁ!」


「この光は!?」

 エアリアが目を見開く。


 衝撃波はまるでお互いを打ち消し合うようにして、霧散した。


「間に合った……!」


 俺は汗を拭う暇もなく再び走り出した。


 観客席にはざわめきが走っている。


「え? 今のって演出じゃないの?」

「いや、どう見てもおかしくないか!?」

「上から降りてきてるの誰!?」


 人々の視線が一斉に階段を駆け下りる俺の背に向く。


 だが、俺の眼にはもう観客など映ってはいなかった。

 ただ、守るべき彼女――エアリアの元へ。


「なんだあれ! 何が起こった!?」

 観客席で、ウィンが叫んだ。


 ノエルが指を差す。

「お兄ちゃん! あそこ……凪さんだよ!」

「凪の奴、エアリアを守ったってことか」


 観客たちのどよめきが渦を巻くように広がる。

 関係者も対応が遅れ、ステージ周辺は一瞬パニックに包まれた。


 そんな中、俺は迷わずステージへと駆け、エアリアの前で立ち止まる。


「無事か!?」

黒瀬(くろせ)……! 今のはいったい」


「最上段から“黒の力”を撃ったやつがいた。そいつが――!」


 俺が言い終える前に、観客席の上から“拍手”が聞こえた。


「いやぁ~。なかなか楽しいショーだったぜ」


 その声と共に、一人の男が下りてきた。


 白の髪、そして同色の瞳。

 目を引くのは彼の肩に斜めに担がれた、死神を思わせる大鎌。

 髪が風に揺れ、好戦的で歪んだ笑みが顔を歪ませている。

☆今回の一言メモ☆

リルがいい感じに凪をサポートしてくれるので、非常に動きやすくなりました。魔封剣を手に入れてからは凪がちゃんと戦えるようになってきているので、頼もしく感じます。

次回からはゼロではない、新キャラとの闘いが始まります。

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