第66話 兄妹と姉妹
そのころ、サフィール家の屋敷では――。
ミーナがレイのいる部屋をノックするが、返事がない。
「レイさん。起きてますか? 入りますね」
ガチャ。
ミーナが部屋に入ると、レイはベッドの端に座って俯いていた。
「あ、ミーナちゃん……」
「気分はどうですか?」
「うん、ごめんね。あれからずっと、私、ウジウジしちゃってて……」
ミーナは静かに首を横に振った。
「私は経験がないですけど、記憶がないってきっと怖いと思うので。仕方ないですよ」
ミーナは手に持ってきた包みをレイに渡す。
「はい。どうぞ」
目を丸くしたレイは白い瞳を輝かせてそれを受け取った。
「これは?」
「おにぎりです! 今作ってきました。レイちゃん、朝ごはんまだですよね。ここで一緒に食べましょう!」
二人はそのおにぎりを頬張った。
「おいしい……!」
「ふふふっ」
ミーナはレイが食べるその姿を見て微笑んだ。
「どうしたんですか? ミーナちゃん」
「いえ、なんだか……やっぱりナギさんに似てるなって」
「そう?」
「はいっ!」
「お兄ちゃんは……優しい人なので、私を待ってくれてる。そしてきっとあの人は、私がどんな答えを出しても肯定してくれるんだと思う」
ミーナは真剣な面持ちになり、レイを見つめながら彼女の話を聞いていた。
「記憶のある時の私は、ハクっていう"もう一人のお兄ちゃん"の傍にいた。多分、長い間この世界で一緒にいたんだよね」
「ですね……」
「でも、どういう巡り合わせか、地球っていう世界から来たもう一人のお兄ちゃんが、この世界のお兄ちゃんと戦うことになって……」
「はい……」
「ミーナちゃん、私、怖いの。私は今のお兄ちゃんが大切。でも、もし記憶が戻ったら、それが逆転してしまって……お兄ちゃんやミーナさんも傷つけてしまうかもしれない」
「……それは、そうなのかもしれません」
「だったら私……! 今からノートっていう、私が仲間だった人の元に戻った方がいいのかなって……!」
「レイさん……」
レイは俯いた。
ミーナはしばらくレイを見つめると――。
「私はいろんな人に将来、この国の王女になれ――って、ずっと言われ続けて育ちました。でも、私には諦めきれないひとつ夢があります」
俯いていた顔を少し上げるレイ。
「夢……?」
ミーナは堂々とした瞳で語った。
「はい。私、この足で世界中を渡り歩いて、この目で世界中を見て回りたいんです」
堂々と語るその姿を、レイはじっと見つめていた。
「実は、ついこの間まで、こんなことは無理だと思ってたんです。ずっと一人で地下の部屋で空想していただけだったんです。でも……ナギさんと出会って、教えてもらったんです」
「お兄ちゃんと?」
「はい。この世界は、本当はすごく“単純”なんです。やりたいと思ったことを、やればいいんだってことを――私はナギさんに教わりました」
「やりたいと思ったことを……やる」
「レイさんが、『今』、本当にやりたいと思ってることは何ですか?」
少しの沈黙のあと、彼女は答えた。
「……私、どっちのお兄ちゃんのことも大事。だから、どっちのお兄ちゃんにも仲良くしてほしい。だから――今は、今のお兄ちゃんについていく」
「ほら、単純です!」
* * *
「さぁ、ナギの兄ちゃんをハチの巣にしちゃえ!!」
――グレイスのランスが俺に向かって飛来する。
(だけど目で見える攻撃なら、対処のしようはある!)
俺は魔封剣を振るって、その鋭い突進を打ち払うと、すかさず左手をランスに向けて"白の力"を放った。
それを見たグレイスが言った。
「……そうか。結局、あの術も前に操っていた"ゴーレム"や"アクアコントローラー"と同じだ。魔力で動く魔道具なら、あの白の力で封じられるはず……!」
グレイスの言った通りだ。魔法石に宿る力を媒体にして動くなら、俺の"白の力"が干渉し無効化できる。
だが――
俺の放った光を浴びても、ランスはまるで何もなかったかのように動きを止めることなく、そのまま俺の脇腹を切り裂いた。
「うぐぁっ!」
激痛とともに、俺の身体は地面を転がった。
「凪っ!!」
グレイスの叫びが響く。
必死に魔封剣を杖代わりにして立ち上がる。
「……な、なんで……止まらない……?」
すると、笑いをこらえていたノートが、堪えきれず吹き出した。
「アハハハハ! おっかしいなぁ! 前回のはただのお遊びだったんだよ? 二人が途中で邪魔しにきただけでね!」
ノートは無邪気に笑うと続ける。
「でも今回は違うよ。オイラ、本気でナギの兄ちゃんを殺すつもりでこの力を使ってるんだもん! そんなんで、オイラの《魔導操縦術式・パペットハンド》は止められないよ!!」
グレイスのランスが再び俺を殺すために宙を舞い、俺の周囲を旋回し始める。
そのスピードも、パワーも――前回とは比べ物にならない。
俺は必死で斬撃を弾き返しながら、思考を巡らせた。
(白の光が……通じない……!? いや、違う。ノートの“本気”は、それだけ強く黒の力を練り込んで操ってるってことか……!)
もし、ここで俺が倒れたら……そこにいるグレイスはもちろん、この街全体が再び危機にさらされる――。
そんなこと、絶対にさせない……!
――かすかに魔封剣の刀身の繋ぎ目に光が走る。
☆今回の一言メモ☆
ミーナがレイを前を向かせるためにとった行動は、以前に彼女自身が凪にしてもらった行動です。彼女は言動以上に賢い女の子です。
ちなみに、タイトルの兄妹は凪とレイを、姉妹はグレイスとミーナを現しています。え?それがどうしたって?




