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白黒の英雄 ~ちょっと記憶力の良い俺が、魔法を無効化しながら異世界を救う話~  作者: アキラ・ナルセ
第一章 火の国編

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第28話 最短ルート。それは険しいものなんだな。

 

 次の場面では、なんとも言えないシュールな構図だった。リシアの背中には、女の子がぎゅっと抱きつき、俺とリシアの手も繋がれていた。


 ……なんだこれ


「なぁ、やっぱり二人で行ってくんない? それか……せめて、俺もリシアにしがみつかせてくれないかな?」


「何言ってるのよ、変態。」


 即座に、キレの良い視線が飛んできた。


「道がわからないあなたと離れるわけにはいかないし――なにより、その夫婦の外見を覚えてるのは、この子を除いたらアナタだけでしょ?」


 そう言いながら、リシアは空を見上げる。


「ただでさえ、こんな人混みの中で魔法を使うのは慎むべきなの。なら、サクッと終わらせるに限るわ」


「その通りです!くそ……言わなきゃよかったっ……」


 次の瞬間だった。


 リシアの足元に、赤い魔法陣が展開される。赤いポニーテールが、熱風にたなびくように揺れ、その瞳が――炎のように、紅く(きら)めく。



「“飛焔脚ひえんきゃく”。足元で攻撃用の火属性魔法を起爆させて、推進力(すいしんりょく)に変換する。攻撃魔法のちょっとした応用ね。二人ともしっかり捕まってなさい!」



 ――ドンッ!



「うおああああああああぁぁぁ!!」


 変な声が出た。思わず反射でリシアの腕にしがみつく。


「わぁーー! たっかーーーい!!」


 背中に抱きついた女の子は大喜びだった。こっちは死にそうだけど。


 視界が一気に開けた。


 夜空と、下界の光が()りなす鮮やかな世界。魔法石による提灯(ちょうちん)の海と、屋台と、笑い声と音楽と――祭りの全景(ぜんけい)が目の前に広がった。


「こわいけど……すげぇ……」


 風を裂く音。

 爆炎(ばくえん)の余熱。

 迫りくる展望台(てんぼうだい)の足場――


 そして、



 ――トンッ。



 軽やかな着地とともに、俺たちは大炎柱たいえんちゅうの中腹にある足場へと降り立った。真上では、巨大な炎が今も空に向かって燃え続けていた。その熱が、じわじわと身体に伝わってくる。


「……きぼじわるい……」


 俺はその場にへたり込みそうになった。


「だらしないわね」



 リシアは呆れながらも、どこか楽しそうに笑う。だが、すぐさま視線を広場に向けて――


「……どう? ここからなら見える?」


「うーん……どこかなー?」


 女の子が身を乗り出し、あちこちをキョロキョロと見渡している。俺も、若干浮きそうな胃を抑えつつ、目を凝らす。


(さっきの記憶――南の通り、赤い護焔の輪……)


 映像記憶(えいぞうきおく)が再生されるように、記憶の断片が繋がっていく――


「――いた!! あれじゃないか!?」


「どれどれー?」


「南側の通りの突き当たり! 時計台の下! あのちょっと古めのやつ!」


「あっ! あたしが見たいって言ってた大きな時計のとこー!」


 少女の顔がぱぁっと輝いた。


「よし、行こ――」


 ……と言いかけて、俺は思わず黙った。


「ま、また空から……行くの?」


「当然でしょ。」


 そう言いながら、リシアは再び足元に魔法陣を展開しはじめる。


「はい、しっかり掴まって」


「心の準備が――ってうわあああああぁ!!」




 ◇ ◇ ◇




「おかーさーん!!」


 少女は弾けるように駆け出していった。


「良かった……アイ!」


 母親がしゃがみ込んで娘を抱きしめる。父親は、俺たちの前で深く頭を下げた。


「……リシア様、本当にありがとうございます。なんとお礼を申し上げればよいか……」


 その腕には、焔狐(ほむらぎつね)のお面と赤い護焔の輪(ごえんのわ)。若い夫婦の姿に、安堵の空気が流れた。


「いえ、アイちゃんが無事に帰れたならそれで十分です」


 リシアは(りん)としながらも、どこか優しい声で答えた。


「いやー……よかったな」


 俺も安堵(あんど)の息をつきながら(うなづ)いたけど、多分まだ顔色は青い。


 家族は手を繋いで、人の中へと戻っていく。


 おれたちはその家族を見守っていた――。

☆今回の一言メモ☆

この世界で戦う多くの人達は剣なら剣、魔法なら魔法のどちらかに戦闘スタイルが寄ることが多いです。しかし、その点リシアは剣で戦いながら高度な魔法を同時に使用できるという特異性をもってます。


また、凪が乗り物酔いする点は、序盤にリシアが操る飛竜に乗った時にもありましたね。彼がこういったコミカルなパターンの可愛そうな出来事に遭っているときは楽しくなっちゃいます。

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