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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第二章 水の国編

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第66話 兄妹と姉妹

 

 そのころ、サフィール家の屋敷では――。


 ミーナがレイのいる部屋をノックするが、返事がない。


「レイさん。起きてますか? 入りますね」


 ガチャ。


 ミーナが部屋に入ると、レイはベッドの端に座って俯いていた。


「あ、ミーナちゃん……」


「気分はどうですか?」


「うん、ごめんね。あれからずっと、私、ウジウジしちゃってて……」


 ミーナは静かに首を横に振った。

「私は経験がないですけど、記憶がないってきっと怖いと思うので。仕方ないですよ」


 ミーナは手に持ってきた包みをレイに渡す。

「はい。どうぞ」


 目を丸くしたレイは白い瞳を輝かせてそれを受け取った。

「これは?」


「おにぎりです! 今作ってきました。レイちゃん、朝ごはんまだですよね。ここで一緒に食べましょう!」


 二人はそのおにぎりを頬張った。


「おいしい……!」


「ふふふっ」

 ミーナはレイが食べるその姿を見て微笑んだ。


「どうしたんですか? ミーナちゃん」


「いえ、なんだか……やっぱりナギさんに似てるなって」


「そう?」


「はいっ!」


「お兄ちゃんは……優しい人なので、私を待ってくれてる。そしてきっとあの人は、私がどんな答えを出しても肯定してくれるんだと思う」


 ミーナは真剣な面持ちになり、レイを見つめながら彼女の話を聞いていた。


「記憶のある時の私は、ハクっていう"もう一人のお兄ちゃん"の傍にいた。多分、長い間この世界で一緒にいたんだよね」


「ですね……」


「でも、どういう巡り合わせか、地球っていう世界から来たもう一人のお兄ちゃんが、この世界のお兄ちゃんと戦うことになって……」


「はい……」


「ミーナちゃん、私、怖いの。私は今のお兄ちゃんが大切。でも、もし記憶が戻ったら、それが逆転してしまって……お兄ちゃんやミーナさんも傷つけてしまうかもしれない」


「……それは、そうなのかもしれません」


「だったら私……! 今からノートっていう、私が仲間だった人の元に戻った方がいいのかなって……!」


「レイさん……」


 レイは俯いた。


 ミーナはしばらくレイを見つめると――。


「私はいろんな人に将来、この国の王女になれ――って、ずっと言われ続けて育ちました。でも、私には諦めきれないひとつ夢があります」


 俯いていた顔を少し上げるレイ。

「夢……?」


 ミーナは堂々とした瞳で語った。


「はい。私、この足で世界中を渡り歩いて、この目で世界中を見て回りたいんです」


 堂々と語るその姿を、レイはじっと見つめていた。


「実は、ついこの間まで、こんなことは無理だと思ってたんです。ずっと一人で地下の部屋で空想していただけだったんです。でも……ナギさんと出会って、教えてもらったんです」


「お兄ちゃんと?」


「はい。この世界は、本当はすごく“単純”なんです。やりたいと思ったことを、やればいいんだってことを――私はナギさんに教わりました」


「やりたいと思ったことを……やる」


「レイさんが、『今』、本当にやりたいと思ってることは何ですか?」


 少しの沈黙のあと、彼女は答えた。


「……私、どっちのお兄ちゃんのことも大事。だから、どっちのお兄ちゃんにも仲良くしてほしい。だから――今は、今のお兄ちゃんについていく」


「ほら、単純です!」



 * * *



「さぁ、ナギの兄ちゃんをハチの巣にしちゃえ!!」


 ――グレイスのランスが俺に向かって飛来する。


(だけど目で見える攻撃なら、対処のしようはある!)


 俺は魔封剣を振るって、その鋭い突進を打ち払うと、すかさず左手をランスに向けて"白の力"を放った。


 それを見たグレイスが言った。


「……そうか。結局、あの術も前に操っていた"ゴーレム"や"アクアコントローラー"と同じだ。魔力で動く魔道具(まどうぐ)なら、あの白の力で封じられるはず……!」


 グレイスの言った通りだ。魔法石に宿る力を媒体にして動くなら、俺の"白の力"が干渉し無効化できる。


 だが――


 俺の放った光を浴びても、ランスはまるで何もなかったかのように動きを止めることなく、そのまま俺の脇腹を切り裂いた。


「うぐぁっ!」


 激痛とともに、俺の身体は地面を転がった。


「凪っ!!」


 グレイスの叫びが響く。


 必死に魔封剣を杖代わりにして立ち上がる。


「……な、なんで……止まらない……?」


 すると、笑いをこらえていたノートが、堪えきれず吹き出した。


「アハハハハ! おっかしいなぁ! 前回のはただのお遊びだったんだよ? 二人が途中で邪魔しにきただけでね!」


 ノートは無邪気に笑うと続ける。

「でも今回は違うよ。オイラ、本気でナギの兄ちゃんを殺すつもりでこの力を使ってるんだもん! そんなんで、オイラの《魔導(まどう)操縦(そうじゅう)術式(じゅつしき)・パペットハンド》は止められないよ!!」


 グレイスのランス()が再び俺を殺すために宙を舞い、俺の周囲を旋回し始める。


 そのスピードも、パワーも――前回とは比べ物にならない。


 俺は必死で斬撃を弾き返しながら、思考を巡らせた。


(白の光が……通じない……!? いや、違う。ノートの“本気”は、それだけ強く黒の力を練り込んで操ってるってことか……!)


 もし、ここで俺が倒れたら……そこにいるグレイスはもちろん、この街全体が再び危機にさらされる――。


 そんなこと、絶対にさせない……!


――かすかに魔封剣(まふうけん)の刀身の(つな)ぎ目に光が走る。


☆今回の一言メモ☆

ミーナがレイを前を向かせるためにとった行動は、以前に彼女自身が凪にしてもらった行動です。彼女は言動以上に賢い女の子です。

ちなみに、タイトルの兄妹は凪とレイを、姉妹はグレイスとミーナを現しています。え?それがどうしたって?

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